この記事はここがポイント
- ディスコは砥石製造が源流。「切る・削る・磨く」技術と消耗品で、営業利益率42.3%の高収益
- 精密加工装置と消耗品の二層モデルが強み。消耗品が収益安定に貢献する仕組み
- 売上・利益は順調に成長。売上総利益率70.1%と、高い水準を維持する堅調な財務
半導体製造装置メーカー。ディスコ(6146)を一言で表すなら、たいていはそうなる。私自身、長らくその整理で済ませてきた。ところが会社の沿革をさかのぼると、出発点はまるで違う場所にある。工業用砥石だ。しかもその出自は、過去の話として片づけられていない。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
社名が示すのは半導体ではない。出発点にあった工業用砥石
有価証券報告書の沿革には、1937年5月に「工業用砥石を製造、販売する目的で第一製砥所」を個人営業として創業した、と記されている。
会社の名は第一製砥所。読んで字のごとく、砥石を製造する所である。1940年に有限会社、1958年に株式会社へと形を変えても、この社名はそのまま残った。
「株式会社ディスコ」への商号変更は1977年4月のことだ。創業から実に40年後である。つまり投資家がいま覚えている社名は、この会社の歴史の後半にしか存在しない。
興味深いのは海外拠点の名前だ。1969年に米国の販売拠点として設立された会社は、当初 DISCO ABRASIVE SYSTEMS という名を持っていた。Abrasive は研磨材を指す語である。
社名から半導体を連想するのは自然だろう。ただ、その社名がついた経緯まで含めて眺めると、この会社が自分をどう規定してきたかが透けて見える。削るための材料を売る会社、である。
切る、削る、磨く。三つの動作が装置と消耗品の二階建てになった
砥石屋が半導体装置メーカーに化けた、という語り方は正確ではない。沿革を並べていくと、化けたのではなく同じ技術を横へ伸ばしただけだと分かる。
1970年9月、精密切断装置の開発と販売を開始する。切る、である。続く1975年2月には精密ダイヤモンド工具へ進出し、同じ月に半導体用ダイシングソーを世に出した。
1980年1月には精密平面研削装置。削る、である。2002年8月にレーザソー、2003年11月には全自動グラインダ/ポリッシャ装置が加わった。磨く、が揃ったのはこの時期だ。
切る、削る、磨く。砥石という一点から出た加工の三動作が、そのまま製品ラインの背骨になっている。
重要なのは、装置だけを売る会社になったわけではないという点である。2027年3月期1Qの決算短信で、会社は事業を二層で説明している。精密加工装置の出荷と、「消耗品である精密加工ツール」の出荷だ。
会社によれば、装置の出荷は高性能半導体向けの高付加価値製品を中心に好調に推移した。消耗品のツールについては、顧客の設備稼働率等に連動して高水準で推移したという。
この二層構造が、砥石の直系にあたる。装置は設備投資が決まったときにしか売れないが、消耗品は現場が動いているあいだ減り続け、そして補充される。
半導体製造装置と聞けば、投資サイクルに振り回される業種というイメージが先に立つ。だが減るものを売る層を内側に抱えていれば、収益の性質はそのイメージから少しずれてくる。
数値にも痕跡が出ている。売上総利益率は2022年3月期の60.7%から2026年3月期の70.1%へ、5期かけて10ポイント近く切り上がった。
機械業種の売上総利益率の中央値は29.6%である。同じ業種区分に並んでいる会社と比べて、原価の構造がまるで違う。
5期の伸びも並べておきたい。2022年3月期の売上高2,537億円・営業利益915億円が、2026年3月期には売上高4,368億円・営業利益1,849億円になった。売上が1.7倍になるあいだに、営業利益は2倍である。
営業利益率は同じ期間に36.1%から42.3%へ上がった。機械業種の営業利益率の中央値は7.9%だから、水準そのものが別の階層にある。
従業員数は4,258人から5,547人へ増えた。人を増やしながら利益率を上げているのだから、単価の上がる何かを内側に抱えているとみるのが自然だろう。
棚卸資産の重さも、この会社の性格を語っている。2026年3月期末の棚卸資産は1,413億円。研削と研磨の現物を作って届ける会社であることが、資産の側から見えてくる。
オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
