この記事はここがポイント
- 2026年3月期、任天堂営業利益率は15.6%、カプコン38.5%で23ポイントの差
- 任天堂の営業利益率は2期で半減、2026年3月期の売上総利益率は61.0%から39.3%へ大幅低下
- 任天堂株価は2025年10月末から2026年6月末に半値近く下落、8月末には9,000円台へ回復
ゲーム会社の利益率は高い。世間ではそう受け止められている。中でも任天堂<7974>は、ハードとソフトの両方を持つ会社として、その代表格に置かれることが多い。ところが直近の通期決算を並べると、その順序が少し崩れて見える。株価が昨秋から大きく下押しし、足元で戻してきた背景にも、この崩れが関わっているのかもしれない。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
13,000円台から6,800円台へ、8か月かけて削られた株価
任天堂の株価は、昨秋の時点で13,000円台にあった。2025年10月末も11月末もこの水準を保っており、2025年10月末以降の月末終値としては11月末が最も高い。
そこから流れが変わる。2025年12月末は10,500円台まで下押しし、2026年1月末は10,000円台に届くのがやっとという水準になった。
2026年2月末と3月末は8,000円台後半で足踏みが続く。ここでいったん下げが止まったように見える局面があった。
だが下押しはさらに進んだ。2026年4月末は7,600円台、5月末は7,100円台、そして6月末には6,800円台まで沈んだ。2025年10月末以降の月末終値では、この6月末が最も低い。
最も高い月末終値から最も低い月末終値まで、半値近くまで削られたことになる。その間の7か月、一度も明確な反転を挟まずに緩やかに下げ続けた形だ。
もっとも、そこで終わってはいない。2026年7月末は7,600円台へ戻し、8月末には9,000円台を回復した。2026年9月時点の直近終値は8,800円台で、8月末からの戻りはやや落ち着いている。
昨秋からの動きを一枚で見ると、下げの局面が8か月、戻しの局面が2か月強という非対称な形をしている。ゆっくり削られて、短く戻された。
下げ方にも特徴がある。ある月に急に崩れたのではなく、毎月少しずつ水準を切り下げていった。単発の材料で一気に売られたというより、見方の前提そのものが月ごとに書き換えられていったような動きだ。
株価の背景を一つに決めることはできない。ただ、突発的な悪材料への反応であれば、形はもっと鋭くなるのが普通だろう。これだけ緩やかな下げなら、業績の見通しの変化に沿って進んだ可能性のほうが高い。だとすれば、見るべきは決算の中身になる。
売上が倍近くに伸びて、営業利益率は半分に落ちた期
2026年3月期通期の売上高は2兆3,130億円で、前期比+98.6%。ほぼ倍増である。
営業利益は3,601億円で+27.5%、経常利益は5,421億円で+45.6%、親会社株主に帰属する当期純利益は4,240億円で+52.1%となった。
数字を並べるだけなら申し分ない。だが売上高と営業利益の伸び方が揃っていない点に、この期の性格が出ている。
売上が倍近くに増えたのに、営業利益の伸びは3割弱にとどまった。結果として営業利益率は15.6%まで下がっている。前期の24.3%、その前の期の31.6%と並べると、2期で半分になった計算だ。
もう一つ押さえておきたいのは、この会社の営業利益率がもともとどのあたりにあったかだ。2022年3月期通期は35.0%、2023年3月期通期は31.5%、2024年3月期通期は31.6%と、3割台を保っていた。それが2025年3月期通期に24.3%、2026年3月期通期に15.6%へと2段階で下がっている。5期を通して見ると、直近2期の落ち方だけが明らかに異質だ。
経常利益が営業利益を大きく上回った理由は、会社の説明にある。持分法による投資利益827億円、受取利息460億円、為替差益443億円を計上したためだ。さらに投資有価証券売却益326億円を特別利益に計上したことで、当期純利益が押し上げられている。海外売上高は1兆7,781億円で、全体の76.9%を占めた。
つまり当期純利益の水準は、本業の稼ぎだけで説明できるものではない。営業外収益と特別利益が乗った結果である。
その構造は、2027年3月期の会社計画にも表れている。売上高は2兆500億円で▲11.4%、営業利益は3,700億円で+2.7%。営業利益だけは増える計画だ。
ところが経常利益は4,300億円で▲20.7%、当期純利益は3,100億円で▲26.9%と、いずれも下向きに置かれている。営業外の追い風が続かない前提で組まれた計画と読み取れる。前期の経常利益を膨らませた要因は、どれも本業の外側にあったものだった。
一方、2027年3月期1Qの実績を見ると、売上高5,178億円に対して営業利益1,425億円。営業利益率は27.5%まで戻している。通期計画に対する営業利益の進捗率は38.5%で、4分の1のペースを大きく上回る立ち上がりだ。
株価の動きと重ねると、この順序はやや示唆的である。通期決算のあとに下押しが続き、6月末に最も低い水準をつけた。1Qの数字が出た7月末から8月末にかけて、株価は9,000円台まで戻している。利益率が戻ってきたことが意識された可能性はある。ただ株価は決算だけで動くものではなく、相場全体の地合いや需給も絡む。単一の要因に寄せて読むのは避けたい。
