サイゼリヤと聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのは値段ではないだろうか。安さの代名詞、という言葉が先に立つ。だが投資家の目で見たとき、この会社の利益がどこで生まれているかを言い当てられる人は、意外と少ないと思う。株価は昨秋から水準を大きく切り上げた。その裏側では、稼ぎ手の顔ぶれが静かに入れ替わりつつある。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
昨秋の4,900円台から7,800円台へ、株価が水準を入れ替えた道筋
2025年9月末の終値は4,900円台だった。そこから11か月分の月末終値を並べると、上下しながらも水準そのものが切り上がっている。
年明けにかけては厚みを増し、2026年2月末には7,000円台まで乗せた。ところが3月末、4月末と続けて下押しし、4月末には5,000円台まで戻ってしまう。
反転は初夏だ。5月末、6月末と5,400円前後で足踏みしたあと、7月末は7,800円台。2025年9月末以降の月末終値では、これが最も高い。
2026年8月時点の終値は7,300円台。7月末からは上げ幅をやや吐き出しているが、昨秋の水準からはずいぶん離れた場所にいる。
株価がなぜこう動いたのかを、単一の材料で説明するのは無理がある。相場全体の地合いも需給も絡む。ただ、この間に決算の中身が変わったことは、事実として確かめられる。
増収率17.5%を上回る増益率25.6%は、どこから来たのか
2026年8月期3Q累計の売上高は2,213億円で前年同期比+17.5%。営業利益は133億円で+25.6%、経常利益は136億円で+24.9%となった。増収率を上回る増益率が出ている。
小売業の売上高成長率の中央値は3.9%だ。同じ物差しに乗せると、この+17.5%はまるで別の水準にある。既存店の積み上げと海外の出店が同時に効いているからこその伸び方だろう。
なぜ利益がここまで伸びたのか。会社によると、国内では店内組織の構築やメニュー施策、DXの活用といった取り組みの効果で、既存店の客数と客単価がともに増加傾向にある。QRコードと携帯端末を使う注文方式は、2025年12月末までに全店舗への導入を終えた。
海外も動いている。中国の広州で新工場が竣工し、武漢に1号店を開いた。ベトナムでも3号店を出している。一方で、円安による食材価格の上昇とエネルギー価格の上昇は続いており、消費者マインドの動向に留意が必要な経営環境だとしている。
もっとも、純利益は87億円で+11.8%と、営業利益の伸びには届いていない。税金等調整前の四半期純利益131億円に対し、法人税等は44億円。前年同期は税前112億円に対して34億円だった。利益の伸びよりも税負担の伸びが大きい。
通期予想は売上高2,970億円、営業利益182億円、純利益118億円で据え置かれている。1株当たり配当金の予想は35円だ。
3Q累計時点での営業利益の進捗率は73.2%になる。9か月経過時の目安である75%をわずかに下回る水準だ。会社計画がやや保守的に置かれていると読むこともできるが、外食は四半期ごとの季節性もあるため、進捗率だけで通期を語るのは早計だろう。
連結営業利益154億円のうち、101億円はアジアが稼いでいた
2025年8月期の通期実績を、セグメントごとに分けてみる。日本は売上高1,729億円に対して営業利益50億円で、利益率は2.9%。アジアは売上高838億円に対して営業利益101億円で、利益率は12.1%だった。
売上のおよそ3分の2は日本にある。ところが連結営業利益154億円のうち、3分の2近くをアジアが持っていく。看板は国内チェーンでも、利益の重心は海外にあった。
安さの代名詞という言い方から、薄利で回している会社という像を結びやすい。だが同じ期の粗利率は58.1%で、小売業の中央値48.9%を上回る。薄いのは仕入れの段階ではない。
薄くしているのはその先だ。粗利1,490億円に対し、人件費や地代を含む販売費及び一般管理費が1,335億円かかる。外食という業態の重さが、ここに集約されている。
それでも営業利益率6.0%は小売業中央値の3.7%を上回り、ROE(自己資本利益率)9.8%も中央値7.5%より高い。自己資本比率65.0%は中央値48.9%と比べて厚い。もっとも、負債をほとんど使わない財務が資本効率の面で最適かどうかは、また別の論点だ。
投資の重さもセグメントで違う。2025年8月期の設備投資は日本100億円に対してアジア205億円。減価償却費は日本39億円、アジア118億円だった。アジアの利益率の高さは、重い資産の上に成り立っている。
なぜアジアの利益率がここまで高いのか。人気の差だけで片づけるのは乱暴だろう。海外では自前の工場を構え、そこから店舗網へ供給する形を取ってきた。
食材の加工から店頭までを自社で握る度合いが高いほど、外部に払う分は減り、売上に対して残る利益は厚くなりやすい。2026年1月に広州で新工場が竣工したのも、その延長線上にある動きと読める。豪州セグメントが食材の製造等を担っているのも同じ構図だ。
オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
