【個人向け国債】変動10年タイプは本当にインフレに強いのか?商品設計上、連動しているのは物価ではなく金利というのが盲点だった
出所:モニクルリサーチ
執筆者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
11:09
【個人向け国債】変動10年タイプは本当にインフレに強いのか?商品設計上、連動しているのは物価ではなく金利というのが盲点だった
出所:モニクルリサーチ

この記事はここがポイント

  • 変動10年が連動するのは10年国債の入札利回り×0.66であり、消費者物価指数ではない
  • 2024年1月はコアCPI+2.0%に対し変動10年0.4%と、物価に1.5%ポイント以上届かず
  • 9月募集の1.95%も税引後は1.554%で、コアCPI+1.7%をまだ下回る水準

「個人向け国債の変動10年は、インフレに強い」——そう説明されることがよくありますが、本当でしょうか?

半年ごとに利率が見直されるので、物価が上がる局面でも取り残されにくい。たしかに、固定5年や固定3年と比べればそのとおりです。

ただ、「インフレに強い」という言い方は、一段飛ばしになっています。個人向け国債の商品設計を確かめておくと、この商品の性格がはっきりします。

連動しているのは物価ではなく金利

変動10年の適用利率は、次の式で決まります。

適用利率 = 基準金利 × 0.66(下限は年0.05%)

この基準金利は、利子計算期間開始日の前月までの最後に行われた10年固定利付国債の入札における平均落札利回りです。消費者物価指数は、どこにも出てきません。

つまり変動10年は、物価に連動しているのではなく、長期金利に連動しています。 利率の決まり方そのものについては「【10月7日利率発表】固定5年と変動10年、なぜ期間が長いほうが利率が低いのか」で解説しています。

では、物価は金利には反映されていないのでしょうか?

そんなことはありません。当然、物価が上がれば日銀が利上げを検討し、長期金利が上がり、その結果として変動10年の利率も上がる。この経路があるので、間接的にはインフレに効きます。

ただ、経路が一段多いということは、途中で止まることがあるという意味でもあります。

物価が2%でも、利率が0.4%だった時期がある

実際に止まっていた時期があります。

2024年1月のコアCPI(生鮮食品を除く総合)は前年同月比+2.0%でした。一方、同じ月に募集をした個人向け国債(募集が1月、発行が2月)は、変動10年が0.4%、固定5年が0.18%です。

変動10年物は物価に1.5%ポイント以上届いていません。 こうしてみると、変動金利の商品設計になっていながらも、短期的には物価上昇に追いつけていなかったことになります。

理由は、当時の日銀がイールドカーブ・コントロールで長期金利を低い水準に抑えていたからです。物価は上がっていても、基準金利となる10年国債の利回りが動かなければ、「×0.66」を掛ける前の段階で金利は上がらないことになります。

物価が上がっても、金利が上がらなければ利率は動かない。 2022年から2024年にかけての日本は、まさにその状態でした。

税引後で見ると、いまもまだ物価に届いていない

では、長期金利が3%台まで上がったいまはどうでしょうか。

9月募集分の利率は、変動10年が1.95%、固定5年が2.24%です。直近のコアCPIは2026年8月で+1.7%でした。

表面の数字だけを見れば、変動10年の1.95%は物価を0.25%ポイント上回っています。ようやく追いついた、と言えそうです。

ただし、利子には20.315%の税金がかかります。手元に残るのは1.95% × 0.79685 = 1.554% です。

コアCPIの+1.7%には、まだ0.15%ポイント届いていません。

100万円で考えると分かりやすいと思います。1年間に受け取る利子は税引後で1万5539円。同じ1年で物価が1.7%上がれば、100万円の購買力は1万7000円分目減りします。差し引きで約1461円のマイナスです。

固定5年のほうは、税引後で1.785%。こちらはコアCPIをわずかに0.085%ポイント上回ります。表面利率では変動10年が物価を上回り、税引後では固定5年だけが上回る。 順位が入れ替わります。

個人向け国債のラインナップに現時点で物価連動型はない

ここで、こう思われた方もいるかもしれません。物価そのものに連動する国債はないのか、と。

国債全体で言えば、物価連動国債という商品があります。元本が全国消費者物価指数に合わせて増減する仕組みで、インフレに直接連動します。

ただし、個人向け国債のラインナップは変動10年・固定5年・固定3年の3本だけで、物価連動型は入っていません。 物価連動国債に個人がアクセスする場合は、証券会社の取り扱いや投資信託を経由することになり、毎月の募集で誰でも1万円から買える個人向け国債とは、入り口がまったく違います。

「インフレ対策で変動10年を」と考えるときは、選んでいるのは物価連動商品ではないという前提を置いておく必要があります。

「インフレに強い」は「金利上昇についていける」という意味

変動10年の強みは、インフレに連動することではなく、金利が上がったときに置いていかれないことです。固定5年を2.24%で買えば、その後に長期金利が4%になっても2.24%のままですが、変動10年なら半年ごとに取り直せます。

金利上昇局面で変動10年が選ばれる理由はここにあります。この点は「【9月の個人向け国債】長期金利3%時代に『変動10年』と『固定5年』どちらを選ぶか?」でも整理されています。

個人向け国債への投資に関しての注意点としては、物価上昇に日銀が反応し、長期金利が動いたときに限って、その強みが働きます。 物価だけが上がって金利が据え置かれる局面では、変動金利であっても取り残されます。2022年から2024年が、その実例でした。

元機関投資家イズミダの視点

債券を見るときに欠かせないのが、「名目」ではなく、「実質」で考えるという習慣です。

名目の利回りから物価上昇率を引いたものを「実質金利」と呼びます。3%で運用できても物価が4%上がっていれば、購買力は減っています。逆に0.5%しかなくても物価が下がっていれば、購買力は増えます。見るべきは、増えた金額ではなく、買えるものの量です。

日本では長いあいだ、この区別を意識しなくても大きな支障がありませんでした。物価がほとんど動かなかったからです。むしろデフレというマクロ環境でしたので、金利がなくても、現金の価値は年々増していたのです。名目と実質がほぼ同じなら、分けて考える必要はありません。

しかし、2022年以降、その前提が変わりました。物価が1%台から2%台で動く世界では、名目の数字だけを見ていると判断を誤ります。利率が0.1%から1.95%になったという変化は大きなニュースですが、それが物価を上回っているかどうかは、別の計算が要ります。

その上で、「税引前」ではなく、「税引後」で見る癖をつけておきたいところです。1.95%は手元では1.554%になります。物価と比べるべきなのは、後者のほうです。

インフレ対策として債券を持つのであれば、確認する順番は決まってきます。表面の利率ではなく税引後の利率を見て、それを直近の物価上昇率と並べる。差がプラスなら購買力は守れていて、マイナスなら守れていない。金利の先行きを当てにいく必要はありません。いま手元に残る利率が、いまの物価を上回っているか。 まずはそこだけ確かめれば十分だと思います。

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泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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