味の素の株価はなぜ強い?元機関投資家が読み解く「AI銘柄」としての意外な顔と決算の裏側
出所:イズミダイズム
監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
06:30
味の素の株価はなぜ強い?元機関投資家が読み解く「AI銘柄」としての意外な顔と決算の裏側
出所:イズミダイズム

食卓に欠かせない旨味調味料や冷凍食品で知られ、日本を代表する食品メーカーである味の素。

株式市場においては、景気に左右されにくい「ディフェンシブ銘柄」の代表格として認識されています。しかし直近の株価推移を見ると、手堅い食品株という枠を超え、TOPIX(東証株価指数)を大きく上回る力強い上昇を見せています。

一体なぜ、手堅いビジネスモデルの食品メーカーが、成長株のような株価の動きを見せているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が、味の素の株価の動きと会社からのメッセージを読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。

皆さんになじみのある「味の素」が、まさかAI関連銘柄と思う人はかなりの株式投資「通」でしょう。

しかし、実際に決算の中身や決算説明会資料を見て行くと、その実力に驚かされることになります。

一般的には食品株はディフェンシブ銘柄といって、安定的な業績が好感される一方、強気の相場では出遅れるもの。

今回は、その味の素の業績と株価に迫っています。

この記事のポイント

  • 味の素は利益の約3割を「AI半導体向け電子材料(ABF)」で稼ぐという意外な収益構造を持つ
  • 食品アナリストがカバーするため半導体事業の分析が手薄になりやすく、投資家にとって情報の非対称性が生じている
  • 景気に左右されない食品事業を下支えに、AIの成長を取り込める「下値が堅いアップサイド銘柄」として株価が推移している
  • 今期の最終減益予想は嫌気される可能性があるものの、本業の儲けを示す事業利益は増益を確保している
  • ABF事業はシェア100%の強みがある一方、生産キャパシティの制約や代替技術の台頭というリスクも孕んでいる

なぜ調味料メーカーが「AI銘柄」として買われるのか?

味の素といえば、誰もが知る調味料や食品の会社です。泉田氏も、同社を食品セクターの中で「ピカピカの会社」と高く評価しています。しかし、現在の株式市場において、味の素は単なる食品メーカーとしてではなく、「AI・データセンター関連銘柄」として熱い視線を集めています。

その秘密は、同社の事業セグメントの中に隠されています。味の素には「ファンクショナルマテリアルズ(電子材料)」と呼ばれる事業があり、ここが全社事業利益の約3割を稼ぎ出しているのです。

なお、ここでいう「事業利益」とは、国際財務報告基準(IFRS)を採用する味の素が独自に定義した段階利益のことで、売上高から売上原価や販売費・一般管理費などを差し引き、持分法による損益を加えた、本業の儲けを示す重要な指標です。

この電子材料事業の主力製品が、「ABF(Ajinomoto Build-up Film=味の素ビルドアップフィルム)」と呼ばれる半導体パッケージ向けの絶縁フィルムです。驚くべきことに、このABFは市場シェア100%を誇り、世界の高性能半導体製造において避けては通れない必須の素材となっています。

全社の売上高1兆5,837億円(2026年3月期実績)に対して、電子材料事業の売上高は1,007億円と、構成比で見ればわずか6.4%に過ぎません。しかし、利益貢献度が極めて高いのが特徴です。泉田氏は、株式市場におけるテーマ株の現状と比較して、この利益水準の異常さを指摘します。

「よく、テーマ銘柄だと売上5%、利益まだないです、これからですみたいな(企業は)多いけど、もうすでに3割あるらしい」

事業利益に占める電子材料(ABF)の割合(2026年3月期)

事業利益に占める電子材料(ABF)の割合(2026年3月期)
出所:味の素「2026年3月期 決算概要・決算短信」(2026年5月7日)を基にイズミダイズム作成1/4
事業利益に占める電子材料(ABF)の割合(2026年3月期)

圧倒的なシェアと利益率を持ちながら、なぜ味の素の半導体事業はこれまで広く知られてこなかったのでしょうか。泉田氏は、証券業界の構造的な問題である「情報の非対称性」が背景にあると分析します。

上場企業を分析する証券会社のアナリストは、通常「自動車」「IT」「食品」といったセクター(業種)ごとに担当が分かれています。味の素は当然「食品セクター」に分類されるため、カバーするのは食品専門のアナリストです。

「食品アナリストが半導体の絶縁フィルムで儲かってますよって言われても、やっぱ分析の限界あるじゃない。なので情報としてあんまり出てこないっていうジレンマがあるんだと思います」

半導体の専門家ではない食品アナリストにとって、最先端の電子材料の技術動向や市場規模を深く分析することには限界があります。その結果、市場に詳細な情報が出回りにくく、投資家目線で見れば「まだ発見の余地がある、深掘りしがいのある銘柄」として妙味が生まれているのです。

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泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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