この記事はここがポイント
- 東京エレクトロンは商社として創業、子会社製造品を本体が販売する構造。
- 2026年3月期は売上高2.4兆円で過去最高、ROE29.6%・営業利益率25.6%の高水準。
- 単一セグメントゆえ半導体サイクルに左右され、株価は昨秋から2.4倍超に変動。
半導体製造装置と聞けば、巨大な工場とクリーンルームを思い描く人が多いだろう。だが東京エレクトロン<8035>の出発点は、装置づくりではなく貿易だった。輸出入を手がける会社として生まれた一社が、いまは世界有数の装置メーカーとして立っている。その来歴は、現在の収益構造にも痕跡を残している。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
創業事業は装置づくりではなく、輸出入だった
私は長いあいだ、この会社を生粋の装置メーカーだと思っていた。だが有価証券報告書の沿革をたどると、書かれている出発点はまるで違う。
1963年11月、東京都港区に設立されたのは「東京エレクトロン研究所」という会社である。資本金は5百万円。東京放送の関係会社として産声を上げた。
そして最初に始めた業務が、VTRやカーラジオなどの輸出と、電子機器関係の輸入だった。つまり創業時の生業は、ものを作ることではなく、ものを運んで売ることにあった。
研究所という社名を掲げながら、実態は貿易を手がける会社だったわけだ。東京証券取引所市場第二部への上場は1980年6月、第一部への指定替えは1984年3月。設立から一部上場まで20年を要している。
半導体製造装置の名前で知られるようになったのは、そのあとの話である。創業の姿と現在の姿のあいだには、業態の転換がはっきりと挟まっている。
ここで終われば単なる雑学だ。面白いのは、この出自が過去の話で終わっていない点にある。
「仕入れて売る会社」という骨格は、いまも残っている
2026年3月期の有価証券報告書は、当社グループを当社および27社の関係会社で構成される「半導体製造装置」の単一セグメントと記している。多角化ではなく、一本化の方向へ歩んできた会社だ。
そのうえで、本体の役割がこう書かれている。当社は、連結子会社である東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ、東京エレクトロン九州、東京エレクトロン宮城などが製造した製品を仕入れて販売している、と。
製造は子会社が担い、本体は仕入れて売る。保守サービスは東京エレクトロンFEや米国、韓国、欧州の各現地法人が引き受ける。創業期の輸出入業と同じ骨格が、そのまま残っている。
数字にも表れる。2026年3月期の連結売上高は2兆4,435億円だが、提出会社単体の売上高は2兆2,115億円に達する。連結の9割を本体が計上している計算だ。
一方で、連結の従業員数は20,236人に対し、単体は2,309人にとどまる。売上の9割を、人員の1割強で回している構図である。
装置産業と聞けば重厚長大な製造業のイメージが先に立つ。だが本体を切り出して見れば、そこにあるのは少人数で世界中に売る販売の機能だ。もっとも、有形固定資産は1年で1,476億円増えて5,893億円になっている。宮城県大和町と熊本県合志市の開発棟、岩手県奥州市の生産・物流センターが竣工したためだ。身軽な販売会社と、巨額の設備を抱える製造グループ。この二つは矛盾せず、同じ会社の中で同時に成り立っている。
売る相手の顔ぶれも絞り込まれている。2026年3月期の主な相手先別販売実績を見ると、Samsung Electronicsが3,680億円で15.1%、Taiwan Semiconductor Manufacturing Companyが3,158億円で12.9%を占める。前期はそれぞれ2,868億円で11.8%、2,806億円で11.5%だった。上位2社だけで全体の3割近くに届き、しかもその比率は1年で上がっている。
海外売上高比率は90.2%。国内売上高が2,394億円で前期比+26.0%と伸びた一方、海外売上高は2兆2,041億円で▲1.7%となった。輸出入の会社として始まった企業が、いまは売上の9割を海外で稼ぐ。出自と現在が、ここで一本の線でつながる。
事業の絞り込みも進んだ。2023年3月期の時点では、半導体製造装置2兆1,552億円(構成比97.6%)と並んでFPD製造装置536億円(同2.4%)が報告セグメントとして開示されていた。いまはその区分が消え、単一セグメントになっている。
営業段階は減益、最終利益は過去最高。ズレはどこから来たのか
2026年3月期通期の売上高は2兆4,435億円で前期比+0.5%。2期連続で過去最高を更新した。
会社の説明によると、AIサーバー等の先端技術が要求される領域での設備投資が活発に行われ、付加価値の高い製品の販売が好調に推移した。加えて、旺盛な半導体需要で顧客の工場稼働率が上昇し、過去に販売した装置に対する改造や保守用部品・サービスの売上も堅調に増加したという。
装置を一度売れば終わりではなく、稼働が続くかぎり部品とサービスが積み上がる。この繰り返し需要が土台にあることは、収益の質を考えるうえで見逃せない。
