この記事はここがポイント
- NECの2026年3月期ROEは13.0%に上昇、デュポン分解では純利益率が5.1%から7.5%へ改善したことが主導。
- この利益率改善は、売上約7割のITサービス事業が13.4%の高採算となったことが牽引。
- 財務レバレッジを下げ自己資本比率も約49%に改善、質の高いROE向上。
「ROEが上がった」と聞くと良いことに思えますが、大事なのは"どうやって"上げたか、です。借金(レバレッジ)を効かせて見かけを上げたのか、それとも本業の稼ぐ力そのものが強くなったのか——同じROE上昇でも、中身はまるで違います。NEC<6701>の2026年3月期は、まさにこの「中身」が良いかたちで改善した一年でした。デュポン分解で、その内訳をほどいてみましょう。
ROEは9%台から13%台へ
まずROEの水準です。NECのROE(親会社の所有者に帰属する当期利益÷自己資本、期首・期末平均ベース)は、2024年3月期が8.4%、2025年3月期が9.1%、そして2026年3月期は13.0%と、この一年で一段と切り上がりました。分子である親会社帰属の当期利益は2,702億円(前年同期比+54.3%)と大きく伸びています。
日本企業の一つの目安とされるROE8%を、ここ数年は超えてはいたものの、二桁には届いていませんでした。それが2026年3月期に13%まで乗せてきた。この改善が"本物"かどうかを、次に分解して確かめます。
デュポン分解——上昇の主役は「純利益率」
ROEは、次の3つの掛け算に分解できます。
ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
NECの数字を当てはめると、2026年3月期は、売上高当期純利益率が約7.5%(前期約5.1%)、総資産回転率が約0.82回(前期約0.80回)、財務レバレッジが約2.1倍(前期約2.2倍)。掛け合わせると約13%となり、実績ROEと整合します。
ここで注目したいのは、ROEを押し上げたのが、ほぼ純利益率の改善(5.1→7.5%)だという点です。総資産回転率はほぼ横ばい、財務レバレッジにいたっては2.2倍から2.1倍へ低下しています。
つまりNECは本業の利益率を高めることでROEを引き上げたということになります。財務の健全性を示す自己資本比率も、前期の約45%から約49%へと改善しており、「守りを固めながら、攻めのROEも上げた」構図です。株式市場が最も評価するタイプのROE改善です。
利益率を押し上げたのは、採算13%台のITサービス
では、純利益率の改善は、どこから来たのでしょうか。その背景は事業セグメントの収益の変化にあります。
売上の約7割を占める「ITサービス事業」は、2026年3月期のセグメント損益が3,367億円(+33.7%)、セグメント利益率は13.4%まで高まりました。システム・インテグレーションやクラウドサービス、コンサルのアビームコンサルティング、欧州金融向けソフトのAvaloqやデンマークのKMDといった、付加価値の高い事業とその領域が採算を押し上げています。
もう一つの事業の柱であり、コアネットワークや光伝送システム、通信事業者向けソフト(OSS・BSS、米ネットクラッカー)、航空宇宙・防衛・海洋システムを手がける「社会インフラ事業」も、セグメント損益743億円(+22.9%)・利益率は8.0%と改善しました。全社の利益率が上がった背景には、この二本柱、とりわけ利益率が二桁に乗ったITサービスの採算改善があります。
資本コスト・PBRとの関係
ROEを見るうえで欠かせないのが、株主資本コストとの比較です。一般に日本株の株主資本コストは8%前後とされ、これを上回るROEを出せていれば、企業は株主の期待を超える価値を生んでいる、と評価できます。ROE約13%というNECの水準は、この目安を上回ります。
株価評価の面でも、PBR(株価純資産倍率)は「ROE×PER」に分解できる関係にあり、ROEの高まりはPBRを押し上げる方向に働きます。NECのPBRは足元で1倍を超えており、市場が「二桁ROEの持続」をある程度織り込みつつあることを示しています。ただし、これはROEがこの先も高止まりする、という前提に立った評価です。前提が崩れれば、評価も変わりうる点には注意が要ります。
元機関投資家イズミダの視点:レバレッジ頼みでないROE改善は、質が高い
私がアナリストとしてROEを見るとき、いちばん警戒するのが「レバレッジ頼みのROE」です。借金を膨らませれば、本業が強くなっていなくてもROEは上げられます。しかし、それは同時に財務リスクを高める、いわゆる「砂上の楼閣」になりがちです。その点、NECの今回のROE改善の内容は、財務レバレッジをむしろ下げながら、純利益率の上昇で達成したものということがわかりました。自己資本比率も改善しており、質の高いROE改善だと評価できます。
もっとも、手放しでは喜べません。
私がいつも申し上げているとおり、株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、勝負は値決めです。ROE13%を市場がどこまで織り込んでいるかは、PBRやPERを通じて確かめる必要があります。そして本当の勝負は、この利益率改善が続くかどうか。ITサービスの採算が一過性でなく、クラウドやコンサル、海外ソフトへのシフトとして定着するか——そこが、NECのROEが二桁で定着できるかの分かれ目だと、私は見ています。もっとも、前提しだいで景色は変わりますので、単年の数字だけで判断しないことが肝心です。
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株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
