良品計画とニトリホールディングス、ROEは16%と9%。4,300円台へ切り上がった株価と資本効率の差はどこから来たのか
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執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
18:30
良品計画とニトリホールディングス、ROEは16%と9%。4,300円台へ切り上がった株価と資本効率の差はどこから来たのか
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この記事はここがポイント

  • 良品計画のROE16.3%に対しニトリ9.4%、その差は総資産回転率が主要因
  • ニトリは土地等固定資産、良品計画は棚卸資産に重心。回転率に影響
  • 良品計画株価は3割強上昇、営業利益36%増、通期予想3度上方修正

無印良品と聞いて思い浮かぶのは、簡素な日用品と静かな売り場ではないだろうか。ところが良品計画<7453>の株価は、その落ち着いたイメージとは対照的に、昨秋から今夏にかけてかなりの角度で切り上がってきた。何がこの動きを支えたのか。そして同じ小売業のなかで、同社の稼ぎ方はどこが他社と違うのか。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

株価を1年で3割超押し上げたのは何だったのか

出所:各種資料をもとに筆者作成

出発点は決して強い場面ではなかった。2025年10月末の終値は3,100円台で、そこから年末にかけて緩やかに下押しし、12月末には2,700円台まで沈んでいる。2025年10月末以降の月末終値では、この12月末が最も低い水準にあたる。

流れが変わったのは年明けからだ。1月末に3,000円台へ戻し、2月末には3,500円台まで一気に切り上がった。3月末は3,300円台へ一服したが、そこから4月末に3,600円台、5月末に3,800円台と、階段を上るような形で水準を積み上げていった。

6月末はいったん3,500円台へ下押しする。相場全体の地合いや、それまでの上昇分の調整が意識された可能性はある。ただ、この下押しは長引かなかった。

7月末には4,100円台へ大きく上昇し、8月末には4,300円台に達した。8月末は2025年10月末以降の月末終値で最も高い水準である。2026年9月時点の終値は4,200円台で、直近もこの高い水準を保っている。

昨秋の起点から8月末までを並べると、株価は3割強の上昇となる。年末の底からは1.5倍を超える計算になり、ボラティリティ(株価の値動きの激しさ)の高い1年だったといえる。生活雑貨の小売という、どちらかといえば地味に見える事業で、この振れ幅である。

動き方にも特徴がある。なだらかな右肩上がりではなく、年明けと初夏の2回、はっきりした段差が付いている。材料が一度に織り込まれたのではなく、評価が何度かに分けて切り替わったと読むほうが自然だろう。

注目したいのは、下押しの場面が毎回短かった点だ。12月末と6月末の2回、水準を落とす局面があったが、いずれも数か月で元の水準を回復している。買い手の層が厚かった1年と読み取れる。

では、その切り替えを支えたものは何なのか。決算の数字に当たってみたい。

営業利益+36%、期中に3度引き上げられた通期予想

株価の切り上がりと歩調を合わせるように、業績の数字も伸びてきた。2026年8月期3Q累計の営業収益は6,908億円で前年同期比+16.9%、営業利益は808億円で同+36.0%、経常利益は824億円で同+42.5%、親会社株主に帰属する四半期純利益は586億円で同+34.3%となった。増収率を大きく上回るペースで利益が伸びている。

なぜ利益の伸びが売上の伸びを追い越したのか。会社の説明によると、営業収益は国内外での出店による店舗数の増加に加え、海外事業の売上が伸長したことで増収となった。そのうえで、生産体制の内製化による原価低減や値下げの抑制により営業総利益率の改善が進み、営業利益が増益になったという。

つまり、店を増やして売上を伸ばしただけではない。作り方と売り方の両面で1個当たりの利益を厚くしたことが、増益率を押し上げた構図である。3Q累計の営業利益率は11.7%まで届いている。

利益の下支えには一時的な要素も混ざる。純利益については固定資産除却損を計上した一方、政策保有株式の売却およびランサムウェアによる第三者からの不正アクセスによるシステム障害に係る補償金等を計上したことで増益になった、と会社は説明している。純利益の増益率をそのまま実力値として読むのは避けたいところだ。

見逃せないのは通期予想の動き方である。2026年8月期の通期営業利益予想は、期の初めに790億円として置かれ、その後890億円、さらに980億円へと引き上げられてきた。3Q累計の808億円は、この980億円に対して8割強の進捗にあたる。会社計画の置き方が期中に3度も切り上がる期は、そう多くない。

通期予想どおりに着地すれば、営業収益は9,070億円で前期比+15.6%、親会社株主に帰属する当期純利益は670億円で同+31.8%となる。株価が段差を付けて上がった局面と、この予想の切り上がりは、時期の面でも重なっている。

時間軸を広げると、伸びの継続性も見えてくる。2021年8月期の営業収益は4,537億円で、2025年8月期は7,846億円だった。4期で7割超の増加である。この増加率を既存店の伸びだけで説明するのは難しく、出店と海外の寄与が積み上がった結果と考えられる。

店舗網の中身も動いている。3Q末時点の無印良品の店舗数はライセンスドストアを含めて国内外計1,463店舗で、国内708店舗に対し海外は755店舗と、海外が国内を上回る。会社は特に中国大陸事業で店舗のスクラップアンドビルドを推進しているとしており、単純な店舗数の積み増しではなく、入れ替えを伴った拡大であることが読み取れる。

財務の側も傷んでいない。3Q末の自己資本比率は60.4%で、出店を続けながらこの水準を保っている。増収と増益、店舗の入れ替え、そして自己資本の厚み。株価が段差を付けて切り上がった背景として、これらが順次評価されていった可能性は高い。