ところが利益は逆を向いた。売上総利益率は45.3%と前期から1.8ポイント低下し、営業利益は6,249億円で▲10.4%、営業利益率は25.6%と3.1ポイント下がっている。
会社は原材料の高騰や人件費の増加を収益性低下の要因に挙げ、半導体の技術革新を支えるべく積極的な研究開発活動を推進したとしている。研究開発費の総額は2,778億円で、前期から+11.1%増えた。売る力は落ちていないが、作るコストと未来への投資が利幅を削った期と読み取れる。
それでも親会社株主に帰属する当期純利益は5,744億円で+5.6%、過去最高を更新した。営業段階で二桁減益なのに最終段階で最高益になるのは、通常の商売の外側で利益が出たからだ。
同社によれば、当期の特別利益1,207億円は主に政策保有株式を一部売却し、投資有価証券売却益1,154億円を計上したことによる。本業の利幅が薄くなった局面で、貸借対照表に眠っていた資産の整理が最終利益を押し上げた形である。
過去5期を並べると、この会社の性格がよく見える。営業利益率は2022年3月期の29.9%から2023年3月期28.0%、2024年3月期24.9%と落ち、2025年3月期に28.7%へ戻り、2026年3月期は25.6%へ再び下がった。
売上高も1兆8,305億円から2兆4,435億円までの幅で振れている。単一セグメントの会社だから、需要の波を吸収してくれる別事業がない。投資サイクルの上下が、そのまま利益率の上下として出る構造だ。
直近はどうか。2027年3月期1Qの売上高は7,323億円、営業利益は2,114億円で、営業利益率は28.9%となった。通期の25.6%からは切り上がっている。まもなく上期の決算発表を迎える局面であり、この水準が続くかどうかが次の論点になるだろう。
株価の振れ幅と、収益構造の厚みをどう並べるか
株価の動きは荒い。2025年10月末の終値は34,000円台だったが、11月末には31,800円まで下押しした。昨秋以降の月末終値では、これが最も低い水準である。
そこから流れが変わる。2026年1月末に41,000円台、2月末に44,000円台まで戻し、3月末にいったん37,000円台へ沈んだあと、4月末44,000円台、5月末52,000円台と切り上げた。
そして6月末の終値は77,150円。昨秋以降の月末終値では最も高い水準で、11月末の安値からは2.4倍を超える。
もっとも、その後は7月末に55,000円台まで大きく下落し、8月末は56,000円台、2026年9月時点の終値は52,000円台で推移している。わずか数か月で上下に大きく振れたことになる。
背景を単一の要因で語ることはできない。AI関連の設備投資期待が先行して買われ、その期待が巻き戻される場面で売られた可能性は高い。決算そのものより、半導体サイクルをどう織り込むかが値動きを支配していたようにみえる。
では、この振れ幅の下にある収益構造はどうか。2026年3月期のROEは29.6%。電気機器182社の中央値7.7%に対して4倍近い。営業利益率25.6%も、中央値6.7%はもちろん上位25%の水準である11.4%を大きく上回る。
財務も厚い。自己資本比率は71.5%で、業種中央値62.2%を上回る。フリーキャッシュ・フローは過去最高の4,332億円となり、配当性向50%に基づく配当と自己株式取得で4,216億円を株主に還元した。会社の説明では、これはフリーキャッシュ・フローの97%に相当する。業種の配当性向中央値が35.4%であることを踏まえると、還元の姿勢は明確に前に出ている。
ただし、自己資本比率が高いこと自体を健全さの証明として片づけるのは早い。負債をほとんど使わない財務が資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点である。稼ぐ力が強いからこそ、資本をどう使うかの巧拙が問われる。
報告セグメントが複数から一つへ畳まれたことが、この会社の見え方を変えた転換点だと私は考えている。
かつてはFPD製造装置という別の顔があり、そこに需要サイクルの違う事業が同居していた。いまは単一セグメントとして、半導体投資の波に真正面から乗る形になっている。
これは弱さではない。集中しているからこそ、先端領域の設備投資が動いた瞬間に利益率が跳ね上がる。半面、波が引けば利幅は素直に削られる。株価が数か月で大きく上下するのも、この構造を市場が正しく理解しているからこそだろう。
面白いのは、その集中を選んだ会社の本体が、いまも「仕入れて売る」立場にとどまっていることだ。製造は子会社、販売は本体という分業は、創業期の輸出入業から途切れずに続いている。
会社の姿を測るとき、私たちはつい業種名で輪郭を描いてしまう。だが有価証券報告書の沿革と事業の内容を並べて読むと、その輪郭はもう少し複雑だと分かる。決算数値だけでなく、会社がどう組み立てられているかにも目を向けることをおすすめしたい。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
