ROEが高い・低い・マイナスの読み方とは?水準だけで判断しない見方を元機関投資家が解説
出所:モニクルリサーチ
執筆者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
10:03
ROEが高い・低い・マイナスの読み方とは?水準だけで判断しない見方を元機関投資家が解説
出所:モニクルリサーチ

この記事はここがポイント

  • ROEは数字の高低だけでなく、デュポン分解と同業比較で「理由」を見抜くのが本質である。
  • 高ROEは本業か市況ピーク(アドバンテスト57.6%)、低ROEは健全財務(村田製作所8.8%)など多様な要因がある。
  • マイナスROEは赤字だが、債務超過でROEが見かけ上プラスになる「罠」に注意が必要である。

「ROEが高い会社を選べばいい」——投資の入り口で、そう教わった方は多いかもしれません。ですが、実際に決算書を開くと、ROEが57%を超える会社もあれば、8%に届かない会社、そしてマイナスの会社まで、じつにさまざまです。では、この高い・低い・マイナスを、私たちはどう読めばいいのでしょうか。ROEの基本は「ROEとは?自己資本利益率の意味・計算式・目安からROA・ROICとの違い・デュポン分解まで」で解説していますので、本記事ではその一歩先、水準ごとの「読み方」を、実例とともにみていきましょう。

ROEは「高い・低い」だけでは判断できない

結論を先に言えば、ROEは数字の高低だけで良し悪しを決められません。なぜなら、同じ「ROE10%」でも、その中身がまるで違うからです。本業の利益率で稼いだ10%と、借金を膨らませて見かけ上かさ上げした10%とでは、質が正反対です。

だからこそ、ROEを見たら「なぜその水準なのか」を必ず問う。その道具になるのが、ROEを3つに分ける「デュポン分解」です。ROEは「売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ」に分解でき、このどの要素が効いているかで、数字の意味が変わります。分解の詳しい読み方は「デュポン分解とは?ROEを3つに分解して『稼ぐ力の中身』を見抜く方法」をご覧ください。では、高い・低い・マイナスの順に、読み方を見ていきましょう。

高いROEの読み方——本業か、借金・市況ピークか

ROEが高いとき、まず確かめたいのは「その高さがどこから来ているか」です。パターンは大きく3つあります。

一つ目は、本業の利益率が高くて稼いだROE・・・これが最も質の高いタイプで、稼ぐ力そのものが強い証拠です。

二つ目は、借金や自社株買いで自己資本を圧縮し、財務レバレッジで押し上げたROE・・・手っ取り早い一方、財務リスクを抱えた「砂上の楼閣」になりがちです。

三つ目が、市況の絶頂で一時的に膨らんだROEです。

三つ目の典型が、半導体の検査装置を手がけるアドバンテスト<6857>でした。2026年3月期のROEは57.6%と驚異的でしたが、これはAI半導体ブームの絶頂を映した数字で、実力値そのままではありません(「アドバンテストはROEが57.6%。AI半導体ブームの絶頂とサイクルという宿命」を参照のこと)。市況が一巡すれば、ROEも大きく下がる可能性があります。高いROEほど、それが本物か、一時的な追い風かを疑うことが肝心です。

逆に、高収益でもROEが意外に「普通」の会社もあります。営業利益率50%超のキーエンス<6861>は、ROEが13.5%(「キーエンスのROEは13.5%!超高収益なのに、なぜROEは13%台なのか」を参照のこと )。稼ぐ力は世界最高水準でも、現金をため込んでいるためROEは高く出ないのです。ここが、次の「低いROE」の読み方につながります。

低いROEの読み方——「悪い」とは限らない

ROEが低いと聞くと、つい「稼げていない会社」と思いがちです。しかし、低ROE=悪い、とは限りません。低さの理由を見れば、むしろ伸びしろの裏返しであることもあります。

代表が、自己資本を「ため込みすぎ」ている会社です。村田製作所<6981>は自己資本比率が約85%と高く、財務が健全すぎるためにROEが8.8%にとどまっています(「村田製作所、ROE8.8%——『利益率の低下』と『健全すぎる財務』」を参照のこと )。

