半年に一度、家計簿を見直すシーズンでもある7月。 夏のボーナスや上期の収支を整理しながら、「そういえば老後の年金って、税金や保険料でいくら引かれるんだっけ」「額面に対して手取りはどのくらいになるのだろう」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
今年度の年金額は前年度から国民年金(基礎年金)が+1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が+2.0%の増額改定となりました。額面が増えるのは嬉しいニュースですが、実際にはここから税金や社会保険料が天引きされるため、手元に残る金額を正しく把握しておくことが大切です。
筆者は金融メディアの編集記者として、一次資料に基づく金融・経済データと向き合っています。また、実生活において家族の介護を通じて直面したリアルなお金の問題から、老後の安心は「手取りベースでの正確な家計把握」から始まると痛感しています。
今回はその視点から、公的年金から天引きされる「税金2つ+社会保険料2つ」の合計4項目について、対象やタイミングを優しく詳しく解説します。
さらに、最新の統計データから読み解く「シニア世帯のリアルな家計収支」に加え、「介護や終活にまつわる想定外の出費」についても触れていきます。
年金の基本、国民年金と厚生年金は「2階建て構造」
公的年金は、基礎部分となる「国民年金」と、上乗せ部分にあたる「厚生年金」から成り立つ2階建て構造です。
日本の年金制度は2階建て
年金は現役世代の給与と同じく「所得」扱いです。額面から一定の税金・社会保険料が引かれ、その残りが実際に振り込まれるという構造になっています。
2026年度の年金額はすべて「額面」表示
公的年金の支給日は「偶数月の15日(※)」で、2026年度の改定額が反映されたのは6月15日支給分(4月・5月分)からでした。
次回の支給日は8月14日(金)です。
令和8年度の年金額の例
- 国民年金(老齢基礎年金):7万608円(1人分)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分)
※15日が土日祝日の場合、直前の平日に前倒しされます。
これらは「額面」です。ここから、税金と社会保険料が天引きされます。
老齢年金から天引きされる「4つのお金」の正体
年金からの天引き内容が確認できる「年金振込通知書」
老齢年金から天引きされるのは、以下の4項目です。「税金グループ(2つ)」と「社会保険料グループ(2つ)」に大別できます。
引かれるお金A【税金グループ】
①所得税および復興特別所得税
- 対象:65歳以上で年金額158万円以上、または65歳未満で108万円以上の受給者
- タイミング:毎回の年金支給時に源泉徴収
- ポイント:「扶養親族等申告書」を提出すると税率が軽減されます
②個人住民税
- 対象:65歳以上で年金額18万円以上の受給者(住民税課税対象)
- タイミング:年6回の年金支給時に特別徴収
- ポイント:前年の所得に応じて課税されるため、退職直後は現役時代の高い所得を基準に課税されがち
引かれるお金B【社会保険料グループ】
③国民健康保険料または後期高齢者医療保険料
- 対象:65〜74歳は国民健康保険、75歳以上は後期高齢者医療保険。年金額18万円以上が対象
- タイミング:年6回の年金支給時に特別徴収
- ポイント:所得と資産、世帯構成によって保険料が決まる。自治体により差が大きい
④介護保険料
- 対象:65歳以上(第1号被保険者)で年金額18万円以上
- タイミング:年6回の年金支給時に特別徴収
- ポイント:市町村ごとに保険料額が異なる。所得段階に応じて9〜13段階に区分される
【年金の手取り額だけで暮らせる?】データが示すシニア家計のリアル
額面と手取りの違いを把握したところで、実際に現在のシニア世代がどのような家計運営を行っているのか、最新の統計データから等身大の姿を紐解いてみましょう。
無職シニア世帯は毎月「約3万〜4万円」の赤字
総務省が公表した「家計調査報告 家計収支編(2025年)」によると、シニア世帯のリアルな収支バランスは以下のようになっています。
【家計収支】65歳以上の夫婦のみの無職世帯
65歳以上の夫婦のみの無職世帯
65歳以上の夫婦のみの無職世帯のモデルケースを見ると、月間の実収入は平均25万4395円(うち社会保障給付が22万8614円)。
これに対し、税金や保険料などを差し引いた可処分所得(手取り)は約22万1544円です。一方で、食費や光熱費などの消費支出は約26万3979円にのぼり、毎月約4万2434円の赤字が生じています。
