この記事はここがポイント
- ROEを高めるには本業の利益率改善と資産効率向上が最も重要で、持続可能な質の高い向上である。
- 財務レバレッジによるROE向上は短期的な効果があるが、財務リスクを伴い持続性に課題がある。
- NECは利益率改善でROE13.0%を達成、三菱電機等は自己資本が多くROE向上の余地がある。
「ROEを上げるには、どうすればいいのか」——経営者にとっても投資家にとっても、これは本質的な問いです。実は、ROEを高める道筋は、たった3つに整理できます。その地図をくれるのが、ROEを分解する「デュポン分解」です。ROEの基本は「ROEとは?自己資本利益率の意味・計算式・目安からROA・ROICとの違い・デュポン分解まで」で解説していますので、本記事では、高め方の3つの道と、それぞれの落とし穴をみていきましょう。
ROEを高める3つの道——デュポン分解が地図になる
ROEは、次の3つの掛け算に分解できます。
ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
ということは、ROEを高める方法も、この3つのどれか(あるいは複数)を上げること、に尽きます。①利益率を上げる、②資産の回転率を上げる、③財務レバレッジを効かせる——道はこの3本だけです。分解の詳しい読み方は「デュポン分解とは?ROEを3つに分解して『稼ぐ力の中身』を見抜く方法」で解説しています。順に見ていきましょう。
道・その①:本業の利益率を上げる
一つ目は、売上高当期純利益率を高めること。つまり、売上のうち手元に残る利益を厚くする道です。値上げ(価格決定力の強化)、高付加価値の製品・サービスへのシフト、コスト削減などが具体策になります。3つの道のなかで最も本質的で、会社の「稼ぐ力」そのものを強くする王道です。ブランドや技術で価格を上げられる会社ほど、この道を歩みやすいといえます。
道・その②:資産を効率よく使う(回転率)
二つ目は、総資産回転率を高めること。同じ資産で、より多くの売上を生む道です。過剰な在庫の圧縮、売掛金の早期回収、使っていない遊休資産や政策保有株の売却などが効きます。バランスシートに眠っている資産を減らし、身軽にすることで、資産あたりの売上が増え、ROEが底上げされます。
道・その③:財務レバレッジを効かせる——自社株買い・増配の功罪
三つ目は、財務レバレッジ(総資産÷自己資本)を高めること。適度に借入を使う、あるいは自社株買いや増配で自己資本を圧縮することで、ROEを引き上げられます。とくに近年は、東京証券取引所の資本効率改善の要請を受け、ため込んだ自己資本を自社株買いで減らしてROEを高める動きが広がっています。
ただし、この道には落とし穴があります。借入を増やせば財務リスクが高まり、金利上昇や業績悪化に弱くなる。稼ぐ力が伴わないままレバレッジだけで上げたROEは、財務リスクを抱えた見せかけになりがちです。ROEを上げる手段としては手っ取り早い一方、使いすぎは禁物です。ROEとROA・ROICの関係で見た「借金頼みの高ROE」の見分け方は「ROEとROA・ROICの違いとは?『誰の視点で見るか』で使い分ける」も参考になります。
王道はどれか——「質」の高いROE向上とは
3つの道のうち、目指すべきはやはり①と②、本業の利益率と資産効率の改善です。これらは会社の実力そのものを底上げするため、上がったROEも長続きします。
実例として、NEC<6701>は財務レバレッジをむしろ下げながら、売上高純利益率の改善でROEを13.0%へ高めました(「NEC、2026年3月期のROEは13.0%に上昇——デュポン分解が示す『利益率改善』主導の稼ぐ力」 )。これが「質の高いROE向上」の好例です。
一方、③のレバレッジや自社株買いは、あくまで補助的な手段。稼ぐ力を伴わないROE向上は一度きりで、持続しません。適正なROEの水準は業種でも変わるため、「ROEの目安は何%?業種別平均と『8%の壁』」もあわせてご覧ください。
実例:ため込み企業の「伸びしろ」
逆に、まだ伸びしろを残している会社もあります。三菱電機<6503>(自己資本比率が高くレバレッジが低い)、村田製作所<6981>(自己資本比率約85%)、キーエンス<6861>(同約95%で実質無借金)は、いずれも本業の稼ぐ力は強いのに、自己資本をため込みすぎているためにROEが構造的に上がりにくい状態です(「三菱電機、ROEを分解して見えた『本当の課題』」、「村田製作所、ROE8.8%——『健全すぎる財務』」 、「キーエンスのROEは13.5%!超高収益なのに、なぜROEは13%台なのか」 )。こうした会社は、増配や自社株買いといった株主還元でROEを一段引き上げる余地があります。ため込んだ現金という「使っていない伸びしろ」を、どう動かすかが問われています。
元機関投資家イズミダの視点:ROEは「上げる」より「質」で見る
私がアナリストとして企業を見てきて思うのは、ROEは「上げること」自体が目的ではない、ということです。自社株買いや借入でROEを一時的に見栄えよくするのは、実はそれほど難しくありません。難しいのは、本業の利益率と資産効率を地道に高め、上がったROEを長く保つこと。前者は財務テクニック、後者は経営の実力です。
ROEが上がった会社を見たら、それが本業の改善(利益率・回転率)によるものか、財務のてこ(レバレッジ・自社株買い)によるものかを、デュポン分解で必ず確かめる。ため込み企業の還元による向上は歓迎すべきですが、それは一度きりの底上げ。長期の投資家として本当に見たいのは、稼ぐ力そのものが強くなっていく「質の高いROE向上」です。もっとも、最適な資本構成は業種や成長段階で変わりますので、数字だけで良し悪しを決めつけないことが肝心です。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
