ROEを分解する——デュポン分解で2024年3月期と2026年3月期を比べる
この−44%から+52%へのROEの振れが何で説明できるのかを、3つの要素に分解する「デュポン分解」で見てみます。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
決算短信の実額(総資産・自己資本=親会社所有者帰属持分)と売上収益・純損益から計算すると、次のようになります。
2024年3月期:純利益率 ▲22.6% × 総資産回転率 0.37回 × 財務レバレッジ 5.27倍 = ROE ▲44.0%
2026年3月期:純利益率 +23.7% × 総資産回転率 0.71回 × 財務レバレッジ 3.09倍 = ROE +51.9%
分解してみると、ROEの激変の正体がはっきりします。最大の要因は、売上高純利益率の反転です。▲22.6%(赤字)から+23.7%(高収益)へと、マイナスからプラスへ大きく振れました。これはメモリ価格の急騰による収益性の劇的な改善そのものです。第二に、総資産回転率の改善(0.37回→0.71回)。売上が2倍以上に伸びたことで、同じ資産からより多くの売上を生めるようになりました。
興味深いのは、3つ目の財務レバレッジです。こちらは5.27倍から3.09倍へと、むしろ低下しています。2024年3月期のキオクシアは、東芝メモリ時代の買収に伴う多額の借入金を抱え、赤字で自己資本が痩せていたため、レバレッジが5倍超という極端に高い状態でした。その後、稼いだ利益で自己資本が厚みを増し、自己資本比率が15.7%から37.9%へ回復した結果、レバレッジは下がりました。レバレッジの低下は単独ではROEを押し下げる方向に働きますが、それを補って余りあるほど、利益率と回転率の改善が大きかった——それがROE+52%の中身です。
ROE▲44%から+52%への振れをどう読むか——「サイクルのどこか」で見る
ここで大切なのは、この+51.9%というROEを「実力」と受け取らないことです。デュポン分解が示したとおり、この高ROEは主にメモリ価格の急騰による利益率の跳ね上がりで成り立っています。裏を返せば、メモリ市況が反転して価格が下がれば、利益率は再びマイナス方向へ振れ、ROEも一気にしぼみます。現に2年前は▲44%だったのですから、その振れ幅の大きさは同社自身が証明済みです。
もう一点、財務の重さも忘れてはいけません。自己資本比率は回復したとはいえ約38%で、なお多額の有利子負債を抱え、年間1,000億円弱の利息を払っています。好況のときは高いレバレッジが利益を増幅しますが、市況が悪化して赤字に転じれば、その借金は重石に変わります。見るべきは、+52%という数字の大きさそのものではなく、いまがメモリサイクルのどのあたりにいるのか、そして次の谷が来たときにどこまで沈むのか、という「振れ幅」のほうです。
イズミダの視点:数字は大きいが、これは「サイクルの山」の姿。エルピーダを忘れるな
私はかつてテクノロジーアナリストとして半導体産業を追いかけてきましたが、メモリという製品ほど、業績分析で「絶対額」に惑わされてはいけないものはありません。ROE51.9%という数字だけを見れば、日本を代表する超高収益企業に映ります。しかし2年前は▲44%だった。同じ会社が、たった2年でこれだけ振れるのです。これはキオクシアが特別に不安定なのではなく、NANDフラッシュメモリという専業ビジネスの宿命です。専業度が100%に近いからこそ、メモリ市況が全社業績に丸ごと直結し、山では途方もない利益を、谷では巨額の赤字を出す。
ここで、歴史の教訓を一つ引いておきたいのです。かつて日本のDRAMメモリ専業だったエルピーダメモリは、市況の谷で資金繰りに行き詰まり経営破綻しました。メモリは、好況のときの利益の大きさに目を奪われがちですが、本当に問われるのは「谷をどう生き延びるか」です。キオクシアは今、絶好調の決算で自己資本を厚くし、累積赤字を解消し、財務の傷を癒やしている最中です。この山のうちに、どれだけ次の谷に耐える体力(自己資本とキャッシュ)を蓄えられるか。私がいつも言うように、企業価値を決めるのは一年の利益の絶対額ではなく、サイクルを通じてどれだけ生き残り、稼ぎ続けられるかです。ROE+52%という華やかな数字の裏で、この会社が「山のうちに谷への備え」をどこまで進められるか——そこが、これからのキオクシアを見るうえで一番の注目ポイントです。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
