最近、国会で専業主婦向けの「第3号被保険者」制度の縮小議論が本格化し、ご自身の将来の年金に不安を抱く方も多いのではないでしょうか。子どもが独立して夫の定年退職が見えてくる時期は、これからの人生を見つめ直し、熟年離婚を視野に入れるご家庭も少なくありません。
筆者がFPとしてライフプランのご相談をお受けする際、「年金分割制度があるから離婚しても老後は何とかなる」と誤解されている方も中にはいました。今回は、厚生労働省の最新データをもとに、熟年離婚後のリアルな年金受給額と年金分割の仕組みについてわかりやすく解説します。
年金の基本、国民年金と厚生年金は「2階建て構造」
公的年金は、基礎部分となる「国民年金」と、上乗せ部分にあたる「厚生年金」から成り立つ2階建て構造です。
国民年金は加入期間で決まり、厚生年金は加入期間と現役時代の収入で決まります。夫婦のどちらか片方だけが厚生年金に長く加入していた場合、離婚するとその後の年金額に大きな差が生まれてしまうため、日本では「年金分割制度」が用意されています。
2026年度、モデル夫婦世帯の年金は月23万7279円
公的年金の支給日は「偶数月の15日(※)」で、2026年度の改定額が反映されたのは6月15日支給分(4月・5月分)からでした。次回の支給日は8月14日(金)です。
令和8年度の年金額の例
- 国民年金(老齢基礎年金):7万608円(1人分)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分)
※15日が土日祝日の場合、直前の平日に前倒しされます。
「夫が会社員として40年間平均的な収入で就業、妻は扶養内パートや専業主婦で国民年金のみ」というモデル世帯の月額は約23万7279円。これが熟年離婚で個々に分かれた場合、どう変わるかが問題です。
熟年離婚時の「年金分割制度」とは
年金分割は、婚姻期間中に納めた厚生年金の記録を、離婚時に夫婦間で分けられる制度です。ポイントは3つあります。
分けられるのは「厚生年金の報酬比例部分」だけ
年金分割の対象になるのは、婚姻期間中に積み上げた厚生年金の記録のみ。老齢基礎年金(国民年金)や、婚姻前・離婚後に積み立てた分は対象外です。
分割方法は「合意分割」と「3号分割」の2種類
- 合意分割:夫婦の話し合い(合意)に基づき、按分割合(上限50%)を決めて分ける方法
- 3号分割:2008年4月以降の第3号被保険者(専業主婦・主夫)期間について、相手の合意なしに一律50%で分ける方法
離婚後「2年」→「5年」以内に手続きが必要
年金分割の請求は、これまで原則として離婚から2年以内とされていましたが、2026年度の制度改正により「離婚から5年以内」に延長されました。手続きの猶予は伸びましたが、期限を過ぎると分割できなくなるため、離婚後は早めに日本年金機構へ手続きを行うよう注意が必要です。
熟年離婚後の年金額を試算する
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」の男女別データをもとに、熟年離婚後の年金額のイメージを見ていきましょう。
厚生年金:年金月額階級別の受給権者数
- 厚生年金〈男性〉平均月額:16万9967円
- 厚生年金〈女性〉平均月額:11万1413円
- 国民年金〈男性〉平均月額:6万1595円
- 国民年金〈女性〉平均月額:5万7582円
典型的な「片働きモデル世帯(夫は厚生年金、妻は国民年金のみ)」で熟年離婚した場合、年金分割を最大限(合意で50%)行うと、妻はおおむね月8〜9万円台、夫は月13万円台前後になるイメージです(ざっくり試算)。
分割前と比べて夫は約4〜5万円減、妻は3〜4万円プラス。妻が一方的に多く受け取れるようになる」というわけではなく、あくまで婚姻期間中に夫婦で築き上げた共有財産(年金記録)を公平に分け合う、というイメージに近いのが実態です。
まとめにかえて
長年寄り添った夫婦であっても、セカンドライフを目前にして別の道を歩む選択をすることは決して珍しいことではありません。しかし、準備不足のまま熟年離婚を決断してしまうと、その後の長い老後生活で経済的な困窮に直面する恐れがあります。
特に年金分割については「離婚すれば夫の年金が半分もらえる」と誤解されている方も多いですが、実際に対象となるのは厚生年金部分のみであり、妻の受給額は月8〜9万円台にとどまるのが現実です。
さらに昨今は、国会で専業主婦が加入する「第3号被保険者」制度を縮小する議論も本格化しており、今後の年金を取り巻く環境は決して楽観視できません。年金だけで自立した生活を送ることは難しいため、離婚後の住まいや就労による収入源の確保など、綿密な生活設計が欠かせません。
まずは、日本年金機構で「年金分割のための情報通知書」を取り寄せ、実際の数字をご自身の目で確認してみてはいかがでしょうか。具体的な金額を知ることで、離婚という選択肢だけでなく、夫婦関係の再構築など新しい道が見えてくるかもしれません。
これからの人生をあなたらしく、そして心豊かに過ごすためにも、お金の現実としっかり向き合ってみてくださいね。焦らず、まずは情報収集から一歩を踏み出してみましょう。
参考資料
日本生命保険相互会社出身。元マネースクール講師、現役FP(CFP®・1級FP技能士)でJ-FLEC認定アドバイザー。保険から年金、資産運用まで幅広い知見を持ち、「お金の先生」としてLIMO&ファイナンス編集部にてわかりやすく信頼できる記事をお届けします。
