16.8ポイントの差はどこで生まれ、どこで縮んでいるのか
では、この差はどの段で生まれているのか。損益計算書を上から順に追うと、答えは意外なほどはっきりしている。
売上総利益の段階で、すでに差はついている。2026年3月期の粗利率は、東京エレクトロンが45.3%、ディスコが70.1%。24.8ポイントの開きだ。営業利益率の差より、粗利率の差のほうが大きい。
その下の段では、逆の力が働いている。販管費の売上高比率は、東京エレクトロンが19.8%、ディスコが27.8%。ここでは東京エレクトロンが8.0ポイント低い。
粗利率で24.8ポイント離され、販管費率で8.0ポイント取り返す。残るのが営業利益率の差である。
これは直感と逆の構図だ。規模の大きい東京エレクトロンは、販管費という費用の側ではきちんとスケールメリットを出している。ところが、その手前の原価構造で、より小さいディスコに大きく引き離されている。
開発負担の重さも効いている。売上高に対する研究開発費の比率は、東京エレクトロンが11.4%、ディスコが7.8%だ。
ここで大事なのは優劣ではない。粗利で取る会社と、粗利の水準は譲っても費用の効率で詰める会社という、稼ぎ方の設計が違うという事実である。
この差が単年の偶然ではないことは、3期並べれば分かる。
2024年3月期から2026年3月期まで、両社の利益率の上下は一度も入れ替わっていない。東京エレクトロンは24.9%から28.7%へ上がって25.6%へ戻り、ディスコは39.5%から42%台に乗せてそこに居続けている。
直近の2027年3月期1Qでも、この階層は変わらない。ディスコの営業利益率は42.9%、東京エレクトロンは28.9%。差は14.0ポイントで、通期の16.8ポイントからは少し縮んでいる。
業種中央値を挟むと見えてくる、利益率とROEのねじれ
2社だけを並べると、どちらが強いかという話に落ちてしまう。第三の基準を挟んでおきたい。
東京エレクトロンが属する電気機器の営業利益率の中央値は6.7%、上位四分位でも11.4%だ。ディスコが属する機械の中央値は7.9%、上位四分位は12.4%である。
つまり25.6%も42.3%も、どちらも自分の業種の上位四分位を大きく超えている。粗利率で見ても、電気機器の中央値29.8%、機械の中央値29.6%に対して、45.3%と70.1%だ。
16.8ポイントの差は、業種の中で見れば上位のなかでの差にすぎない。ここを取り違えると、東京エレクトロンの収益性が低いという誤読が生まれる。
そして、指標を一つ替えると順番がもう一度入れ替わる。2026年3月期のROE(自己資本利益率)は、東京エレクトロンが29.6%、ディスコが25.1%。営業利益率で負けている側が、資本効率では4.5ポイント上に来る。
電気機器のROE中央値は7.4%、機械は7.8%だから、両社ともここでも業種の水準を大きく上回る。そのうえでの入れ替わりだ。
理由の一つは資産の回し方にある。総資産に対する売上高は、東京エレクトロンが0.85回、ディスコが0.59回。電気機器の中央値0.77回、機械の中央値0.68回と比べると、東京エレクトロンは自業種より速く、ディスコは自業種より遅い。
自己資本比率も東京エレクトロンが71.5%、ディスコが78.9%と、後者のほうが厚い。自己資本を厚く積めば、同じ利益でもROEは下がる。
厚い自己資本は一般に安心感につながるが、その厚みが資本効率の面で最適かどうかは、また別の論点になる。利益率の高さと資本効率の高さは、必ずしも同じ方向を向かない。
印象的なのは、この2社の差が「どちらが優れているか」ではなく「どこで稼ぐと決めたか」の差に見えることだ。
粗利で取る設計と、費用の効率で取る設計。どちらも自分の業種の上位に居続けているのだから、設計そのものに正解不正解はない。
私が気にしているのは、株価の振れ幅がこの設計の違いをほとんど見ていないように見える点だ。装置需要の見通しが強くなれば両方が買われ、弱くなれば両方が売られる。テーマで一括りにされる銘柄の典型的な振る舞いである。
だが決算を開けば、需要の波を受け止める場所が2社で違う。原価の段で厚みを持つ会社と、費用の段で効率を出す会社では、同じだけ需要が動いても利益の振れ方は変わってくるはずだ。
同じ半導体製造装置というラベルで動く株価を、稼ぎ方の設計まで降りて見分けてほしい。決算のどの段で差がついているかを毎回確かめる癖をつけると、テーマの上下だけでは説明できない部分が見えてくる。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
