この記事はここがポイント
- 2026年3月期は大幅減益も、2027年3月期1Qから営業利益が大きく回復。
- 日本製鉄の株価は2026年夏場に切り上がり、11か月で約1割の上昇。
- 2026年3月期の自己資本比率は37.7%でJFEを下回り、海外買収で負債が増加。
鉄鋼と聞けば、重厚長大で借入の重い業種というイメージが先に立つ。ところが業種全体の数字を並べると、その印象はどうも当てはまらない。むしろ規模の大きい側が、負債を厚く使っている。日本製鉄<5401>の株価も2025年秋以降しばらく方向感を欠いたが、2026年夏場にかけて水準が変わってきた。財務の姿と重ねて眺めてみたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
2025年秋からの停滞を抜け、夏場に水準を変えた株価
2025年10月末の終値は636円だった。そこから2026年1月末まで、月末終値は630円台から640円台の狭いレンジにとどまった。
方向感の乏しい展開が3か月あまり続いたことになる。ボラティリティも大きくはなく、指数の動きに素直に乗っているだけの月が並んだ。
変化が出たのは春先である。2026年2月末までは630円台を保っていたが、3月末には570円台まで下押しした。
以降も戻りは鈍い。4月末と5月末は560円台から570円台にとどまり、6月末には530円台まで水準を下げた。昨秋以降の月末終値では、この6月末が最も低い水準にあたる。
2月末からの4か月で1割半ほどを削ぐ下げ方であり、急落というよりじり安に近い形だった。国内外の鋼材需給への警戒や、通商環境の不透明感が意識された可能性がある。ただ、株価の理由を一つに絞るのは無理がある。
気になるのは下げ幅よりも下げ方だ。1か月で一気に崩れるのではなく、4か月かけて水準がずり落ちていった。市況の悪化がゆっくり織り込まれていく形に見える。
その流れが7月に反転した。7月末の終値は650円台まで戻し、8月末には670円へ切り上がった。昨秋以降で確定している月末終値のなかでは、この8月末が最も高い。
2026年9月時点の直近終値は690円台に乗せている。つまり昨秋からの11か月は、前半が横ばい圏、中盤が下押し、終盤が切り返しという三つの局面に分かれる。
起点の636円から見れば上に抜けているが、その途中に1割半の下げを挟んでいる。素直な右肩上がりとは言いにくい軌跡だ。
11か月の月末終値を並べると、下は530円台、上は690円台まで散っている。上下の開きは3割近い。市況産業らしく、ボラティリティは高めである。
もっとも起点と足元だけを比べれば、2026年9月時点までで1割弱の上昇にとどまる。行って戻って、また行った一年だった。
増収と大幅減益が同時に起きた一年、そして1Qの反転
では、この切り返しの手前で業績はどう動いていたのか。
2026年3月期通期の売上収益(IFRS)は10兆632億円で、前期比+15.7%の増収だった。一方で営業利益は2,429億円と▲55.7%、親会社の所有者に帰属する当期利益は172億円と▲95.1%まで落ち込んでいる。
増収と大幅減益が同時に起きた期である。ROEは0.3%まで低下した。
利益の落ち込みは単年の話ではない。営業利益は2023年3月期の8,836億円をピークに、2024年3月期7,787億円、2025年3月期5,480億円、2026年3月期2,429億円と3期続けて減った。ピーク比では7割超を失った計算になる。
売上収益は同じ期間に7兆9,756億円から10兆632億円へ伸びている。売上が伸びながら利益だけが縮む3期だった。
なぜ増収で利益が消えたのか。会社によれば、AIや電力、防衛といった一部分野を除いて国内外の製造業・建設業のベース需要が低迷し、世界の鉄鋼事業環境は危機的な状況が続いた。
中国では経済減速による需給ギャップの拡大を背景に過剰生産が続き、安価な鋼材輸出の増加が国際市況の低迷を招いた。各国・地域で通商措置が発動され、日本国内への輸出圧力はさらに高まっているという。
売上の伸びは、後述する海外事業の取り込みによる規模拡大が効いている。市況が悪いなかで売上だけが膨らみ、利益は市況に沿って沈んだ。増収と減益が併存した理由は、この二層構造にあると読み取れる。
2027年3月期1Qでは、この流れが変わった。売上収益は2兆8,212億円で+40.4%、営業利益は1,455億円で+58.1%、当期利益は843億円である。
通期予想も売上収益11兆2,000億円(+11.3%)、営業利益6,300億円(+22.5%)、当期利益2,900億円を置いている。前期の落ち込みからの戻りを、会社は強気に見ている。
会社は中長期経営計画のもとで、生産設備の構造対策による固定費削減、紐付き価格の是正、品種高度化を通じた限界利益の引上げによって損益分岐点を抜本的に引き下げてきたとしている。その結果として、実力ベースの連結事業利益で6,000億円以上を確保し得る優位性を構築したという見立てだ。
