この記事はここがポイント
- プリマハムの2026年3月期営業利益率は1.9%と、伊藤ハム米久HDの2.7%に0.7ポイント差
- プリマハムの営業利益率の差は販管費率にあり、粗利改善を販管費増加が相殺する構造
- 過去5期、売上高は1割強増も営業利益は3分の2に減り、営業利益率3.3%から1.9%へ降下
食品株は景気に左右されにくく、収益も安定している。そんなイメージを持つ投資家は少なくないだろう。だが同じ食料品の括りの中でも、稼ぐ力の厚みには相当な開きがある。ハム・ソーセージ大手のプリマハム<2281>の株価は、昨秋に積み上げた上昇分を吐き出す動きが続いてきた。その理由を、収益性という角度から追ってみたい。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
2月末の高値から後退してきた株価の軌跡
プリマハムの株価は、2025年10月末に2,400円台後半だった。そこから月を追って緩やかに切り上がり、11月末は2,600円台、年明けの2026年1月末は2,700円台に乗せている。
2月末には2,900円台まで届いた。2025年10月末以降の月末終値で見れば、これがいちばん高い水準にあたる。
ところが3月以降は方向が変わった。3月末は2,700円台、4月末は2,400円台後半、5月末は2,400円台前半、6月末は2,300円台後半まで下押ししている。4か月でそれまでの上げ幅をほぼ戻した形だ。
7月末は2,400円台後半へ持ち直し、8月末は2,400円台半ば、2026年9月時点の終値は2,400円台前半にとどまる。2月末の水準からは1割半を超える下押しである。
ここで面白いのは、昨秋の出発点とほぼ同じ場所に戻っているという点だ。2025年10月末と比べれば小幅な下落にすぎない。11か月を通して見れば、大きく往復して元の位置に帰ってきたことになる。
株価がなぜこう動いたのかを、一つの材料で言い切ることはできない。もっとも、開示の時期との重なりは見ておく価値がある。
2月初めには2026年3月期3Q累計の開示があり、増収と経常増益が並んでいた。年明けの上昇には、この内容が意識された面があったとみられる。
一方、通期決算の開示は5月に入ってからだった。ここで最終利益が大きく減ったことが、春以降の重い値動きにつながった可能性がある。相場の地合いや需給も当然からむため、断定はできない。
いずれにせよ、動いたのは業績の実額よりも、業績に対する市場の見方の側だったと読み取れる。株価が2,300円台から2,900円台までの幅を往復するあいだ、事業の側は同じ場所に立っていた。だからこそ、その「同じ場所」の質を確かめておきたい。
増収でも営業利益が伸びない2027年3月期1Qの中身
直近の2027年3月期1Qは、売上高が1,224億円で前年同期比+5.7%となった。増収の要因について、会社はハム・ソーセージ、加工食品、食肉のいずれも数量が増えたことを挙げている。
ところが営業利益は24億円で前年同期比▲2.0%、経常利益は26億円で▲2.2%、親会社株主に帰属する四半期純利益は17億円で▲3.3%だった。売上が伸びて利益が減る、いわゆる増収減益である。
売上高に対する営業利益の比率は2.0%にとどまる。数量が動いても、利益の厚みがついてこない構図だ。
前の期も見ておこう。2026年3月期通期は売上高4,755億円で前期比+3.8%、営業利益91億円で+2.0%、経常利益111億円で+6.5%と、ここまでは増収増益だった。
崩れたのは最終段階である。当期純利益は45億円で前期比▲35.2%と大きく落ち込んだ。会社によると、ベンダー事業の悪化に伴う固定資産の減損損失と繰延税金資産の取崩し、さらに他の子会社でのれんを含む固定資産の減損損失を計上したことが影響した。
会社が示す2027年3月期の通期予想は、売上高5,000億円で+5.1%、営業利益110億円で+20.5%、当期純利益75億円で+63.5%である。利益率の回復を前提に置いた計画だ。
その計画に対する1Q時点の営業利益の進捗率は22.5%で、四半期を均等に割り付けた場合の25%には少し足りない。出足から計画を上回るペースとは言いにくい。
売上は5期で1割強増えたのに営業利益は3分の2になった
この増収減益は単年の巡り合わせではない。過去5期を並べると傾きがはっきり出る。
売上高は2022年3月期の4,207億円から、4,307億円、4,484億円、4,583億円を経て2026年3月期の4,755億円まで、5期続けて増えてきた。伸び率にすれば1割強である。
一方の営業利益は、2022年3月期の140億円が起点だった。そこから97億円、118億円、89億円、91億円と推移している。5期前のおよそ3分の2の水準だ。
営業利益率に直すと3.3%、2.3%、2.6%、2.0%、1.9%となる。売上の階段を1段ずつ上がりながら、利益率の階段を1段ずつ降りてきた5期だったといえる。
規模を追う力と、それを利益に変える力が別々に動いている。この二重の動きこそ、株価の往復の下に横たわっていた構造ではないだろうか。
伊藤ハム米久ホールディングスと並べて見える営業利益率の逆転
この薄い利益率は同社に固有の話か、それとも事業の形に付いてくるものか。比較対象を置いたほうが早い。
