執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
20:30

2026年3月期の過去最高益は、売上の伸びだけでは説明できない

全社の数字に戻ろう。2026年3月期通期は売上収益10兆5,867億円に対し、売上総利益が3兆1,795億円で前期比13%増、営業利益は1兆1,992億円だった。当期利益は8,023億円で、過去最高を更新している。

興味深いのは、売上の側にそこまでの勢いがないことだ。過去5期を並べると、売上収益は2023年3月期の10兆8,811億円がピークで、2024年3月期に9兆7,287億円まで縮み、2026年3月期でようやく10兆円台へ戻した。

一方で当期利益は2022年3月期の5,834億円から8,023億円へ、ROE(自己資本利益率)は2025年3月期の10.7%から12.9%へ切り上がった。売上が3期前の水準に届かないまま、利益と資本効率だけが上がっている。

ここには一時的な要因も混ざる。会社の開示では、保有株式の売却などにより事業再編等損益が1,318億円の利益となり、前期から1,022億円改善した。逆にデジタルシステム&サービスではファイルストレージ事業ののれんの減損損失を計上し、減損損失は1,515億円に膨らんだ。米国の相互関税による影響も▲240億円あったという。

とはいえ、構造そのものが変わってきたことは会社の中期計画の指標にも出ている。経営計画「Inspire 2027」で会社が掲げる指標のうち、投下資本利益率(ROIC)は2025年度実績12.4%で目標の12〜13%に入り、キャッシュフローコンバージョンは103%で90%超の目標を上回った。Adjusted EBITA率は12.4%で、13〜15%という目標には届いていない。

業種のなかに置いてみると、水準の高さがはっきりする。電気機器181社の営業利益率の中央値は6.7%、ROEの中央値は7.4%で、日立の営業利益率11.3%とROE12.9%はいずれも上位25%の水準に並ぶ。ROICの中央値10.3%も上回っている。

一方で、電気機器は財務を厚く持つ会社が多い業種だという見え方もある。自己資本比率の中央値は62.2%、下位25%でも50.0%だが、日立の自己資本比率は43.7%にとどまる。総資産15兆412億円のうち、のれんが2兆6,475億円を占めているためだ。

資本効率の高さと、買収で膨らんだ資産。この二つは対立しているわけではなく、同じ戦略の表と裏として同時に成立している。だからこそ、のれんの減損が単年度の利益をどれだけ削るかは、この会社を見るうえで外せない論点になる。

事業の入れ替えも続いている。会社は建設機械や自動車部品の子会社株式の一部譲渡、家電事業の資本再編などを決定したとしており、重量のある事業を手放す方向で動いていることになる。イメージのほうが実態に追いついていない、という言い方もできるだろう。

直近では2027年3月期1Qの売上収益が2兆7,095億円、当期利益が2,031億円となった。通期の売上収益予想は11兆7,000億円で、前通期の決算時点に示していた11兆1,000億円から引き上げられている。

昨秋に水準を切り上げたあと、株価が動かなくなった構図

出所:各種資料をもとに筆者作成2/2

では株価の側は、この収益構造をどう扱ってきたのか。2025年9月末の終値は3,900円台だった。それが翌月末には5,300円台へと、ひと月で大きく水準を上げている。

そこから先は、あまり動いていない。2026年3月末と6月末に4,400円台まで下押しする場面はあったものの、おおむね4,400円台から5,300円台のレンジで振れてきた。2025年9月末以降の月末終値でいちばん高いのは2026年1月末の5,300円台である。

2026年8月時点の終値は5,200円台で、起点からは3割強の上昇だ。もっとも、上昇のほとんどは昨秋のひと月に集中している。以降の10か月はボラティリティ(値動きの激しさ)を伴いながら方向感を欠いてきた。

なぜ動かなくなったのか。株価がなぜ動くかを単一の材料で断定することはできないが、デジタル事業の収益力という論点が一度織り込まれ、次の手がかりを待つ状態になっている可能性はある。

というのも、いま起きているのは「デジタルが利益の柱」という物語の確認ではなく、その物語が書き換わるかどうかの局面だ。重電側の利益が高い伸びで追い上げ、デジタル側はのれんの減損を出した。通期の売上収益予想は引き上げられた一方、利益の目標には未達の項目も残る。

方向を決める材料が同時に複数走っているとき、株価が横に張り付くのはよくあることだ。ここは値動きそのものより、セグメント別の利益の並びが次の決算でどう入れ替わるかに着眼して観察していきたい局面だと考えられる。

なぜイメージだけが取り残されるのか。この点を考えてみると、事業の見え方と収益の出どころが、そもそも別の物差しで測られていることに行き当たる。

発電所や鉄道車両は目に見える。写真になり、記事の見出しになる。だがシステム開発やソフトウェアの利益は、写真にならない。結果として、報道の焦点は大型のインフラ案件に集まり、社名から呼び起こされる像も更新されないまま残る。

皮肉なのは、その像がいま正しくなる方向へ動きかけていることだ。重電側の利益が高い伸びで追い上げているのだから、数年後には「やはり重電の会社だった」という見方が実態に合ってしまう可能性もある。

だとすれば、この会社に対して固定した一言のラベルを貼るのが、そもそも向いていないのだろう。多角化した企業を一元的にラベリングするのは早計だ。

決算のたびに事業別の利益と利益率の順位を並べ替えて眺める。地味な作業だが、この会社の姿を掴むには王道にして効く手だと思う。

免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
  • 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
  • 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
  • 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
Google で優先するソースとして追加
石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

関連タグ