この記事はここがポイント
- JPモルガンCEOが「市場はリスクを過小評価している」と異例の警告を発信
- 米国の信用買い残は1.502兆ドルに達し、1997年以来の過去最高を記録
- 長短金利差は逆イールドが解消したものの、再逆転リスクを孕む浅い順イールドにとどまる
- 30年米国債利回りが5.11%と、リーマンショック前の水準に再接近している
- 過去の暴落前兆と類似するデータが揃う中、投資家は相場転換への備えが必要
今年に入りS&P500が約+10%の上昇を見せるなど、AI相場に牽引されて好調を維持する米国株式市場。しかしその一方で、米国最大の金融機関であるJPモルガン・チェースのCEO、ジェイミー・ダイモン氏が「株も長期国債も現在の値段では買わない」と強い警告を発し、波紋を呼んでいます。
株価が順調に推移しているにもかかわらず、なぜ金融界のトップはこれほど悲観的な見方を示しているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が現在の市場データと過去の暴落前兆を比較し、プロの投資家ならではの視点で読み解きます。
警告の震源地:JPモルガンCEOが鳴らす警鐘
2026年7月20日、米国の経済専門チャンネルCNBCにおいて、JPモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモン氏の見解が報じられました。その内容は、「市場はリスクを過小評価している」「株も長期国債も現在の値段では買わない」という非常に強いメッセージでした。
JPモルガン・チェースといえば、米国で最大の資産規模を誇る巨大金融機関です。商業銀行としての側面だけでなく、株式や債券の引受・売買を行う投資銀行部門も抱えています。泉田氏は、金融市場のど真ん中にいるトップが自ら「株を買わない」と公言することの異例さを指摘します。
「ジェイミーが市場はリスクを過小評価してるっていうことと、彼であれば今、株であったり国債は現時点の値段では買わないよという風に言ってます」
もちろん、金融界の重鎮の発言には、自身のポジションや会社の利益に有利になるよう世論を誘導する「ポジショントーク」が含まれることも少なくありません。泉田氏もその可能性を排除していません。
「大体こういう人ってポジショントークするからさ。何にもないのに結構これ強めのメッセージじゃない。なので何か裏があんのかなっていうのは思っちゃったりもするけど、ただ言ってるところに関しては根拠があったりするところもデータではある」
単なる悲観論やポジショントークとして片付けるのではなく、ダイモン氏の警告を裏付けるマクロ経済データが実際に存在していると泉田氏は分析します。ここからは、過去のバブル崩壊前に見られた「暴落の前兆」とも言える4つのデータのうち、ダイモン氏の発言を除く3つの客観的指標の現在地を確認していきます。
暴落前兆データ①:過去最高に膨張する「信用買い残」
信用買い残(マージンデット)とS&P500の推移
一つ目の重要なデータは「信用買い残(マージンデット)」です。信用取引とは、投資家が証券会社からお金を借りて、自己資金以上の金額で株式を買う(レバレッジをかける)取引のことです。この借りて買った株式の残高がどれくらいあるかを示すのが信用買い残です。
FINRA(米国金融業規制機構)の公式データによると、2026年6月時点の米国の信用買い残は1.502兆ドル(約225兆円)に達しています。これは前月比で+6.1%の増加であり、1997年以来の過去最高水準を記録しています。
インタビュワーから、信用買い残とS&P500の株価指数のグラフが非常に似た動きをしていることについて疑問が投げかけられると、泉田氏は過去の歴史を振り返りながらその危険性を解説します。株式市場が好調な時、投資家は「もっと儲けたい」という心理からお金を借りてまで株を買う傾向にあります。ITバブル(ドットコムバブル)やリーマンショック、そしてコロナバブルの際も、株価の上昇とともに信用買い残が急増し、相場が崩れると一気に縮小するというサイクルを繰り返してきました。
泉田氏は、現在の株高が実力以上の資金によって押し上げられている可能性を指摘します。
「今の株式市場って過去の水準とも全然違うし、何がそれを支えているかというと、莫大な信用取引、特に信用買いのお金によって支えられているっていうのがわかるかなと思います」