同じ食料品で、ハム・ソーセージと食肉を両輪に持つ伊藤ハム米久ホールディングス<2296>と並べてみる。売上規模は2倍以上違うので、絶対額ではなく比率で見ていく。
伊藤ハム米久ホールディングスの2026年3月期は、売上高1兆713億円で前期比+8.4%、営業利益284億円で+45.4%、当期純利益202億円で+54.4%だった。営業利益率は2.7%になる。
同じ期のプリマハムは1.9%である。差は0.7ポイント。利益率が2%前後の世界では、決して小さくない開きだ。
興味深いのは、この関係が3期前には逆だったことだ。2024年3月期の営業利益率はプリマハムが2.6%、伊藤ハム米久ホールディングスが2.3%。2025年3月期はどちらも2.0%で並び、2026年3月期に一方が2.7%、他方が1.9%となった。
もっとも、伊藤ハム米久ホールディングスの2026年3月期の伸びには、前期の決算期変更に伴う期間のずれが含まれると会社は説明している。ここは割り引いて見たい。
より素直に比べられるのは足元だろう。2027年3月期1Qの売上高は2,810億円で前年同期比▲5.4%、営業利益は91億円で+0.3%と、営業利益率は3.3%まで上がった。通期予想に対する営業利益の進捗率も33.9%である。
会社は減収を前期の決算期変更の反動とし、そのうえで食肉事業の収益性が向上したと説明している。同じ四半期のプリマハムが2.0%だったことを思えば、差は縮んでいない。
差を作ったのは粗利率ではなく販管費率だった
この差はどこで生まれているのか。売上総利益と販管費に分けると見え方がはっきりする。
プリマハムの売上総利益率は、2025年3月期の10.6%から2026年3月期は11.1%へ上がった。粗利の段階では改善している。ところが売上高に対する販管費の比率が、同じ期間に8.6%から9.1%へ上がった。粗利で稼いだ0.5ポイントが、そのまま販管費に吸われた形である。
伊藤ハム米久ホールディングスは逆だった。売上総利益率が13.5%から13.7%へ上がる一方、販管費の比率は11.5%から11.0%へ下がり、粗利の改善に費用の抑制が乗った。
粗利率の差は2.6ポイントで、3期を通じてほぼ一定だ。逆転は原価の構造ではなく、費用の使い方の側から起きたと読み取れる。
もう一段掘るとセグメントに行き着く。プリマハムの2026年3月期は、加工食品事業部門の売上高が3,146億円で全体の66%を占め、営業利益は79億円、部門の利益率は2.5%だった。前期比では売上高+0.4%、営業利益+0.1%とほぼ横ばいである。
対して食肉事業部門は売上高1,600億円で+11.0%、営業利益19億円で+60.4%と伸びた。ただし部門の利益率は1.2%と薄く、規模も全体の3分の1にとどまる。加工食品事業部門では23億円の減損損失も計上されている。
3分の2を占める部門が止まっていれば、残りが伸びても連結の利益率は動かない。伊藤ハム米久ホールディングスも食肉事業の収益性向上を挙げており、食肉側の追い風は2社に共通していたとみられる。差が付いたのは加工食品側だった。
食料品業種の中で2社が置かれている位置
2社だけを並べると、どちらが上かという話に落ちてしまう。第三の基準として業種の水準を置きたい。
食料品業種97社の営業利益率は、中央値が3.9%、下位四分位が2.6%、上位四分位が7.2%である。伊藤ハム米久ホールディングスの2.7%は下位四分位のあたり、プリマハムの1.9%はそれをさらに下回る。どちらも中央値には届いていない。売上総利益率で見るとさらに離れ、業種の中央値26.3%に対して2社は11.1%と13.7%にとどまる。
食品は生活必需で景気の波を受けにくい、という一般的な見方がある。だが業種の内側に入ると、食肉を仕入れて加工し売るという事業の形が、売上に対する原価の比重を重くしている姿が見えてくる。同じ食料品という括りの中に、まるで違う収益構造が同居しているわけだ。
だから中央値との開きは「劣っている」ではなく「別の作りである」と読むほうが実態に近い。そのうえでROE(自己資本利益率)を見ると、中央値6.7%に並ぶのは伊藤ハム米久ホールディングスの7.0%だけで、プリマハムは3.8%だ。
業界内での立ち位置に照らすと、プリマハムの姿はもう少し込み入って見えてくる。
相対水準では2社ともに業種の下の方にいる。それでも絶対水準の動き方は逆を向いていて、一方は利益率を切り上げ、もう一方は削られてきた。同じ追い風を受けながら結果が分かれるとき、原因は外ではなく内側にある。
自己資本比率はまだ5割を保っている。もっとも、この水準を財務の安全性として読むには流動比率や有利子負債まで見る必要があり、ここだけで健全と片付けるのは早い。
利益が縮んだぶん、配当性向は8割台後半まで上がった。還元の姿は保たれているが、稼ぐ力の回復が伴わなければ続けられる話にはなりにくい。
会社は通期で利益率の回復を計画している。それを価格で取るのか費用で取るのかは、四半期ごとの販管費の動きに出てくるはずだ。数量の伸びを利益率に結び付けられるかどうか、その一点に絞って追いかけることをおすすめしたい。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
