この記事はここがポイント
- ロームの2026年3月期自己資本比率は59.1%で京セラや業種中央値を下回り、財務の厚みは希薄化。
- 昨秋から株価が2倍近く上昇する一方、2期連続減損損失計上で巨額の最終赤字を記録。
- 安定した営業キャッシュフローと手元現金の増加は、自己資本比率とは異なる高い流動性。
電子部品や半導体のメーカーと聞いて、借金の少ない厚い財務を思い浮かべる人は多いだろう。ローム<6963>も、長くそのイメージで語られてきた会社だ。ところが直近の数字を並べると、その姿は静かに変わりつつあるように見える。株価が昨秋から水準を切り上げる一方で、財務の厚みは着実に削られてきた。この二つは、同じ会社の中で同時に起きている。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
2,000円台から5,000円台へ、株価が水準を変えた半年
2025年10月末の終値は2,400円台だった。翌11月末には2,000円台まで下押しし、2025年10月末以降の月末終値では、ここが最も低い水準になる。
そこからの動きは速い。12月末に2,200円台へ戻すと、2026年1月末は2,600円台、2月末は2,800円台、3月末は3,000円台。月を追って階段を上がるように水準が切り上がっていった。
4月末は3,300円台。そして5月末には5,400円台まで一気に跳ねた。2025年10月末以降の月末終値では、ここが最も高い。ひと月で6割前後の上昇である。
株価の急な変化には複数の要因が絡むのが普通だ。ただこの局面については、会社が示した今期計画が意識された可能性が高い。ロームは2027年3月期の営業利益を300億円、前期比+176.1%と置いている。前期の実績が108億円だったことを踏まえれば、かなり強気な絵である。
もっとも、上げた水準がそのまま定着したわけではない。6月末は5,300円台で横ばい圏、7月末には4,300円台まで2割強を吐き出した。8月末は4,800円台へ戻し、2026年9月時点の直近終値も4,800円台にある。
昨秋の2,400円台と比べれば2倍近い水準だ。ただし5月末の高い水準からは1割強低い。ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)の高い状態が続いていると見るのが素直だろう。
半年で2倍になり、そこから2割落ち、また戻す。この振れ幅は、業績の実勢が半年で倍になったからではない。会社の先行きをどう見積もるかという市場側の前提が、その都度書き換わっていると読むほうが自然に思える。
営業赤字から黒字転換、それでも当期純損失1,584億円
2026年3月期通期の売上高は4,811億円で前期比+7.3%、営業利益は108億円と前期の営業損失から黒字転換した。経常利益も192億円を確保している。
それでも親会社株主に帰属する当期純利益は▲1,584億円の赤字だった。特別損失2,154億円のうち、1,936億円が減損損失である。営業段階では戻していたのに、最終損益は大きく沈んだ。
減損はこの期だけの話ではない。前期の2025年3月期にも303億円を計上しており、2期続けて資産の価値を切り下げている。2025年3月期は営業損失▲400億円、当期純損失▲500億円だった。2期を合わせれば、当期純損失は2,000億円を超える。
会社はこの期間について、生産拠点の再編、事業ポートフォリオの適正化、価格の適正化といった構造改革と、SiC(炭化ケイ素)事業の収益化を進めていると説明している。設備投資を必要最小限に抑えて固定費の増加を抑制し、原材料費の上昇を踏まえた価格転嫁の交渉も進めた、としている。2028年度を最終年度とする第2期中期経営計画のもとでの動きだ。
続く2027年3月期1Qは、様子がはっきり変わった。売上高は1,357億円で前年同期比+16.8%、営業利益は96億円。前年同期のわずか1億円台からの回復である。経常利益は112億円で同+352.6%、親会社株主に帰属する四半期純利益は90億円で同+203.6%となった。
増収の中身について、会社は自動車市場の増収に加え、産業機器市場とコンピュータ&ストレージ市場でも増収になったとしている。営業利益については、売上高の増加に加えて、前期に実施した減損処理に伴う減価償却費の減少が寄与した、と明記している。
ここは読み流したくないところだ。減損は自己資本を削る処理だが、切り下げた資産はその後の減価償却を生まない。財務の厚みを失ったことと、足元の利益が軽く見えることは、会計上ひと続きの現象である。
通期計画は売上高5,100億円、営業利益300億円、当期純利益290億円。配当は年間50円で据え置きだ。
5期でぶれなかったのは営業キャッシュフローだった
損益がこれだけ振れた5期でも、ほとんど動かなかった数字がある。営業キャッシュフローだ。2022年3月期から順に921億円、986億円、828億円、839億円、894億円。800億円台から900億円台のレンジを外れていない。
売上高が4,521億円から5,078億円へ伸び、そこから4,484億円まで下がり、再び4,811億円へ戻る間も、営業段階の現金収支は動じていない。減損は損益計算書を大きく揺らすが、現金は出ていかない。この差が、そのまま数字に出ている。
一方で設備投資は大きく振れた。799億円、1,261億円、1,867億円、1,330億円、824億円という並びで、2024年3月期にピークを打ち、直近では半分以下まで絞っている。設備投資を必要最小限にしたという会社の説明が、そのまま金額に表れた形だ。
