執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
20:30

1,595店舗の裏側。投資が営業キャッシュフローを追い越した局面

利益の重さを理解するには、店舗網の広がり方を見るのが早い。1Qだけで牛めし業態13店舗を含む21店舗を新規出店し、香港の子会社を連結範囲に含めたことで既存店4店舗も加わった。撤退を差し引いた期末の店舗数は、フランチャイズ店を含め1,595店舗となっている。

業態別では牛めしが1,197店舗、とんかつが195店舗、ラーメンが137店舗と続く。これに加えて全面改装1店舗、一部改装72店舗の改装も同時に走らせている。

この出店ペースは資金の流れにそのまま出る。設備投資額は2023年3月期の76億円から、2024年3月期121億円、2025年3月期173億円、2026年3月期171億円へと積み上がってきた。

2026年3月期の営業キャッシュフローは153億円あったが、投資キャッシュフローは265億円の支出。差し引きは大きくマイナスで、その穴を財務キャッシュフローの256億円の収入が埋めている。

借入は当然膨らむ。長期借入金と1年内返済予定分を合わせた残高は、2022年3月期の190億円から2026年3月期には519億円へと2.7倍になった。自己資本比率も同じ期間に52.7%から40.9%へ低下している。2026年3月期には買収に伴うのれん74億円も計上された。

外食らしくない重さと、業種の中での立ち位置

小売業の自己資本比率の中央値は48.9%であり、松屋フーズホールディングスの40.9%はこれを下回る。総資産は1,407億円まで膨らみ、うち有形固定資産が594億円を占める。

薄利多売で身軽、というイメージが先に立つ業態だが、実際のバランスシートは土地と建物と厨房設備を抱え込んだ装置産業に近い。1店舗ずつ資本を沈めて、そのうえで1杯数百円を積み上げる商売なのだから、当然といえば当然である。

もっとも、稼ぐ力そのものが弱いわけではない。2026年3月期は売上高1,844億円、営業利益75億円と前期比+72.3%、当期純利益37億円と+72.6%で着地した。2022年3月期に営業損失▲42億円まで沈んだところからの回復と考えれば、水準の戻り方は速い。

業種比較でも見劣りしない。2026年3月期のROE(自己資本利益率)は7.3%で小売業の中央値7.4%とほぼ並び、営業利益率は4%台と中央値の3.6%を上回る。

つまりこの会社は、外食としては重い資本を抱えながら、業種平均並みの資本効率を維持している。重さと効率が同時に成立しているのは、店舗を増やすほど売上が積み上がる局面が続いてきたからだ。裏を返せば、FLコストの上昇が続いて1店舗あたりの利益が薄くなると、この構図はもっとも脆くなる。

筆者コメント

ここ数年の数字を並べると、この会社の稼ぎ方が変わりつつあるのが見えてくる。コロナ禍からの回復期は、既存店が戻るだけで利益が増えた。今はそこを抜け、増えた店舗と増えた借入を、値上げと生産性で支える段階に入っている。

投資が営業キャッシュフローを上回る期間が続くとき、投資家が確かめるべきは金額の大きさではない。沈めた資本が、何年でどれだけの利益を戻すのかという回収の速さのほうだ。出店と改装が同時に走っている今は、その答えがまだ損益計算書に出そろっていない。

私が気になっているのは、人的投資の位置づけである。人件費の増加は、削れば戻る費用として扱われがちだ。だが人手が確保できなければ店は開かないのだから、この会社にとっては出店余力を買うための投資に近い。費用と投資の境目にある支出をどう読むかで、この決算の評価は変わってくる。

損益計算書の増減率だけでなく、店舗数と借入残高と自己資本比率の3つを並べて追いかける。そういう見方を持って、次の決算を眺めてみてほしい。

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石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

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