半導体大手のキオクシアホールディングスが株主総会で「株式分割」を検討していると報じられ、市場の関心を集めています。
近年、日本株市場では有名企業の株式分割が相次いでいますが、実はその背景には東京証券取引所(東証)からの“強い要請”があることをご存じでしょうか。
投資家にとって「買いやすくなる」というメリットがある反面、分割後に株価が「下がる」という落とし穴も存在します。東証の狙いと、投資家が注意すべきリスクについて詳しく解説します。
【注目ニュース】キオクシアが株主総会で「株式分割」に前向き報道
人工知能(AI)向けメモリー需要の波に乗り、市場での注目度が一段と高まっているキオクシアホールディングス(285A)。2026年6月25日に開催された定時株主総会において、「株式分割を検討している」という趣旨の回答があったと報じられました。
現在の同社株は1株あたり10万円前後(29日の終値は8万8,450円)と、個人投資家にとってはややハードルの高い「値がさ株」となっています。
日本株は100株単位での取引が基本のため、29日終値ベースなら最低投資金額は約885万円に上ります。会社側としては、株式分割を行うことで1口あたりの投資金額を下げ、より多くの個人投資家に株主になってもらいたいという意図があるようです。
背景にある、東証からの強力な「投資単位引き下げ要請」
キオクシアに限らず、ここ数年で日本の大手上場企業がこぞって株式分割を発表しています。このブームとも言える動きを裏で加速させているのが、東京証券取引所(東証)による強力な働きかけです。
東証は、個人投資家が市場に参加しやすい環境を整えるため、上場企業に対して「望ましい投資単位(最低投資金額)は50万円未満」とするよう明確なガイドラインを設けています。なお、近年はさらに個人投資家が買いやすいよう「10万円程度」への引き下げを視野に入れた働きかけも行われています。
投資単位が50万円以上となっている企業に対しては、株式分割などを行うことで、この基準以下に引き下げるよう強く要請(スクリーニングや定期的な見直しを促進)しているのです。
新NISAの普及に伴い、個人投資家の「少額からコツコツ投資したい」というニーズが高まるなか、東証としては「高すぎて買えない株」を減らし、市場全体の流動性を高めたいという狙いがあります。企業側もこの要請に応える形で、積極的に株式分割に踏み切っているのが現在のトレンドです。
そもそも「株式分割」とは?資産価値のおさらい
ここで株式分割の基本をおさらいしておきましょう。株式分割とは「すでに発行されている1株を、2株や5株といった具合に細かく分割すること」です。
たとえば、1株1万円の株を1株持っていたとします。これが「1対2」に分割されると、手元の株数は「2株」に増えますが、1株あたりの株価は理論上、半分の「5000円」に下がります。
- 分割前:1万円 × 1株 = 1万円
- 分割後:5000円 × 2株 = 1万円
このように、ピザのサイズはそのままに、カット数を増やして1枚を小さくしただけなので、株式分割によってその企業の価値や、投資家の保有資産そのものが増減することはありません。
買いやすくなるのに……株式分割後に株価が「下がる」3つの理由
「東証も推奨していて、個人投資家も買いやすくなるなら、株価にとってはプラスしかないのでは?」と思いがちですが、そう単純ではありません。
分割発表後や分割実施後に、なぜか株価が「下落トレンド」に陥るケースがあるのです。
その主な理由は以下の3つです。
①「材料出尽くし」による利益確定売り
株式分割の発表は「流動性が高まる好材料」とみなされるため、発表直後に期待感から株価が急上昇することがよくあります。しかし、実際に分割が行われるタイミング(権利落ち日など)を迎えると、それまで株価を支えていた期待感が消費され、「これ以上のサプライズは当面ない」とみた投資家が一斉に利益確定の売りを出すため、株価が急落することがあります。
②「値動きの軽さ」が失われ、主役の短期マネーが逃げ出す
