監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
13:22

第3の物差し「CAPE型PER」で測る期待値

ここまでの2つの物差しで、「株価は経済規模に対して極めて高い(バフェット指標)」が、「企業は過去にないほど利益を稼いでいる(稼ぐ力)」という相反する事実が見えてきました。

では、投資家はその「利益」に対して、現在どれくらいの「期待」を込めてお金を払っているのでしょうか。それを測るのが第3の物差し、「CAPE(ケイプ)型の株価収益率(PER)」です。

ドットコム期には及ばないが「安くはない」現在地

PER(株価収益率)とは、企業の株価が「1株あたりの利益」の何倍まで買われているかを示す指標です。一般的に、PERが高いほど投資家の将来への期待値(成長への期待)が高く、割高に買われていることを意味します。

今回泉田氏が用いる「CAPE型の株価収益率」は、公的統計から作成された独自の指標です。一般的なPERは直近1年間の利益を使いますが、CAPE型は景気の波(好況・不況)による利益のブレを平準化するため、インフレ調整(物価上昇による見かけ上の金額の膨らみを取り除き、昔の利益と今の利益を同じ物差しで比べられるようにする処理)を行った上で、過去10年分の平均的な利益を用いて計算されます(※一般に公表されるS&P500ベースのシラーPERとは分子・分母の定義が異なり、数値は一致しません)。

米国株の景気循環調整後の株価収益率(CAPE型・1965-2026Q1)

米国株の景気循環調整後の株価収益率(CAPE型・1965-2026Q1)
出所:FRED(Z.1 NCBEILQ027S ÷ NIPA W328RC1Q027SBEA の10年実質平均・GDPDEFで実質化)を基にイズミダイズム作成3/3
米国株の景気循環調整後の株価収益率(CAPE型・1965-2026Q1)

現在のCAPE型PERは「37.7倍」です。この水準をどう評価すべきでしょうか。

再びドットコム・バブルの絶頂期(2000年1-3月期)と比較してみます。当時のCAPE型PERは「49.4倍」という異常な高値をつけていました。泉田氏が前述した通り、当時は「利益を出していないのに株価が熱狂していた」ため、利益に対する株価の倍率が極端に跳ね上がっていたのです。

それに比べれば、現在の37.7倍はドットコム期の49.4倍には及んでいません。企業の稼ぐ力が伴っている分、利益に対する割高度合いは当時ほど異常ではないと言えます。

しかし、だからといって「今は割安だ」と安心できるわけではありません。

「過去と比べるとピークではないけども安いとは決して言えない。なんなら中央値よりも全然高い」

泉田氏がこう警告するように、CAPE型PERの長期中央値は「22.1倍」です。現在の37.7倍は中央値の約1.7倍にあたり、過去の約92%の時期よりも高い水準にあります。ドットコム期という歴史的な異常値には達していないものの、決して安い水準ではなく、投資家の期待が相当に膨らんでいる状態であることは間違いありません。

なお、米国市場のPERを見ると、日本市場のPERよりも一貫して高い水準にあることに気づくかもしれません。しかし、米国企業と日本企業では、将来の事業成長に対する期待値や、経済そのものの成長規模が異なるため、両者のPER水準を単純に比較して「米国株は高すぎる」と結論づけることは適切ではない点には注意が必要です。

3つの物差しが示す「まだら模様」の現在地

ここまで、米国株式市場をマクロ視点で俯瞰するための3つの物差しを見てきました。

  1. バフェット指標:2.18倍と歴史的な高水準にあり、ドットコム期を超え「割高」を示唆している。
  2. 稼ぐ力(利益率):7.32%と極めて高く、ドットコム期とは異なり「高い株価を正当化しうる実力」を示している。
  3. CAPE型PER:37.7倍と、過去のピークには及ばないものの、長期中央値を大きく上回り「安くはない」状態にある。

これら3つの指標が指し示す方向は、見事にバラバラです。ある側面から見れば危険なバブルに見え、別の側面から見れば実力を伴った正当な上昇に見えます。市場の専門家たちの意見が「もう買うべきではない」と「まだ伸びる」の真っ二つに分かれている理由は、まさにこの指標の「まだら模様」にあります。

このような方向感が定まらない相場環境において、投資家はどのように立ち回るべきなのでしょうか。泉田氏は、自身の機関投資家としての経験から、非常に興味深い経験則を語っています。

「今日、いろいろな指標でどの位置にあるかを説明してきたんだけど、どっちつかずのときが一番株儲かるんですよ」

一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれません。しかし、市場参加者全員が「まだまだいける」と熱狂しきった時こそが相場の天井であり、逆に全員が「もうダメだ」と総悲観に陥った時が相場の大底となるのが株式市場の常です。

現在のように、強気と弱気のシグナルが混在し、投資家たちが疑心暗鬼になりながらも市場に参加している「どっちつかず」の状況こそが、実はまだ相場が上昇する余地を残しているタイミングであると泉田氏は指摘します。

ただし、高い株価が正当化されている背景には、企業が歴史的な高収益を維持しているという絶対条件があります。もし、今後の決算で企業の稼ぐ力に陰りが見え始めた場合、この微妙なバランスは崩れ、バリュエーションの修正(株価の下落)が起きるリスクを常に孕んでいます。

現在の米国株は、高い実力と高い期待が拮抗する薄氷の上に成り立っています。では、その高い株価を支えているのは、一体誰の、どのようなお金なのでしょうか。家計の資産構成や証券口座の信用取引の状況など「お金の出し手」の構造に目を向けると、また違った市場の危うさが見えてきます。

参考資料

  • 米国 非金融企業の株式時価総額・名目GDP(FRED / BEA統計)
  • 米国 非金融企業の税引後利益(BEA統計)
  • 米国株の景気循環調整後PER(公的統計をもとに独自算出)
  • The Master Investor Podcast(2026年7月・JPモルガン ジェイミー・ダイモンCEOのインタビュー)および同発言に関する各種報道
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

※本記事は、元機関投資家・泉田良輔氏の分析に基づく解説記事です。投資に関する最終的な判断は、読者ご自身の自己責任において行われますようお願いいたします。

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泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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