【家計収支】65歳以上の単身無職世帯
65歳以上の単身無職世帯
65歳以上の単身無職世帯のモデルケースを見ると、月間の実収入は平均13万1456円で、税金や保険料を引いた手取りは約11万8465円です。
対して消費支出は14万8445円となり、こちらも毎月約2万9980円の赤字です。
70歳代の貯蓄は「平均2416万円」も、実態は二極化
こうした毎月の赤字を補うためには、現役時代に蓄えた貯蓄の取り崩しが不可欠です。
参考に、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」から70歳代・二人以上世帯の貯蓄事情を見てみましょう。
70歳代・二人以上世帯の貯蓄事情《平均・中央値・世帯差》
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は、平均2416万円です。
ただし、この平均値は一部の高額資産保有者によって引き上げられています。
より一般的な実感に近いとされる中央値を見ると「1178万円」にとどまります。
さらに、金融資産をほとんど持たない世帯も約1割存在し、同じ年代でも貯蓄状況は大きく二極化しているのが現実です。
赤字だけじゃない!家計を揺るがす“老後の隠れ出費”とは
筆者は認知症介護と看取りを経験していますが、老後の家計を揺るがす最大の要因は「想定外の大きな出費」です。
日々の生活費の赤字に加えて、介護や終活にはまとまったお金が必要になるケースが少なくありません。
LIFULL介護が2026年6月に発表した試算によれば、要介護状態で在宅介護を1年経た後、有料老人ホームに5年入居した場合、必要な金額は一人あたり「約2300万円」にのぼるとされています。
さらに、株式会社Speeeの「ケアスル 介護」が2026年5月に発表した調査結果では、物価高騰の影響により、現在介護施設に入居している家族の「4人に1人以上」が、入居時よりも月額費用が高くなったと回答しています。
年金収入は大きく増えない中で、施設の利用料が月々1万円でも値上がりすれば、長期的には家計にとって非常に重い負担としてのしかかってきます。
また、お墓の問題を始めとする「終活」も決して他人事ではありません。
近年は子どもに負担を残さないために「墓じまい」や「改葬」を検討する人が増えていますが、いざ実行しようとすると数十万円から百万円単位の費用がかかることも珍しくなく、こうしたまとまった出費が家計への大きな懸念材料となっています。
このように、シニア世代の家計は日々の生活費だけでなく、介護費用の高騰や終活系のこまごまとした「見えにくい支出」とも向き合う必要があります。
だからこそ、表面的な年金の「額面」に安心するのではなく、差し引かれる税金や保険料を考慮した「手取り」を把握し、そこからいかにやりくりしていくかを早い段階で考えておくことが求められるのです。
【一覧まとめ】年金から天引きされるお金
- 税金:所得税+復興特別所得税・個人住民税
- 社会保険料:国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)・介護保険料
天引きされる金額のイメージ(目安)
引かれる金額は、お住まいの自治体や前年の所得によっても異なりますが、おおむね 「額面の10〜20%程度」 がひとつの目安となります。
- 年金が月額15万円の場合 : 月1.5万〜3万円ほど引かれ、手取りは12万〜13.5万円程度に
- 年金が月額25万円の場合 : 月2.5万〜5万円ほど引かれ、手取りは20万〜22.5万円程度に
税金や社会保険料は、年金額(所得)が多くなるほど引かれる金額の割合も大きくなる構造であることを、ぜひ心に留めておいてください。
まとめにかえて
ここまで、年金から天引きされる4つの税金・保険料の仕組みをはじめ、シニア世帯のリアルな家計収支、そして介護や終活にかかる費用までを幅広く見てきました。
老後の家計プランを立てる上での鉄則は、表面的な「額面」ではなく「手取りベース」の年金額を正確に把握することです。
その上で、毎月発生しうる数万円の生活費の不足分と、ご自身の貯蓄額(シニア世帯の貯蓄中央値1178万円などをひとつの目安に)、そして将来訪れるかもしれない介護の「想定外の出費」や終活の「見えにくい支出」を一度じっくり照らし合わせてみましょう。
参考資料
早大卒。証券外務員二種・相続診断士。15年の書籍校閲で培ったファクトチェック力を武器に、一次資料に基づく「お金と暮らし」の分析記事を担当する編集記者。認知症介護経験をいかし、読者目線に立った情報発信も。
