トヨタ自動車と日産自動車、2026年3月期は自動車事業の営業利益率で9ポイント差。株価の戻りは何を織り込んだのか
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
18:30
トヨタ自動車と日産自動車、2026年3月期は自動車事業の営業利益率で9ポイント差。株価の戻りは何を織り込んだのか

この記事はここがポイント

  • トヨタ・日産2026年3月期、自動車事業営業益に9ポイント差。
  • トヨタ連結益高水準だが、自動車事業は業界中央値並みで金融が牽引。
  • トヨタ株、2026年2月末から3割下落後、非本業益や自己株式取得が回復要因。

自動車メーカーの決算を追うとき、まず目が行くのは販売台数と営業利益だろう。私も長らくそうしてきた。ただ、利益がどの事業から出ているのかを分けて眺めると、同じ「自動車メーカー」という看板の下に、かなり違う構造が並んでいる。トヨタ自動車<7203>の株価が昨秋からたどった道筋を、その構造の側から追ってみたい。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

2026年2月末で止まった上昇と、そこからの3割近い下押し

出所:各種資料をもとに筆者作成

起点となる2025年10月末の終値は3,100円台だった。そこから水準はじりじりと切り上がり、2025年12月末は3,300円台、2026年1月末は3,500円台まで乗せている。

2026年2月末は3,800円台。昨秋以降の月末終値では、ここが最も高い水準にあたる。

ところが、そこから流れが変わる。2026年3月末は3,100円台まで大きく下押しし、2026年4月末も3,000円台で止まった。2026年5月末はほぼ横ばい圏で、動きが出たのはその次だった。

2026年6月末の終値は2,700円台。昨秋以降の月末終値では最も低い水準である。2月末の高い水準から、4か月で3割近くを吐き出したことになる。

自動車株はもともとボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)が高い。それでも、四半期にわたって一方向に水準が落ちる動きは、単発の材料では説明しにくい。為替の前提や通商環境をめぐる不透明感が意識された可能性はあるが、単一の要因に帰すのは無理がある。

戻りは夏場から始まった。2026年7月末は3,000円台、2026年8月末は3,100円台へ水準を回復し、2026年9月時点の終値は3,200円台まで戻している。

ただし、2月末の3,800円台にはまだ届いていない。昨秋の起点と比べれば小幅な上昇にとどまる、というのが現在地だ。上昇と下落を一往復して、ほぼ出発点に近いところへ帰ってきた形になる。

月末終値だけを追っても、この一年の振れ幅は小さくない。最も高い水準と最も低い水準の間には1,000円を超える開きがある。年間で見ればほぼ横ばいという結果と、その内側にある大きな上下動は、別の話として押さえておきたい。

営業減益と当期利益の大幅増が同時に立った2027年3月期1Q

直近の2027年3月期1Qは、指標ごとに向きが分かれた決算だった。

営業収益(IFRS)は13兆5,254億円で前年同期比+10.4%。一方で営業利益は1兆634億円と▲8.8%の減益になった。増収でありながら本業の利益が減る、いわゆる増収減益である。

利益はなぜ減ったのか。会社は営業利益の増減要因を項目別に示している。押し上げたのは為替変動の影響が+3,450億円、営業面の努力が+700億円。押し下げたのは諸経費の増減・低減努力が▲1,900億円、原価改善の努力が▲850億円、その他が▲2,426億円である。

つまり為替と営業努力の押し上げを、費用の増加が上回った期だったということだ。連結販売台数は239万5千台で▲0.7%。日本は+8.9%と伸びたが、海外が▲3.1%と減っている。台数の勢いで押し切れる局面ではなかった。

セグメント別に分けると、減益の出どころはさらにはっきりする。自動車の営業利益は7,199億円で▲21.0%。一方、金融は2,756億円と+24.0%の増益で、会社は融資残高が増加したことなどによるものとしている。その他も816億円まで伸びた。クルマ本体が落ちた四半期に、金融が支えた形である。

それでも当期利益は1兆4,770億円と+75.6%の大幅増になっている。ここは営業外の項目が効いている。その他の金融収益は8,505億円で、前年同期の1,537億円から大きく膨らんだ。持分法による投資損益は2,106億円、為替差損益は1,123億円のプラスで、こちらは前年同期の▲2,123億円から反転した。

会社は資本の増減について、主として豊田自動織機株式の売却および日野自動車の連結子会社からの除外の影響が含まれるとしている。本業の稼ぎとは性格の違う、資本取引の色が濃い利益が乗った四半期だったと読み取れる。

通期の会社予想は営業収益54兆円(+6.5%)、営業利益3兆4,000億円(▲9.7%)、当期利益3兆2,500億円(▲15.5%)である。2026年3月期通期が営業利益3兆7,662億円(▲21.5%)だったので、営業利益は2期続けて減る絵になる。

株価の動きと重ねると、時間の順序が見えてくる。6月末までの下押しは、2026年3月期の通期実績と2027年3月期の減益予想が出そろった後の局面にあたる。減益の連続という絵が意識された可能性は高い。

一方、夏以降の戻りの局面では、1Qで当期利益が大きく伸びたことに加え、四半期のうちに3兆6,568億円の自己株式の取得が実行されている。需給面の支えとして意識された可能性がある。もっとも、株価が何を織り込んだのかを一つに絞ることはできない。

