この記事はここがポイント
- 武田薬品工業の会計利益の振れは、巨額の無形資産償却など非現金費用が主因。
- 会計上の最終赤字期でも、2026年3月期に1兆円超の営業キャッシュフローを創出。
- この巨額キャッシュ創出力を背景に、最終赤字期を含め3期連続増配を維持する還元姿勢。
医薬品は不況に強く、業績が安定している。そんなイメージを持つ人は多いのではないだろうか。だが武田薬品工業(4502)の決算を並べると、その印象は少し揺らぐ。営業利益が1年で98%も縮む期があれば、最終赤字に沈む期もある。株価も昨秋から冬にかけて大きく切り上がった後、高値圏で足踏みが続く。ディフェンシブという言葉の内側で、何が起きているのかを見ていきたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
昨秋の安値から大きく上昇、その後は高値圏で伸び悩む株価
まず直近1年弱の株価を振り返る。2025年9月末は4,300円台、10月末には4,100円台まで下押しし、昨秋以降ではここが最も低い水準だった。そこから流れが変わる。冬にかけて切り上がり、2026年2月末には5,800円台と、昨秋以降で最も高い水準をつけた。
もっとも、勢いはそこまでだった。春以降は5,100〜5,200円台で伸び悩み、方向感を欠く。直近7月末は5,500円台まで持ち直したものの、2月の高値には届いていない。8月時点では5,200円台で推移している。
安値からは4割ほど水準を切り上げた場面もあった。ただ、その後の半年は上値が重い。決算の中身が読み取りにくいことが、株価の頭を押さえている可能性がある。
1Qは営業増益でも当期減益、分かれ目は税負担
2027年3月期1Qは、売上収益(IFRS)が1兆2,199億円で前年同期比+10.2%、営業利益は2,014億円で+9.1%となった。増収増益の見出しだけを見れば好調に映る。
もっとも、中身はそう単純ではない。会社の説明によると、この増収は主に円安による為替の押し上げで、恒常為替レートベースでは売上はほぼ横ばいだった。潰瘍性大腸炎・クローン病治療剤のエンタイビオや免疫グロブリン製剤、がん領域は伸びた。一方、注意欠陥/多動性障害治療剤のビバンセは、米国での後発品浸透で減収が続く。稼ぐ力の実勢は、為替を除くと足踏みに近い。
さらに当期利益は1,131億円で▲8.9%と、営業段階の増益と逆を向いた。会社は、法人所得税費用の増加が主因としている。繰延税金資産の見直しや米国の国際税制に基づく追加負担が重なった。営業利益と最終利益が逆方向に動く。この捻れが、1Qの分かりにくさの正体だ。
なお通期予想は、売上収益4兆6,400億円、営業利益4,200億円、当期利益1,660億円で据え置かれた。前期の最終赤字からの回復を見込む内容である。
オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