通期予想の営業利益6,300億円は、この水準とほぼ重なる。予想値そのものが、会社の言う「実力ベース」の主張を数字で置き直したものになっている。
JFEと並べて見えてくる財務負担の重さ
ここで、もう一社を並べてみたい。JFEホールディングス<5411>である。
国内の高炉大手として日本製鉄と対比されることが多く、決算期も会計基準もそろう。財務の重さを測るには、扱いやすい組み合わせだ。
2026年3月期の自己資本比率は、日本製鉄が37.7%、JFEホールディングスが44.4%だった。差は6.7ポイントである。
規模で見れば日本製鉄の売上収益は10兆632億円、JFEホールディングスは4兆5,393億円で2倍以上の開きがある。それでも比率で並べると、大きいほうが薄い。
さかのぼると順序は逆だった。2024年3月期は日本製鉄44.6%に対しJFEホールディングス42.8%、2025年3月期は49.2%に対し44.8%で、いずれも日本製鉄が上にいた。
2026年3月期の一年で、この関係が入れ替わったことになる。JFEホールディングス側は42.8%、44.8%、44.4%と40%台前半から半ばの範囲に収まっており、動いたのは日本製鉄の側だけだ。
自己資本比率が11ポイント下がった一年の中身
では日本製鉄で何が起きたのか。バランスシートの規模が一年で跳ねた。
総資産は2025年3月期の10兆9,425億円から2026年3月期の14兆6,606億円へ、3兆7,181億円増えている。一方で純資産は5兆3,833億円から5兆5,304億円とほぼ横ばいだ。
増えた分はほぼ負債である。負債合計は5兆5,591億円から9兆1,301億円へ膨らんだ。分母だけが伸びれば、自己資本比率は当然下がる。
中身を見ると、有形固定資産が3兆6,356億円から5兆8,996億円へ、無形資産が3,349億円から1兆925億円へ、のれんが716億円から2,597億円へ増えた。従業員数も11万3,845人から13万8,453人になっている。
単年の設備投資で説明できる動きではない。会社は中長期経営計画の柱として海外事業の深化・拡充を挙げ、その具体策としてUSスチールの買収とインドでの能力拡張を明記している。連結の器が一段大きくなったのは、この取り込みによるものだろう。
キャッシュフローも同じ絵を描く。2026年3月期の営業CFは7,169億円だったが、投資CFは▲2兆8,372億円、財務CFは+1兆8,863億円である。
営業で稼いだ現金を大きく超える投資を、外部調達で埋めた期だった。設備投資額も5,835億円から9,430億円へ増えている。
負担は利息に表れる。支払利息は2024年3月期362億円、2025年3月期444億円から、2026年3月期には1,012億円へ増えた。
同じ期間のJFEホールディングスは237億円、265億円、304億円と緩やかな増加にとどまる。同じ業種の同じ3期で、資金コストの伸び方がまるで違う。
業種中央値61%との差は何を意味するのか
二社だけを並べると優劣の話に落ちてしまう。そこで業種の水準を第三の物差しに置きたい。
2026年3月期の鉄鋼業種35社の自己資本比率は、中央値が61.3%である。下位四分位が52.5%、上位四分位が78.8%。
この分布に日本製鉄の37.7%とJFEホールディングスの44.4%を置くと、両社はそろって下位四分位より下に位置する。D/E(負債と自己資本の比率)の中央値は0.15倍と低く、業種全体としてはむしろ負債を使わない構えだ。
鉄鋼と聞いて借入の重さを思い浮かべるのは、必ずしも業種の姿ではない。重い負債を抱えているのは、規模の大きい上位の側である。この二つは同時に成立している。
収益性でも似た位置関係が出る。営業利益率は日本製鉄が2.4%、JFEホールディングスが2.5%で、業種中央値の4.7%を下回った。
ROEも日本製鉄0.3%、JFEホールディングス2.7%に対し、中央値は4.8%である。上位2社が業種の平均像を引き上げているわけではない。
同社の自己資本比率を5期並べて眺めると、2022年3月期の39.6%から4期かけてじりじり厚くなり、直近の一年で一気に出発点を割り込んだ軌跡が見えてくる。積み上げに4期、吐き出しに1期である。
ただ、これを財務の劣化とだけ受け取るのは早い。負債をあまり使わない財務が資本効率の観点で最適かどうかは、それ自体が別の論点だ。厚くなった自己資本は、裏を返せばデットキャパシティ(追加で借入を起こせる余力)を遊ばせていた状態でもあった。
見逃せないのは、株価がこの一年をどう扱ったかである。自己資本が最も薄くなった期の直後に、株価は昨秋以降で最も高い水準へ切り上がった。市場は財務の薄さより、器が一段大きくなったことの意味を先に見ているようにみえる。
もっとも、器の大きさが利益に変わるかどうかは、まだ1四半期分の材料しかない。次の決算では、売上の伸びと利息負担の伸びのどちらが速いか。この一点に着眼して追うことをおすすめしたい。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
