監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
06:22

誤解の訂正「新ルールでNISA課税」の真相

この判決のニュースが流れた際、インターネット上では「新しいルールができてNISAが課税されることになった」という誤解が広がりました。しかし、泉田氏はこの見方を明確に否定します。

「これは別に新しいルールではないです。先ほど触れたようにもう40年以上前からあるルールに則っての課税になるので、別に新ルールでNISAが課税というわけではないんですよね」

実際、最高裁が今回の判決で参照した「権利確定主義」の判例(昭和53年2月24日)は、約48年前のものです。つまり、考え方自体は古くから存在しており、今回の判決は「外貨建て取引」に対してその解釈を初めて確定させ、投資家の逃げ道を塞いだに過ぎないのです。

では、なぜ「NISAに課税される」という話に繋がってしまったのでしょうか。それは、多くの投資家が「NISAの非課税の範囲」を正確に把握していなかったことに起因します。

 

判決の射程とNISA非課税枠の整理

判決の射程とNISA非課税枠の整理
出所:金融庁・国税庁資料を基にイズミダイズム作成3/4
判決の射程とNISA非課税枠の整理

 

NISA(少額投資非課税制度)は、上場株式等の「配当・分配金」と「譲渡益(売却益)」を非課税にする制度です。通常であれば一律20.315%(申告分離課税)かかる税金がゼロになるという強力なメリットがあります。

しかし、「為替差益」はNISAの非課税対象ではありません。為替差益は「雑所得」に分類され、総合課税として他の所得と合算され、所得税と住民税を合わせて最大55%の税率がかかる可能性があります。

つまり、今回の最高裁判決がNISAのルールを変えたわけではなく、「もともと為替差益はNISAの非課税枠の外(雑所得)であり、外貨で別の資産を買った瞬間にその為替差益が確定する」という現行法の解釈が明確になったことで、米国株などに投資する一般投資家にもそのロジックが当てはまる可能性が浮き彫りになった、というのが正しい理解です。

※なお、円で買い、円で受け取る「円貨決済型の国内投資信託(オルカンやS&P500インデックスなど)」については、外貨を保有する瞬間がないため、この為替差益課税の論点は生じにくいとされています。

裁判官が異例の「苦言」を呈した理由

今回の判決において、もう一つ注目すべき重要なポイントがあります。それは、裁判官全員一致で国側を勝訴としながらも、5名の裁判官のうち3名(林道晴裁判官ら)が、現行の税制に対して異例の「補足意見」を付していることです。

 

補足意見(現行税制への言及)

補足意見(現行税制への言及)
出所:最高裁判所「令和5年(行ヒ)第366号 所得税更正処分等取消請求事件」(2026年6月16日)4/4
補足意見(現行税制への言及)

 

補足意見では、大きく分けて以下の4つの指摘がなされています。

  1. 明文規定の不在:為替差損益課税について明確な法律の規定がなく、現行法を前提とした「解釈論」にとどまっている。
  2. 租税法律主義の観点:明確な規定がないまま課税される現状は、租税法律主義(税金は法律に基づいてのみ課すことができるという原則)の観点から望ましい状況とは考えられない。
  3. 国際社会からの信頼:このような状況を放置すれば、日本の租税政策に対する国際社会からの信頼を損なう可能性も否定できない。
  4. 抜本的検討の要請:為替差損益に係る課税のあり方について抜本的に検討し、必要な法的手当てを講じることが強く望まれる。

司法が立法(国会)や行政(国税庁)に対して、ここまで踏み込んだ苦言を呈するのは非常に珍しいことです。

外貨建て投資が日常的になっている現代において、個人投資家が為替レートの変動をすべて自力で把握し、雑所得として正確に確定申告を行うことは実務上極めて困難です。泉田氏も、この裁判官の苦言の背景にある問題意識を次のように代弁します。

「こんだけ投資普及してきて当たり前のように外貨で取引するみたいな時代になったのに、買った時点で確定みたいな、え?って投資家がびっくりするようなルールっていうのは、もう1回ちゃんと整備せやみたいな、そんな話なんじゃないですかね」

国が「貯蓄から投資へ」と旗を振り、NISA制度を拡充して国民に投資を促している一方で、税制の実態は40年以上前の古い解釈に依存しており、現代の投資環境に追いついていない。裁判官の補足意見は、まさにその制度的な歪みを突いたものだと言えます。

まとめ

今回の最高裁判決は、決して「NISAという制度に新たな税金が新設された」というものではありません。「105億円を運用した富裕層」の事案を通じて、古くからある「権利確定主義」に基づき、「外貨で別の資産を取得した時点で為替差益は確定し、雑所得として課税される」という法解釈が最高裁によって確定した、というのが正確な事実です。

その結果として、米国株の配当をドルで受け取り、そのドルで別の株を買うような一般の投資家にも、同じ論理(為替差益への雑所得課税)が適用されうるということが明確になりました。

現行の法律がそのように解釈される以上、納税者はルールに従う必要があります。しかし同時に、最高裁の裁判官が指摘したように、現代のグローバルな投資環境に適合した明確な税制の整備が急務となっていることも事実です。

私たち投資家は、不確かな噂に振り回されることなく、まずは「NISAの非課税枠」と「為替差益(雑所得)」の違いなど、現行ルールの正しい仕組みを理解しておくことが大切です。

【免責事項】

本記事は最高裁判決に基づく一般的な制度の解説を目的としたものであり、個別の投資行動を推奨するものではありません。また、個人の取引における課税の要否や確定申告の要否など、具体的な税務判断については、必ず税理士等の専門家や所轄の税務署にご確認ください。

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泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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