日産自動車と並べると、売上の構成は驚くほど似ている

ここで比較対象を一社置きたい。国内の自動車株で、読者にとって最も自然に並ぶ相手は日産自動車<7201>だろう。売上規模はトヨタの4分の1程度で絶対額の比較は成立しないが、事業の組み立て方を比率で見るなら噛み合う。

2026年3月期のトヨタの報告セグメントは自動車、金融、その他の3つだ。自動車の売上は45兆2,019億円で全体の89.2%、金融が4兆8,190億円で9.5%を占める。

日産は自動車事業と販売金融事業の2つである。自動車事業の売上高は10兆7,602億円で全体の89.6%、販売金融事業が1兆2,475億円で10.4%だった。

並べてみると、売上構成比はほとんど重なる。どちらもクルマで9割弱、金融で1割前後。規模はまるで違うのに、事業の形だけを見ればよく似た双子のように映る。

同じ売上構成から、まるで違う利益の出方が生まれる理由

トヨタの2026年3月期のセグメント営業利益は、自動車が2兆7,770億円、金融が8,517億円、その他が1,320億円だった。売上の1割弱しか占めない金融が、連結営業利益の2割強を運んでいる。

利益率で見るとその理由がはっきりする。自動車事業の営業利益率は6.1%、金融事業は17.7%だ。売上あたりの稼ぐ力が、事業によって3倍近く違う。

日産はさらに極端である。自動車事業は▲2,928億円の営業損失で、営業利益率は▲2.7%。対する販売金融事業は2,979億円の営業利益で、利益率は23.9%に達する。

連結の営業利益580億円は、販売金融の利益が自動車事業の損失をわずかに上回った結果として残った数字だ。クルマ本体では稼げず、金融が全体を黒字につないでいる構図である。

自動車事業の営業利益率で見ると、両社の差は8.9ポイントになる。しかも単年の話ではない。過去5期を並べると、トヨタは2024年3月期に11.3%まで乗せたあと6.1%へ低下しており、方向としては下向きだ。日産は5期のうち3期が営業赤字で、黒字だった期も1%台か0.5%どまりだった。

この差が、金融事業への依存度の差として表れている。

なお日産の2026年3月期の当期純損失は5,330億円に達する。開示では自動車事業に3,662億円の減損損失が計上されており、営業利益との落差はここに大きく由来する。

見逃せないのは、金融事業の利益率ではむしろ日産の方が高い点だ。金融は貸出資産の残高と利ざやで決まる事業であり、クルマの販売力とは別の物差しで動く。

出所:トヨタ自動車株式会社および日産自動車株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成
自動車事業の営業利益率が分けた明暗

業種の中央値を当てると、収益性の厚みの出どころが見えてくる

2社だけを並べると、どちらが優れているかという話に落ちてしまう。第三の物差しとして、輸送用機器77社の水準を置いてみたい。

2026年度の輸送用機器の営業利益率は、中央値が5.3%、下位四分位(下から25%の位置)が2.6%、上位四分位(上から25%の位置)が6.9%である。トヨタの連結営業利益率7.4%は上位四分位も上回る。日産の0.5%は下位四分位を下回る。

ここで先ほどの分解が効いてくる。トヨタの自動車事業だけを取り出した6.1%は、中央値を0.8ポイント上回る程度にすぎない。連結の7.4%という水準は、利益率の高い金融とその他が押し上げた結果でもある。

ROE(自己資本利益率)でも同じ構図が見える。業種の中央値は5.7%で、トヨタは10.1%、日産は▲10.9%だ。

一方、自己資本比率では見え方が反転する。輸送用機器の中央値は52.9%だが、トヨタは37.8%、日産は24.2%と、どちらも中央値を下回る。

「自動車メーカー」と聞けば、工場と部品と車両在庫を抱えた製造業の姿が先に立つ。ところが総資産の内訳を見ると、トヨタは105兆5,223億円のうち53兆7,417億円が金融セグメントの資産で、過半を占める。日産も19兆8,124億円のうち10兆7,268億円が販売金融事業の資産だ。

売上では1割、資産では過半。この非対称が、自己資本比率で業種の真ん中に届かない理由になっている。財務が薄いから低いのではなく、金融の資産を積んでいるから低い。製造業のイメージと、貸借対照表の実像は、どちらも同時に成り立っている。

業界内での立ち位置に照らすと、トヨタの数字は上位にあるものが多い。ただ、その厚みの一部をクルマ以外が担っている点は、相対水準だけを見ていると見落としやすい。

金融事業は資産を積んで利ざやを稼ぐ事業だ。製造業の利益率と同じ物差しで並べても、意味のある比較にはならない。逆に言えば、連結の利益率が業種の上位にあることを、そのまま「クルマで勝っている」と読み替えるのは早計だろう。

自己資本比率が業種の真ん中を下回るのも、財務が痩せているからではない。金融の資産を抱えれば、比率は構造的に下がる。もっとも、そこまで負債を使いこなす財務が資本効率の面で最適な形なのかは、また別の論点として残る。

株価はこの一年で上げて下げて、また戻ってきた。次の期の決算をどう受け止めるかを考えるなら、台数と営業利益を追うだけでは足りない。どの事業が利益を運んでいるのか、その担い手の変化に目を向けることをおすすめしたい。

免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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