執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
20:30

直近1Qで、ついに順位が入れ替わった

2027年3月期1Qの連結業績は、売上高1兆3,305億円で前年同期比+15.9%、営業利益970億円で+61.0%、経常利益1,030億円で+66.6%、親会社株主に帰属する四半期純利益664億円で+89.1%となった。

そしてこの四半期、セグメント営業利益の順位が入れ替わった。情報通信関連が272億円、自動車関連が260億円である。

売上高は自動車関連8,028億円に対し情報通信関連864億円と、9倍以上の開きがある。それでも稼いだ利益は情報通信のほうが多い。

会社によれば、情報通信の増益は生成AI市場の拡大を背景としたもので、データセンター向けの光配線機器や光デバイスの需要が増え、円安も追い風になった。営業利益は前年同期から191億円積み上がっている。

自動車関連は逆の動きだ。ワイヤーハーネスや防振ゴムの需要は堅調で、円安と銅価格上昇もあって増収だった。しかし営業利益は減っている。中東情勢の影響による原材料価格の上昇と、銅価格上昇の影響を挙げている。

銅価格の上昇が、環境エネルギー関連では増益要因、自動車関連では減益要因として働いている点は興味深い。売価への転嫁の速さが事業ごとに違う、ということだろう。

ほかのセグメントも増益が並ぶ。産業素材関連事業他はタングステン市況が高騰するなかで超硬製品の受注が増え、営業利益170億円。エレクトロニクス関連は主要顧客向けFPC(フレキシブルプリント回路)の需要が堅調で117億円となった。

通期予想も引き上げられ、売上高5兆4,000億円で前期比+5.7%、営業利益4,500億円で+7.6%が見込まれている。当期純利益予想は3,400億円で▲8.0%となるが、前期は住友電設株式の売却による特別利益が乗っていた。事業が後退するという意味ではないと読み取れる。

資金はどこへ流れ、どこで実っているのか

もう一段掘る。稼いだ現金がどこへ配られているかを見ると、この会社の現在地がもう少し立体的になる。

2026年3月期の営業キャッシュ・フローは4,251億円。投資キャッシュ・フローは▲1,748億円、財務キャッシュ・フローは▲3,260億円だった。設備投資は2,431億円で、減価償却費2,098億円をやや上回る水準にある。

5期で見ると、営業キャッシュ・フローは2022年3月期の760億円から2,651億円、3,934億円、4,022億円、4,251億円へと積み上がってきた。稼ぐ力そのものが階段状に切り上がっている。

問題は配り方だ。2026年3月期のセグメント別設備投資は、自動車関連1,295億円、環境エネルギー関連532億円、エレクトロニクス関連293億円、情報通信関連250億円、産業素材関連事業他206億円となっている。半分ほどが自動車に向かっている。

ただし、投資の性格は減価償却費と並べると見分けがつく。自動車関連は減価償却費1,225億円に対して設備投資1,295億円で、ほぼ維持更新の水準だ。対して情報通信関連は減価償却費160億円に対し設備投資250億円と、償却の1.5倍を投じている。環境エネルギー関連は263億円に対して532億円で、比率はさらに大きい。

金額の大きさは自動車、増設の勢いは情報通信と環境エネルギー。同じ設備投資という言葉でも、中身はまったく違う。数字の絶対額だけを見て資本配分を評価しないよう注意したいところだ。

市場はこの入れ替わりをどう扱ってきたか

出所:各種資料をもとに筆者作成1/1

株価は昨秋以降、大きく動いた。2025年9月末の終値は1,000円台で、これが昨秋以降の月末終値では最も低い水準になる。

そこから10月末1,400円台、11月末と12月末は1,500円台、2026年1月末1,600円台と、階段を上るように水準を切り上げていった。2月末には2,500円台に乗せている。

3月末はいったん2,000円台まで下押ししたものの、4月末2,500円台、5月末は3,100円台と、昨秋以降で最も高い月末終値をつけた。データセンター向け需要の話が最も強く意識された時期だったのだろう。

しかしそこからは戻り足だ。6月末2,900円台、7月末2,100円台と切り下げ、2026年8月時点の直近終値も2,100円台にある。上昇分のかなりの部分を吐き出した格好である。

株価がなぜ動いたかを一つの材料で断定することはできない。ただ、上げ幅の大きさと戻し幅の大きさを見るかぎり、生成AI関連という文脈でどれだけ評価するかが、この1年の値動きの主戦場だったと考えられる。

売上の6%台の事業が株価の物差しになる。それが今の住友電気工業の見られ方ではないだろうか。

売上で9倍の差がある事業が、営業利益で並んだ。この逆転は一時のものだろうか。それとも、ここから定着していく類いのものだろうか。

答えの手がかりは、事業の性質そのものにある。ワイヤーハーネスは人手をかけて配線を束ねる労働集約的な仕事で、原材料が上がったときに売価へ転嫁するまでに時間がかかりやすい。一方で通信インフラの部材は、需要が張り付いているあいだは価格が保ちやすい。

だから利益率の差は、優劣ではなく構造の差だと私は見ている。自動車が悪いのではなく、そもそも同じ物差しで測る事業ではない。

厄介なのは、社名も投資家のイメージも、こうした重心の移動には追いつかないという点だ。名前は何十年も変わらなくても、中身は5年で変わる。

セグメント別の設備投資を減価償却費で割ってみることをおすすめしたい。会社がどこを守り、どこを伸ばそうとしているのかは、その比率にかなり正直に出る。

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石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

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