同じ2026年3月期通期、カプコンの営業利益率は38.5%だった
ここで並べたいのがカプコン<9697>だ。家庭用ゲームの主要な作り手として、任天堂と同じ棚に置かれることが多い。決算期も3月期で揃っているため、同じ年度を並べても景気の局面がずれない。
ただし2社の作りは違う。任天堂はハードとソフトの両方を持ち、カプコンはソフトに寄っている。売上規模も10倍以上離れており、比率で見るほかない。
カプコンの2026年3月期通期は、売上高1,953億円で前期比+15.2%、営業利益752億円で+14.5%、当期純利益545億円で+12.7%だった。営業利益率は38.5%になる。
同じ期の任天堂は15.6%。差は23.0ポイントである。規模で10倍以上大きい側が、利益率では大きく下回っている。
ゲーム会社の中でも任天堂は高収益の代表格、という受け止め方は広くある。ハードとソフトの両方を握る強さも、たしかにこの会社の特徴だ。ただ利益率という一本の物差しで並べた限りでは、その順序は成り立っていない。2つの見方が同時に成り立っていると考えるべきだろう。
差の推移を追うと、細かい姿が出る。2023年3月期通期の差は8.9ポイント、2024年3月期通期は5.8ポイント。それが2025年3月期通期で14.5ポイント、2026年3月期通期で23.0ポイントに開いた。差がついたのは、直近2期に集中している。
23ポイントの差は売上総利益率の段階でついていた
23ポイントの差は、どこでついたのか。売上総利益率と販管費率に分けると、置き場所がはっきりする。
任天堂の2026年3月期通期の売上総利益率は39.3%、カプコンは56.4%。ここで17.1ポイントの差がある。販管費の売上高に対する比率は任天堂23.7%、カプコン17.9%で、こちらの差は5.9ポイント。合わせて23.0ポイントになる。
差の4分の3が、経費の使い方ではなく売上総利益率の段階で決まっていた計算だ。
見逃せないのは、これが昔からの姿ではないという点である。任天堂の売上総利益率は2023年3月期通期が55.3%、2024年3月期通期が57.1%、2025年3月期通期は61.0%まで切り上がっていた。同じ期のカプコンは58.2%で、任天堂のほうが高い。
それが2026年3月期通期で39.3%へ落ちている。1期で20ポイントを超える下がり方だ。売上が倍近くに増えた期にこれだけ下がるのは、増えた売上の中身が従来と違うためだと読むのが素直だろう。原価率の重い売上が構成の中で膨らんだ、という理解になる。
対してカプコンの売上総利益率は、4期を通じて55%台から58%台に収まっている。売るものの構成がほとんど動いていないためだ。ハードを併営する会社の収益性は、本体の販売が伸びる局面で原価率が上がりやすい。この性質を織り込むと、任天堂の落ち込みは稼ぐ力そのものの劣化とは別のものに見えてくる。
2社とも自分の業種では上位四分位を超えている
2社だけを並べると、どちらが優れているかの話に落ちてしまう。第三の物差しを置きたい。
任天堂が属する「その他製品」は67社で構成され、2026年3月期の営業利益率の中央値は4.7%、上位四分位(上から4分の1にあたる水準)は8.0%。任天堂の15.6%はその2倍近い。
カプコンが属する「情報・通信業」は325社で、中央値8.6%、上位四分位15.9%。カプコンの38.5%は2.4倍だ。ROE(自己資本利益率)も同じ形で、任天堂14.9%はその他製品の中央値6.2%を、カプコン22.1%は情報・通信業の中央値11.1%を、それぞれ大きく上回る。
つまり2社とも、自分の属する区分の上位にいる。任天堂の利益率が下がったのは、業界の水準まで沈んだという話ではない。上位にいる会社同士の間に23ポイントの差がある、という話である。
物差しを変えると順序も変わる。従業員1人あたりの営業利益で見ると、任天堂は4,100万円台、カプコンは1,800万円台。比率では下回る側が、1人あたりの絶対額では2倍以上を稼いでいる。規模の効き方は、指標によって逆を向く。
なお自己資本比率は任天堂77.6%、カプコン78.8%で、利益率の差ほど離れていない。もっとも、負債をほとんど使わない財務が資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。
同業他社との相対比較で見ると、この2社はどちらも自分の区分の上位にいる。数字の上で優劣を決める話にはならない。
ただ、その「上位」の中身が2社で違う。カプコンが属する区分には、似た作りの会社が数多く集まっている。上位にいることは、同類の中で勝っているという意味になる。
任天堂の区分はそうではない。事業モデルの揃わない会社が同居しており、真ん中の水準と比べても自分の場所がはっきりしない。上位にいるという事実そのものの情報量が、そもそも薄いのだ。
となれば任天堂の収益性を測る物差しは、区分の平均でも他社でもなく、製品の周期の中にいる自分自身になるのだろう。数期前の自分と比べて今どこにいるのか。この見方のほうが実像に近い。
ハードを持つ会社の利益率は、景気よりも製品の周期で振れる。周期のどこにいるかを先に押さえてから業績を見る、という順序で決算に向き合うことをおすすめしたい。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