ROEで7ポイント近い差、ニトリと並べて見えるもの

ここまでは良品計画の話である。では、この稼ぎ方は小売業のなかでどう位置づけられるのか。

比べる相手として自然なのは、同じく生活空間まわりの商品を自社で企画して売るニトリホールディングス<9843>だろう。売り場の雰囲気も価格帯も違うが、家具や生活雑貨を買うときに並んで頭に浮かぶ2社である。

資本効率の指標を置くと、印象とは違う絵が出てくる。良品計画のROE(自己資本利益率、株主の出したお金でどれだけ利益を上げたかを示す指標)は2025年8月期に16.3%だった。一方、ニトリホールディングスの2026年3月期のROEは9.4%である。7ポイント近い差が開いている。

しかもこの差は固定的ではない。3期前は良品計画のROEが下にあり、その後の推移で順位が入れ替わった。

規模が大きいほうが効率も高い、とはならない。ニトリホールディングスの2026年3月期の売上収益(IFRS)は9,122億円で、総資産は1兆5,713億円ある。良品計画の総資産5,627億円の3倍近い規模を持ちながら、ROEは低い。

足元の局面も対照的だ。ニトリホールディングスの2027年3月期1Qは売上収益2,263億円で前年同期比▲2.3%、営業利益365億円で同▲1.1%の減収減益だった。会社は、消費者態度指数の回復遅れで耐久消費財への購買意欲が減退し、家具・インテリア業界がその影響を強く受けていると説明している。

出所:株式会社良品計画および株式会社ニトリホールディングス 有価証券報告書をもとに筆者作成
ROEの順位はこの3期で入れ替わった

差を作ったのは利益率ではなく総資産回転率だった

ROEは「純利益率」「総資産回転率」「財務レバレッジ」の3つに分けて眺めると構造が見えやすい。掛け算の答えが同じでも、どの項目で稼いでいるかは会社ごとに違う。

順に当てると、意外な結果になる。純利益率は良品計画が6.5%、ニトリホールディングスが9.8%で、利益率では後者のほうが厚い。財務レバレッジ(総資産を自己資本で割った倍率)は1.82倍と1.59倍で、差はあるが決定的ではない。

残った1項目で差が開く。総資産回転率、つまり資産1円がいくらの売上を生んだかを見ると、良品計画は1.39回、ニトリホールディングスは0.58回である。2倍以上の開きだ。ROEの差は、ここでほぼ説明がつく。

なぜこれだけ違うのか。資産の中身を見ると答えは明快だ。ニトリホールディングスの有形固定資産は9,090億円で総資産の6割近くを占め、そのうち土地が4,658億円ある。対する良品計画の有形固定資産は1,099億円で総資産の2割弱、土地は9億円にとどまる。

店舗の不動産を自ら持つか、借りるか。この選択が貸借対照表の重さを分け、回転率の差として表面化している。重い資産は長期の安定性をもたらすが、資本効率の物差しでは分母を膨らませる。

もっとも、良品計画の資産構成にも癖がある。棚卸資産が1,700億円で総資産の3割を占め、ニトリホールディングスの1,222億円・総資産の1割弱とは重心の置き方が逆だ。前者は「回す資産」に、後者は「持つ資産」に寄っている。

小売業の中央値に照らすと、両社はどちらも回転で稼いでいない

2社だけでは優劣の話に落ちる。第三の基準として、小売業258社の中央値を置いてみたい。

ROEの中央値は7.4%、上位四分位の境目は12.0%である。良品計画の16.3%は上位四分位を超え、ニトリホールディングスの9.4%も中央値は上回る。

ここで面白いのが回転率だ。小売業の総資産回転率の中央値は1.50回である。良品計画の1.39回はこれをわずかに下回り、ニトリホールディングスの0.58回は遠く及ばない。

小売業と聞くと、薄い利幅の商品を数多く回して稼ぐ商売という見方が先に立つ。ところが業種内で高い資本効率を実現している2社は、どちらもその回転率に届いていない。代わりに稼いでいるのが利益率で、小売業の純利益率の中央値2.4%に対し、両社はいずれも数倍の厚みを持つ。

自社で企画して自社の売り場で売り切るモデルは、卸を経由する分の粗利を自社に取り込みやすい。回転で稼ぐ業種のなかで、利益率で資本効率を作る型の2社が上位に来ている構図だ。

同社の過去5期を眺めると、資本効率の指標は年ごとにかなり振れている。最も低い期と最も高い期では2倍近い開きがあり、水準が一本調子で積み上がってきたわけではない。単年の数字だけを追っていると、この振れ幅は掴めない。

戻り方に特徴がある。沈んだ期からの回復を分解すると、利益率と回転率という事業側の2つが同時に持ち直している。その一方で財務レバレッジはむしろ下がっており、借入を積んで自己資本を薄くしたことでROEが上がったのではない。資本構成に手を付けずに資本効率を戻したという意味で、質の良い回復と評価してよいだろう。

裏返せば、資本構成の側にはまだ動かせる余地が残っている。レバレッジを引き上げずに資本効率を作る形が最適かどうかは、また別に議論すべき論点だ。

一方で、回す資産に重心を置く構造は、売れ行きが鈍った局面での耐性が試される。棚卸資産の重さは、需要が強い時期には回転率の高さとして現れ、弱い時期には評価の負担として現れる。株価の水準ではなく資産の中身を見ておく姿勢を、この銘柄ではおすすめしたい。

免責事項

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