長らく続いた低金利環境下で、投資家は低いコストでお金を借りることができました。その結果、過去とは比較にならない規模の資金がレバレッジを通じて株式市場に流入しています。もし相場が下落に転じた場合、借金をして株を買っている投資家は担保価値の低下によって追加の担保(追証=マージンコール)を求められます。それに応じられなければ、損失の拡大を防ぐために持ち株を慌てて売らざるを得ず(追証回避の売り)、それがさらなる暴落を引き起こすリスクを孕んでいるのです。
暴落前兆データ②:再逆転リスクを孕む「長短金利差」
S&P500と長短金利差(10年−2年)の推移
二つ目のデータは、国債の「長短金利差」です。通常、お金を貸す期間が長いほどリスクが高まるため、長期金利(10年国債利回りなど)は短期金利(2年国債利回りなど)よりも高くなります。これを「順イールド」と呼びます。
しかし、景気が過熱して中央銀行がインフレ抑制のために短期金利を急激に引き上げると、投資家は「将来、景気が悪化して金利が下がるだろう」と予測し、長期国債を買い求めます(国債は買われると利回りが下がります)。その結果、短期金利が長期金利を上回る逆転現象が起きます。これが「逆イールド」です。
泉田氏はこの逆イールドが持つ意味について、債券市場からの強い警戒シグナルだと説明します。
「将来に不況があって、その時には債券利率が下がってるだろうっていう風な予想のもとに長期金利が下がってるっていう状況になるので、それが現れるっていうことはそもそも市場が警戒してるっていう状況なんですね」
過去の歴史を見ると、ITバブル崩壊前やリーマンショック前にも逆イールドが発生しており、その後しばらくして株式市場が下落するというパターンが繰り返されてきました。
では、現在はどうなっているのでしょうか。2022年から2024年にかけて発生していた深い逆イールドはすでに解消しており、2026年7月20日時点での10年国債と2年国債の金利差は+0.39%となっています。つまり、現在は順イールドに戻っています。
しかし、泉田氏の分析によれば、これは手放しで喜べる状況ではありません。現在はわずかなプラス圏にある「浅い順イールド」であり、少しの金利変動で再び逆イールドに陥る「再逆転リスク」を孕んだ不安定な局面なのです。
さらに泉田氏は、2022年以降の逆イールド発生時に株価が暴落しなかった理由についても言及します。
「本来であればこの逆イールドが出たタイミングで、何もイベントがなかったとすると株価も下落基調に行くっていうのが今までの歴史で言うとセオリーなんですけど、このAIの相場っていうところがそこに来た」
つまり、AIという強力な投資テーマが登場したことで、本来起こるべき調整が先送りされている可能性があるということです。悪材料を完全に織り込んでいないまま株価が上昇を続けていることが、ダイモン氏の「市場はリスクを過小評価している」という警告に繋がっていると考えられます。
暴落前兆データ③:リーマン前に再接近する「30年金利」
30年米国債利回りの推移
三つ目のデータは「30年米国債利回り」です。米国財務省のデータによると、2026年7月20日時点の30年国債利回りは5.11%に達しています。これは、リーマンショック前の2007年に記録したピークである5.35%以来の高水準圏に再接近していることを意味します。
長期金利が5%を超えると、一般の投資家の心理にはどのような影響があるのでしょうか。泉田氏は投資における「アセットアロケーション(資産配分)」の観点から解説を展開します。
現在、米国株のインデックス投資における長期的な期待利回りは約7%と言われています。株式投資には元本割れのリスクや、日々の激しい価格変動による心理的なストレスが伴います。一方で、米国債は米国政府が破綻しない限り元本が保証される安全資産です。
もし、リスクを取って株で7%を狙うよりも、安全な国債を持ち続けるだけで5%の利回りが確定するなら、投資家はどう考えるでしょうか。「もう株式市場での神経戦に疲れた」「安全確実に5%増やせるなら国債で十分だ」と考える人が増えるのは自然な流れです。
泉田氏は、この金利水準がもたらす資金移動の可能性を指摘します。
「株を売って債券を買うみたいな動きが出てくるんだとすると、株式市場も今まで通りではないよねみたいな感じではなるかなと思います」
つまり、30年金利が5%台という高い水準にあることは、株式市場から債券市場へと資金が逃避する強力な動機付けとなり、株高を支えてきた資金流出の引き金になり得るということです。
「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
