前工程の要「露光(リソグラフィ)」と微細化の鍵
半導体の製造プロセスのうち、シリコンウェハー上に電子回路を形成していく段階を「前工程」と呼びます。この前工程の中で、最も重要かつ技術的なハードルが高いとされるのが「露光(リソグラフィ)」という工程です。
露光とは、簡単に言えばウェハーの上に回路の設計図を転写する作業です。泉田氏はこの工程を、私たちが日常的に知っているある作業に例えて説明します。
「回路を書く時に薬液をつけて、光を当てて露光するんですよ」
つまり、写真の現像と同じ原理です。感光性の薬品(フォトレジスト)を塗ったウェハーに対して、回路パターンが描かれたフォトマスク越しに特殊な光を当てることで、ナノメートル(10億分の1メートル)単位の極めて微細な回路を焼き付けていきます。現代の半導体の性能向上は、この回路の線をいかに細くできるか(微細化)にかかっており、露光装置はその微細化を実現するための「キーエクイップメント(鍵となる装置)」として位置づけられています。
この極めて重要な露光装置の市場において、圧倒的な力を持っているのがオランダの企業「ASML」です。
「EUVとか液浸みたいな高度の技術になればなるほど、このASMLが強くてさらに牛耳ってます」
泉田氏が指摘するように、現在最先端の半導体製造に不可欠となっている「EUV(極端紫外線)」露光装置や、それに次ぐ「液浸」露光装置の分野において、ASMLは事実上、世界で唯一に近い独占的な地位を築いています。
最先端のAIチップを作るためにはASMLの装置が絶対に必要であり、世界中の半導体メーカーが同社の装置を求めて列をなしている状態です。
一方で、日本のメーカーはどうでしょうか。カメラやレンズの技術に強みを持つ日本の「ニコン」や「キヤノン」も、かつては半導体露光装置の分野で世界をリードする存在でした。しかし、現在では最先端のEUV露光などの領域において、ASMLに対して存在感を低下させてしまっているのが実情です。
事業としては継続しているものの、投資の観点から最先端の微細化トレンドを追う場合、露光装置の分野では「ほぼASML一強」という前提でリサーチを進める必要があると泉田氏は分析しています。
前工程の製造装置マップ(露光・成膜・エッチング・洗浄・検査)
「成膜・エッチング・洗浄」工程を担う主要プレイヤー
露光によってウェハー上に回路のパターンを焼き付けた後、次に行われるのが「成膜」「エッチング」「洗浄」という一連のサイクルです。
まず、ウェハーの表面に必要な物質の薄い膜を作るのが「成膜」です。次に、露光で光が当たった部分(または当たらなかった部分)の膜を薬品やガスを使って削り取り、実際の溝や回路の形を作るのが「エッチング」です。そして、エッチングによって生じた不要な削りカスやゴミを綺麗に洗い流すのが「洗浄」工程となります。
半導体は、この「膜をつけて、露光して、削って、洗う」というサイクルを何十回、何百回と繰り返すことで、複雑な立体構造の回路を形成していきます。そのため、これらの工程を担う製造装置の需要は非常に大きく、世界的な巨大企業がしのぎを削る主戦場となっています。
この領域で世界的に大きなシェアを持っているのが、アメリカの「アプライドマテリアルズ(AMAT)」や「ラムリサーチ」といった巨大な半導体製造装置メーカーです。彼らは幅広い工程の装置を手がけており、世界の半導体工場の至る所でその装置が稼働しています。
しかし、この分野でも日本企業は決して負けていません。日本を代表する半導体製造装置メーカーである「東京エレクトロン」は、成膜やエッチングをはじめとする幅広い前工程の装置で世界トップクラスのシェアを誇っています。
また、「SCREEN(スクリーン)」は、ウェハーを洗ってゴミを取り除く洗浄装置の分野において、世界1位のシェアを握る圧倒的な存在です。
半導体の回路が微細になればなるほど、目に見えない極小のゴミ一つが致命的な欠陥を引き起こすため、洗浄技術の重要性はますます高まっています。このように、アメリカの巨大企業と肩を並べ、あるいは特定の工程で世界首位に立つ日本企業が存在するという事実は、半導体バリューチェーンを俯瞰する上で非常に重要なポイントです。
品質を担保する「検査・測定・テスト」と研磨
前工程で微細な回路を作り上げていく過程では、常に「正しく作られているか」を確認する必要があります。ナノメートル単位の世界では、わずかなズレや欠陥が製品の歩留まり(良品率)を大きく左右するためです。そこで活躍するのが、「検査・測定・テスト」を行う装置群です。
この分野でも、世界のトッププレイヤーとして君臨する日本企業があります。それが「アドバンテスト」です。同社は、完成した半導体チップが設計通りに動作するかを確認するテスト装置(テスタ)の分野で世界1位のシェアを持っています。AIチップのような極めて複雑で高性能な半導体は、テストにかかる時間も長く、より高度なテスト装置が求められるため、アドバンテストの技術が不可欠となっています。
海外勢としては、検査装置の分野でアメリカの「KLA」や、テスタ分野で世界2位のアメリカ「テラダイン」といった企業が存在感を放っています。
また、ウェハーの上に膜を重ねていく過程では、表面を極めて平坦に磨き上げる「研磨」という作業が必要になります。少しでも凹凸があると、その上に次の回路を正確に描くことができないからです。
この研磨を行う装置(CMP装置)の分野では、日本の「荏原(荏原製作所)」が世界的なシェアを持っています。さらに、回路の線幅やパターンの寸法が正確に作られているかを測る測定器の分野では、「日立ハイテク」(現在は非上場)といった日本企業が活躍しています。
このように、半導体を「作る」装置だけでなく、その品質を「測り、確かめ、整える」装置の分野にも、世界をリードする日本企業がしっかりと根を張っているのです。
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「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
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「イズミダイズム」は、モニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。「イズミダイズム」は株式会社モニクルリサーチが企画をし、株式会社モニクルが運営を運営しています。(2026年7月3日更新)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
PROFILE
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。2013年に株式会社モニクルリサーチの前身である株式会社ナビゲータープラットフォームを共同設立。2015年にくらしとお金の経済メディア「LIMO」を立ち上げ、コンテンツ企画とメディア運営を行う。2026年1月よりYouTubeチャンネル「イズミダイズム」の運営に参画。2026年6月に専門家と実務家が発信する金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」の編集長に就任。東京科学大学大学院非常勤講師。慶應義塾大学商学部卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。
