米国株は本当に割高なのか?元機関投資家が3つのマクロ指標で読み解く市場の現在地
出所:イズミダイズム
監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
13:22
米国株は本当に割高なのか?元機関投資家が3つのマクロ指標で読み解く市場の現在地
出所:イズミダイズム

この記事はここがポイント

  • 企業分析だけでなく、経済全体を俯瞰する「マクロ視点」が市場の温度感を測る鍵となる
  • 第1の物差し「バフェット指標」は2.18倍に達し、ドットコム期を超える上位数%の水準にある
  • 第2の物差し「稼ぐ力(利益率)」は7.32%と高く、企業の高い収益力が株価を正当化する側面もある
  • 第3の物差し「CAPE型PER」は37.7倍で、過去のピークには及ばないものの決して安くはない
  • 3つの指標が異なる方向を示す「まだら模様」の相場こそ、投資家にとって最大の機会となり得ると泉田氏は語る

JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOが2026年7月、ポッドキャスト番組のインタビューで「現在の価格ではS&P500も長期国債も買わない」と語り、市場が地政学リスクや財政赤字を過小評価していると警告した一方で、「まだまだ市場は伸びる余地がある」という強気な見方も根強く存在しています。現在の米国株式市場は、一体どちらの主張が実態に近いのでしょうか。歴史的な高値圏にあるとされる株価ですが、その現在地を正確に把握するためには、個別の企業業績だけでなく、経済全体を俯瞰する視点が欠かせません。一体なぜ、これほどまでに市場の評価が真っ二つに分かれているのでしょうか。この点について、元機関投資家の泉田良輔氏が、3つの重要なマクロ指標を用いて現在の米国株の「割高度」を徹底的に解説します。

株式市場を「マクロ」で俯瞰する意味とは

株式投資を始めると、多くの人は特定の企業の業績やビジネスモデルに注目します。「この会社の提供するサービスは素晴らしい」「最近の決算発表で利益が大きく伸びていた」といった個別の要因から、その企業の株が「買い」か「売り」かを判断しようとするのが一般的です。

しかし、どれほど優れた企業であっても、その国全体の経済状況や世界の市場環境といった大きな波から完全に逃れることはできません。好景気で市場全体にお金が溢れているときと、不景気で投資家がリスクを避けているときとでは、同じ利益を出している企業でも株価の評価(バリュエーション)は大きく変わってしまいます。

このように、個別の企業から入るのではなく、大きな経済の枠組みから市場全体を見渡すアプローチを「トップダウン視点」や「マクロ分析」と呼びます。

泉田氏はこのマクロ視点の重要性について、次のように指摘しています。

「企業ってやっぱり大きな経済の中の一部に過ぎないので、やっぱり時折マクロで俯瞰して、その企業が置かれている環境とか、そもそも株式市場の温度感っていうのも見る必要がある」

つまり、個別の木(企業)を見るだけでなく、森全体(マクロ経済)が現在どのような季節にあるのかを知ることが、投資判断において極めて重要だということです。特に現在のように、市場の先行きに対して極端な悲観論と楽観論が入り乱れている状況では、客観的なデータに基づいた「市場の温度計」を確認する作業が欠かせません。

次章からは、泉田氏が提示する3つの具体的な「物差し」を使って、米国株式市場の現在の温度感を測っていきましょう。

第1の物差し「バフェット指標」が示す熱狂度

市場全体の割高度を測る上で、最も有名でよく使われる指標の一つが「バフェット指標」です。著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が市場の過熱感を測るために重視しているとされることから、この名が付けられました。

指標の定義と「時間的ギャップ」という限界

バフェット指標は、国の経済規模を示す「名目GDP(国内総生産)」に対して、株式市場の「時価総額」がどの程度の割合に達しているかを示すものです。

名目GDPとは、その国で1年間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額であり、経済の「実体」を表します。一方、株式の時価総額は、企業の株価に発行済株式数を掛け合わせたものの合計であり、投資家からの「評価」を表します。実体経済のサイズに対して、株式市場の評価が大きくなりすぎていれば「割高」、小さければ「割安」と判断するシンプルな仕組みです。

なお、今回泉田氏が用いるバフェット指標は、分子に米国の非金融法人が発行する株式の時価総額を使用しています。これは上場企業の株式だけでなく非上場株式の評価額も含み、その一方で金融業は除いたものです(一般に紹介されることの多い「上場株式の時価総額÷GDP」とは集計範囲が異なります)。金融業を除外する理由は、金利の変動によって金融機関の生み出す価値が大きくブレてしまうため、その影響を排除してより正確に実体経済と企業の価値を比較するためです。

非常に分かりやすい指標ですが、泉田氏はこの指標を使う上で知っておくべき「限界」があると注意を促します。

「短期的にはそもそもGDPって四半期ごとにしか発表されないし、なんだったら過去のものしか数字がないんで、僕よく言うんだけど『バックミラーを見ている状態』」

GDPのデータは数ヶ月遅れで発表されるため、私たちが目にするのは常に「過去の経済状態」です。これに対して、株式市場の性質は大きく異なります。

「一方、株式市場って将来の期待とか利益の成長余地とかを織り込むんで、かなり先を見ている『フォワードルッキング』のものなので、それと過去のものを比べること自体、ちょっと時間的なギャップがそもそもある」

つまり、バフェット指標は「過去の実績(GDP)」と「未来への期待(株価)」を割り算しているため、日々の短期的な株価の動きを予測するのには向いていません。しかし、数年単位の長期的な視点で市場が現在どの位置にあるのか、歴史的な過熱感がないかを俯瞰するためには、依然として非常に有効なツールとなります。

