この記事はここがポイント
- デュポン分解は、ROEを3要素に分解し「稼ぐ力の中身」を明らかにする分析手法。
- 同じROEでも、利益率や資産効率型、借入依存型で企業の実態とリスクに差。
- 本業で稼ぐ「質の高いROE」と借入頼みの脆いROEを判別する「聴診器」。
「ROEが高い会社」と聞くと、それだけで良い会社に思えます。けれども、同じROE10%でも、中身はまるで違うことがある——そう言われたら、皆さんはどう見分けるでしょうか。その答えが、今回のテーマ「デュポン分解」です。ROEを3つの要素にほどくことで、その会社が"どうやって"稼いでいるのかが見えてきます。ROEそのものの基本は「ROEとは?自己資本利益率の意味・計算式・目安からROA・ROICとの違い・デュポン分解まで」で解説していますので、本記事ではその一歩先、中身の読み解き方をみていきましょう。
デュポン分解とは——ROEを3つにほどく
デュポン分解(デュポン分析)とは、ROE(自己資本利益率)を3つの要素の掛け算に分解して、その源泉を読み解く手法です。1920年代に米化学大手デュポン社が社内管理のために考案したことから、この名前がついています。式は次のとおりです。
ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
この3つのうち、最初の2つ(売上高当期純利益率×総資産回転率)を掛け合わせるとROA(総資産利益率)になります。ですから、デュポン分解は「ROE=ROA×財務レバレッジ」と、よりシンプルに書くこともできます。ROEという一つの数字を、収益性・効率性・レバレッジという3つの角度に分けて見る——それがデュポン分解の狙いです。
3つの要素が意味すること
それぞれの要素が、会社の何を表しているのかを見ていきましょう。
一つ目の売上高当期純利益率(当期純利益÷売上)は、「収益性」です。売上のうち、どれだけを利益として残せたか。ブランド力や高付加価値のビジネスほど高くなります。
二つ目の総資産回転率(売上÷総資産)は、「効率性」です。持っている資産を、どれだけ効率よく売上に変えたか。少ない資産で大きく売る薄利多売の商売ほど高くなります。
三つ目の財務レバレッジ(総資産÷自己資本)は、「レバレッジ(てこ)」です。自己資本の何倍の資産を動かしているか、つまり借入をどれだけ活用しているかを示します。財務レバレッジは自己資本比率の逆数の関係にあり、借入が多いほど大きくなります。
計算例で見るデュポン分解
言葉だけではイメージしにくいので、同じ「ROE10%」の3社を並べてみましょう。
A社は、売上高当期純利益率5%×総資産回転率1.0回×財務レバレッジ2.0倍=ROE10%。バランス型です。
B社は、売上高当期純利益率10%×総資産回転率0.5回×財務レバレッジ2.0倍=ROE10%。高い利益率を、ゆっくりした資産回転で得るタイプで、ブランド品や一部の製造業に多い形です。
C社は、売上高当期純利益率2.5%×総資産回転率1.0回×財務レバレッジ4.0倍=ROE10%。利益率は低いのに、借入を厚く使って(レバレッジ4.0倍)ROEを10%まで引き上げています。
同じROE10%でも、A・B・Cの稼ぎ方はまったく違います。とくにC社は、借金への依存が大きく、金利上昇や業績悪化に弱い。数字の裏を見なければ、この差は見抜けません。
同じROEでも「中身」は違う——見せかけを見抜く
ここが、デュポン分解のいちばんの価値です。ROEの高さだけを見て投資すると、C社のような「レバレッジ頼みの高ROE」をつかむことがあります。それは、財務リスクを抱えた「砂上の楼閣」になりがちです。反対に、本業の利益率が改善してROEが上がっている会社は、地力がついてきた証拠。同じ「ROE上昇」でも、質が正反対なのです。
実例で見てみましょう。「NEC、2026年3月期のROEは13.0%に上昇——デュポン分解が示す『利益率改善』主導の稼ぐ力、ITサービスが牽引」では、NECのROE改善が、財務レバレッジをむしろ下げながら、売上高当期純利益率の上昇で達成されたことをデュポン分解で確かめています。まさに「質の高いROE改善」の好例です。
業種で異なる3要素のバランス
3つの要素のバランスは、業種によって大きく異なります。小売やスーパーのような薄利多売の商売は、利益率は低いものの総資産回転率が高い。ブランド品や医薬品などは、回転はゆっくりでも利益率が高い。銀行や不動産は、事業の性質上、財務レバレッジが高くなります。ですから、デュポン分解の結果は「この業種だからこの形」という特性を踏まえて読むことが大切です。ここでも、絶対値の比較より、同業のなかでどの要素が強い・弱いを見るのが正解です。
元機関投資家イズミダの視点:デュポン分解は、ROEを読む「聴診器」
私がアナリストとして企業を見るとき、ROEの数字が出てきたら、ほぼ反射的にデュポン分解にかけていました。理由は単純で、ROEの高さそのものより、「どこで稼いでいるのか」のほうが、その会社の実力と持続性を語るからです。本業の利益率で稼ぐROEは強く、借入で膨らませたROEは脆い。デュポン分解は、その違いを聴き分ける聴診器のようなものです。
ROEという一つの数字も、3つに分けて中身を確かめ、業種の特性と照らし、持続しそうかを問います。この一手間をかけられるかどうかが、見せかけの高ROEに惑わされずに、本物の稼ぐ力を見抜けるかの分かれ目です。
ROEの全体像は「ROEとは?自己資本利益率の意味・計算式・目安からROA・ROICとの違い・デュポン分解まで」でも整理していますので、あわせてご覧ください。
もっとも、数字は前提や業種で見え方が変わりますので、一つの指標だけで判断しないことが肝心です。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