その結果、2026年3月期末の現金は4,287億円まで積み上がった。前期末の2,349億円から大きく増えている。損益は赤字でも、手元の現金は厚くなった期だったと言える。
京セラと並べると見えてくる、厚い自己資本の中身
財務の厚みは、他社と並べたほうが輪郭が出る。選んだのは京セラ<6971>だ。同じ電気機器に分類され、決算期も3月末で揃う。事業の重なりは部分的だが、財務の作り方の違いを見るには扱いやすい相手である。
2026年3月期の自己資本比率は、ロームが59.1%、京セラが71.9%。差は12.8ポイントで、京セラのほうが厚い。
規模はまるで違う。京セラの売上収益(IFRS)は2兆702億円でロームの4.3倍、総資産も4兆6,463億円とロームの1兆2,835億円の3.6倍にあたる。
それでも有利子負債はロームのほうが多い。ロームは短期借入金1,000億円、長期借入金1,000億円、社債2,000億円の合計4,000億円。京セラは流動・非流動を合わせて2,450億円である。3倍を超える規模の会社が、絶対額では少ない負債しか抱えていない。
自己資本に対する比率で見ると差はさらに開く。ロームは0.63倍、京セラは0.07倍。電気機器の中央値0.19倍を、一方は大きく上回り、もう一方は大きく下回っている。
ただし、これで「ロームの財務が薄い」と決めるのは早い。手元の現金は京セラが4,558億円で、ロームの4,287億円とほぼ並ぶ。総資産に対する比率にすると、ロームは3割を超え、京セラは1割に届かない。流動比率もロームが3.79倍、京セラが2.86倍である。
5期で21ポイント動いた自己資本比率、ロームの側で何が起きたのか
過去5期を並べると、話の筋が見えてくる。ロームの自己資本比率は2022年3月期が81.6%、2023年3月期が81.4%。この時点では京セラの73.3%、73.9%を8ポイント前後上回っていた。
そこから2024年3月期に65.3%、2025年3月期に61.7%、2026年3月期に59.1%と下がり続ける。京セラは72.2%、71.3%、71.9%とほとんど動かない。4年で立場が入れ替わり、差の反転幅は21ポイントに達した。
低下の起点は2024年3月期にある。この期に短期借入金3,000億円が計上され、投資有価証券は前期の769億円から3,736億円へ膨らんだ。総資産も1兆1,232億円から1兆4,812億円へ増えている。負債を使って資産を積んだ期だと読み取れる。
そこへ2期連続の損失が重なった。利益剰余金は2023年3月期の7,211億円から4,896億円まで減っている。分母が膨らみ、分子が削られたのだから、比率が下がるのは算術の帰結である。
京セラ側が動かない理由も一つ挙げておきたい。有価証券報告書に開示された主要な保有株式の簿価合計は1兆5,814億円で、自己資本3兆3,394億円の半分近くに相当する。ロームの同じ項目は436億円で、自己資本の7%弱にすぎない。厚い自己資本といっても、その中身の性格はかなり違う。
業種中央値を割った自己資本比率と、中央値を上回る手元流動性
電気機器182社の中央値は、自己資本比率が62.2%。下位四分位は49.5%、上位四分位は76.2%である。
この物差しを当てると、ロームの59.1%は中央値を下回り、下位四分位と中央値の間に位置する。京セラの71.9%は中央値と上位四分位の間だ。借金の少ない電子部品メーカーというイメージが先に立つ会社が、いまは業種の真ん中より下にいる。
一方で流動比率の中央値は2.47倍。ロームの3.79倍は明確に上回っており、京セラの2.86倍よりも高い。同じ会社が、自己資本比率では中央値を割り、手元流動性では中央値を超えている。この二つは矛盾ではなく、同時に成り立っている姿だ。
資本効率も見ておきたい。ROE(自己資本利益率)の中央値は7.7%だが、2026年3月期のロームは▲19.2%、京セラは4.3%。どちらも中央値には届いていない。優劣ではなく、両社ともに業種の真ん中を下回る局面だと押さえておくべきだろう。
財務の安全性を一つの数字で語れないのは、こういうところにある。自己資本比率だけを見れば厚みは失われ、流動性と営業キャッシュフローだけを見れば余力は残っている。どちらか片方で判断しないよう注意したい。
自己資本を削った会社と、動かさなかった会社。どちらが正しく資本を扱ったのだろうか。
一般には、借金が少なく自己資本の厚い会社が好まれる。ただコーポレートファイナンスの考え方に立てば、使われない自己資本は資本効率を落とす重りでもある。厚みそのものが価値なのではなく、その厚みが何を生んだかが問われる。
ロームはこの数年、負債を使い、資産を積み、そして大きく切り下げた。厚みを失ったのは事実だが、それは資本を動かした結果でもある。京セラの厚さは、保有株式の簿価に相当部分が対応している。動かさなかったから厚いままだった、という側面がある。
どちらが最適だったかは、投じた先が利益を生むかどうかで後から決まる。だから今の局面で見たいのは比率そのものではない。積み上がった手元資金と、毎期ぶれずに入ってくる営業段階の現金が、これから何に向かうのか。ロームについては、この一点に着眼して次の決算を読んでほしい。
免責事項
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