ドットコム・バブルを超える「2.18倍」の意味

では、現在の米国市場において、このバフェット指標はどのような数値を示しているのでしょうか。以下の図をご覧ください。

米国 非金融企業の株式時価総額 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)

米国 非金融企業の株式時価総額 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)
出所:FRED(FRB 資金循環統計 Z.1 NCBEILQ027S ÷ BEA 名目GDP)を基にイズミダイズム作成1/3
米国 非金融企業の株式時価総額 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)

このグラフは、1965年から現在に至るまでのバフェット指標の推移を示しています。一目見て分かるのは、2010年頃を起点として、右肩上がりのトレンドが長期にわたって続いていることです。

泉田氏はこの上昇トレンドの起点について、2009年の0.69倍という水準が「リーマンショック」による底であったと解説します。当時、投資家は株式に対して極度の不安を抱き、実体経済(GDP)に対して株価が極めて安く放置されていました。

そこから上昇を続け、現在のバフェット指標は「2.18倍」に達しています。この水準が歴史的に見てどれほど高いのかを理解するために、過去のバブル期と比較してみましょう。

1990年代後半から2000年にかけて起きた「ドットコム・バブル(ITバブル)」の絶頂期において、バフェット指標は1.63倍でした。

「ドットコムバブルの時が1.63で今が2.18で、そういう意味ではその時よりも高い状態が今」

泉田氏が語る通り、現在の2.18倍という数値は、ドットコム期を大きく上回っています。統計的に見ても、1965年以降の全期間において98.4パーセンタイル(上位約1.6%)に位置しており、長期中央値(過去の数値を小さい順に並べたときのちょうど真ん中の値。平均値とは異なります)である0.79倍の約2.8倍という極めて高い水準にあります。直近のピークである2025年10-12月期の2.29倍からはわずかに低下したものの、依然として歴史的な高値圏です。

一般的に、バフェット指標は1倍がひとつの目安とされ、1.5倍を超えると市場の警戒感が強まり、2倍を超えると明確に「割高」とみなされることが多いと泉田氏は指摘します。ただし、新型コロナウイルス禍で中央銀行が市場に大量の資金を供給(流動性の過剰供給)した局面では、2021年10-12月期に2.19倍というコロナ相場の天井を記録しました。

このように、第1の物差しであるバフェット指標だけを見れば、現在の米国株式市場は極めて加熱しており、「割高である」という結論に傾きやすくなります。

第2の物差し「稼ぐ力」からの反証

バフェット指標が歴史的な高水準にあると聞くと、多くの投資家は「今すぐ株を売るべきではないか」と不安を覚えるかもしれません。しかし、マクロ分析においては一つの指標だけで結論を急ぐのは危険です。

ここで泉田氏が提示するのが、第2の物差しである企業の「稼ぐ力」です。

企業の実力は「割高」を正当化できるか

株価が実体経済に対して大きく膨らんでいるとしても、もし企業がそれに見合うだけの「利益」を実際に稼ぎ出しているのであれば、その高い株価は必ずしもバブル(実体のない熱狂)とは言えません。

そこで泉田氏は、金融業を除く企業の「税引後利益(最終利益)」を名目GDPで割った指標に注目します。これは、経済全体の規模に対して、企業がどれだけの利益を生み出しているか、つまり「企業の収益力」を示す指標です。

米国 非金融企業の税引後利益 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)

米国 非金融企業の税引後利益 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)
出所:FRED(BEA NIPA W328RC1Q027SBEA ÷ BEA 名目GDP)を基にイズミダイズム作成2/3
米国 非金融企業の税引後利益 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)

このグラフを見ると、1980年代以降、企業の利益率が一貫して上昇トレンドを描いていることが分かります。特に注目すべきは現在の数値です。

現在の税引後利益÷GDPは「7.32%」となっています(利益は在庫評価調整・資本減耗調整を行った後の値を使用しています)。これは長期中央値である4.49%の約1.63倍にあたり、過去の歴史の中で97.1パーセンタイルという非常に高い水準です。特に2020年には、第1四半期の5.15%から第3四半期の7.34%へと、わずかな期間で利益率が一段階切り上がる(+2.19ポイント)という劇的な変化も起きています。

利益率7.32%が示す過去との決定的な違い

この「7.32%」という高い収益力は、過去のバブル期と現在を比較する上で決定的な意味を持ちます。

先ほど、バフェット指標の比較で登場した2000年1-3月期のドットコム・バブル絶頂期を振り返ってみましょう。当時、株価は熱狂的に上昇していましたが、実はこのときの税引後利益÷GDPは「3.37%」に過ぎませんでした。この3.37%という数値は、長期中央値を下回る下位16パーセンタイルの水準です。

つまり、ドットコム期は「企業がたいして利益を稼げていないのに、期待だけで株価が跳ね上がっていた」という、まさに実体の伴わないバブルだったと言えます。現在の利益率7.32%は、ドットコム期の約2.2倍に相当します。当時の収益力の位置づけとは正反対の状況にあるのです。

この事実について、泉田氏は次のように分析します。

「一概にバフェット指標の水準だけで議論するのではなくて、企業が本当に稼いでいたら別に株式市場はさらに期待してもいい」

もし企業が経済規模に対してこれほど高い利益を継続して叩き出せるのであれば、バフェット指標が示す高い株価も、ある程度は「実力を反映した正当な評価」として説明がつくことになります。「割高だから売り」という単純なロジックに対して、この第2の物差しは強力な反証となっているのです。

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イズミダイズム
泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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