三菱電機<6503>も同様に、レバレッジが低く、ため込んだ自己資本がROEを押し下げています(「三菱電機、ROEを分解して見えた『本当の課題』」を参照のこと )。こうした会社は、増配や自社株買いといった株主還元で、ROEを一段引き上げる余地を残しています。

もう一つが、業種の構造そのものが低ROEを生むケースです。トヨタ自動車<7203>のROEは10.1%ですが、巨大な金融事業(自動車ローン・リース)で総資産が膨らむため、資産効率が低く出やすい構造です(「トヨタ自動車のROEはようやく10.1%」を参照のこと)。

総合商社の三菱商事<8058>も、資源市況の一巡でROEが8.5%へ低下しました(「三菱商事のROEは8.5%に低下」を参照のこと)。

装置産業や金融を抱える業種は、そもそもROEが高く出にくい。だからこそ、低ROEは同業と比べて読むことが欠かせません。目安と業種差は「ROEの目安は何%?業種別平均と『8%の壁』」で解説しています。

マイナスROEの読み方——赤字か、それとも「債務超過の罠」か

最後が、マイナスのROEです。ここには、見落としやすい落とし穴があります。

まず、よくあるケースです。分子である当期純利益がマイナス、つまり最終利益が赤字だと、ROEもマイナスになります。株主のお金を使って利益を生むどころか、目減りさせている状態です。ただし、この赤字が減損や特別損失による一時的なものか、本業が構造的に赤字なのかで、意味はまったく違います。一過性なら翌期に戻ることも多く、マイナスという数字だけで「危ない会社」と早合点しないことが大切です。

ここで、注意すべき「罠」があります。会社が債務超過に陥ると、分母である自己資本自体がマイナスになります。すると、赤字(分子マイナス)を自己資本(分母マイナス)で割ることになり、マイナス÷マイナスで、ROEが見かけ上プラスに転じてしまうのです。数字だけ見れば高ROEのように映りますが、実態は債務超過という危機的な状態。この場合、ROEは指標としての意味をなしません。マイナスやゼロ近辺、あるいは不自然に高いROEを見たら、まず自己資本がプラスかどうか、貸借対照表を確かめる——これが鉄則です。

高・低・マイナスに共通する読み方

3つの水準に共通するのは、「数字の裏側を、デュポン分解と同業比較で読む」という姿勢です。高ければ中身(本業か、借金か、市況か)を疑い、低ければ理由(ため込みか、業種の宿命か)を探り、マイナスなら原因(一過性か、構造的か、債務超過か)を確かめる。どの水準でも、ROEを一つの数字として鵜呑みにしないことが要です。

なお、ROEの弱点である「借金で水増しできる」性質を補うには、会社全体の効率を見るROAや、事業の実力を見るROICと併せて読むのが有効です。3指標の使い分けは「ROEとROA・ROICの違いとは?『誰の視点で見るか』で使い分ける」、低ROEを改善する道筋は「ROEを高める方法とは?デュポン分解でわかる3つの道と落とし穴」をあわせてご覧ください。

元機関投資家イズミダの視点:数字の「高さ」ではなく「理由」を読む

私がアナリストとして企業を見てきて、いちばん大切にしてきたのは、ROEの高さそのものではなく、その高さ(低さ、マイナス)の「理由」を読む、という姿勢です。

たとえば、今回出てきたアドバンテストの57%の高ROEに飛びつけば市況の天井をつかむこともあり、村田製作所や三菱商事の8%の低ROEを切り捨てれば、ため込みという伸びしろを見逃すこともある。マイナスに見えるROEが、じつは債務超過という危機のサインだったということもあります。

ROEという一つの数字も、そのまま受け取るのではなく、デュポン分解で中身に分け、同業と照らし、貸借対照表で自己資本を確かめる。この一手間をかけられるかどうかが、見かけの数字に惑わされないための分かれ目だと、私は考えています。もっとも、業種や局面で最適な水準は変わりますので、数字だけで良し悪しを決めつけないことが肝心です。

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泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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