分割前はいわゆる「値がさ株(株価が高い株)」だったため、市場に出回る株数が少なく、少しの注文で株価が上下に大きく跳ねる「値動きの軽さ」がありました。これが、短期的な値幅取りを狙う投機筋(デイトレーダーなど)にとっては格好の狩り場となっていたのです。 しかし、分割によって株価が下がり個人投資家が多数参戦すると、売買注文(板)がギッシリと並んで市場は「板が厚く、株が重い」状態へと変化します。
少々の買いでは株価が動かなくなり、「効率よく値幅が狙えなくなった」と判断した短期マネーが一斉に他の銘柄へ流出。それまで相場を引っ張っていた主役たちが消えることで需給が悪化し、株価がジリ安に向かうという皮肉な現象が起きてしまうのです。
③ 業績が伴っていない「見せかけ」へのシビアな評価
先述の通り、株式分割は「分け方」を変えただけで、企業の稼ぐ力(業績)が変わるわけではありません。東証の要請に従って分割したものの、本業の業績が伸び悩んでいる企業の場合、分割のお祭りが終われば市場の関心は「業績」という現実に引き戻されます。中身が伴っていないと判断されれば、買いやすくなった分だけ市場に流通する株数が増えるため、需給が緩んでダウントレンドをたどることになります。
【チェック】分割銘柄を見極める投資家の目
- 東証の要請や新NISAへの対応という「形」だけに惑わされない
- 分割発表から実施日までの間に、株価が期待先行で過熱していないか確認する
- 何よりも、その企業の「本業の成長性」や「配当維持の力」があるかを重視する
まとめ:29日は人気銘柄が続々と分割へ
企業の株式分割は、東証の掲げる「投資単位の適正化」に沿った前向きな動きですが、投資家としては「分割=買い」と盲信するのではなく、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)を見極める必要があります。
折しも29日は、個人投資家から人気が高いディフェンシブ株の代表格「花王(4452)」や、高配当銘柄として知られる「住友商事(8053)」などが株式分割の権利落ち日を迎えました。
基準日を6月30日、効力発生日を7月1日とした株式分割を実施する、主な企業のリスト(抜粋)は以下の通りです。
株式分割リスト
12月決算の花王は「1株→2株」への分割を実施。この6月末は中間配当の時期でもあるため、26日の権利付き最終日を通過した29日は、「配当」と「分割」が重なる権利落ち日となりました。29日の終値は、これらを考慮した基準株価比で0.67%安の3,250円でした。
また、住友商事は「1株→4株」という大胆な株式分割を敢行。こちらの29日終値は、権利落ち考慮のベースで1.14%安の1,532.5円となっています。
東証の要請を背景に、私たちが優良銘柄に少額からアクセスできるチャンスは確実に増えています。だからこそ、目先の価格の手軽さに惑わされず、その企業の「本質的な価値」をじっくりと見定めたいものです。
免責事項
- 当記事は情報提供を目的としており、特定の株式の購入や売却を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、最新の決算資料などをご自身でご確認の上、自己責任でおこなってください。記事の情報に起因して生じた損害について、当方は一切の責任を負いません。
- 株主優待の内容や条件は変更される可能性があります。必ず公式サイトで最新の情報をご確認ください。
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フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
PROFILE
立教大学卒業後、海外専門の旅行会社に就職し、その後旅行業界専門誌の記者に転身。企業決算の記事などを手掛けるうちに金融マーケットに興味を持つようになり、株式や債券の発行市場をカバーする金融専門誌の記者に転職。債券市場の動向や市況について、10年以上にわたって数多くの記事を機関投資家に向けて日経QUICKやブルームバーグ等へ執筆した。その後、株式会社フィスコでアナリストが執筆する企業調査レポートの編集を手掛けるとともに、決算などIR情報の発信業務に携わる。
現在は株式会社モニクルリサーチが運営する『くらしとお金の経済メディア~LIMO(リーモ)~』のLIMO編集部に所属し、LIMOでも記事を執筆している。