この記事はここがポイント
- 三菱商事のローソン50.0%議決権は、利益のみ計上する持分法適用構造。
- 2026年3月期当期利益15.8%減、2027年3月期1Qは持分法損益約4割で増益。
- 株価は3割強上昇も、2026年3月期ROE8.5%は過去比後退現状。
総合商社と聞いて連想するのは、資源とトレーディングだろう。私も長いあいだ、三菱商事<8058>をその枠の中で眺めていた。しかしグループの関係会社を見ると、日常で使うコンビニチェーンが持分法適用関連会社として並んでいる。議決権は50.0%。過半には届かせない構えである。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
議決権50.0%で連結子会社ではない、という持ち方
三菱商事が2026年3月末時点で開示した関係会社の状況に、株式会社ローソンが並んでいる。区分は連結子会社ではなく、持分法適用関連会社である。
議決権の保有割合は50.0%。資本金585億円、本社は東京都品川区で、特定子会社にも指定されている。
50.0%という数字は、意図が読み取りやすい水準だ。過半に1株でも足りなければ、単独で意思決定を通すことはできない。
会計上の扱いも変わる。連結子会社なら売上や費用がまるごとグループの数字に合算されるが、持分法適用関連会社は持分に応じた利益だけを取り込む。つまり売上規模には乗らず、利益の一部だけが顔を出す。
商社が生活に近い小売を抱えるという構図自体は、業界では以前から語られてきた。ただ「抱える」の中身が、100%子会社化ではなく50.0%で止める形だという点は、あまり意識されないのではないだろうか。
持分法適用関連会社は41社ある。その並びには三菱自動車工業も議決権22.27%で含まれる。社名に「三菱」を冠する企業を軒並み支配下に置いているわけではない、という事実も同じ一覧から読み取れる。
連結の輪郭が変わった痕跡は、収益と粗利益のどこに出たか
この持ち方は、直近の数字にはっきりした跡を残している。
2026年3月期の収益(IFRS)は18兆9,159億円で、前期比+1.6%の小幅な増収にとどまった。会社によれば、ローソン持分法適用会社化に伴う減少の一方、市況上昇による増加等によってこの水準になったという。売上規模の押し下げと市況の押し上げが打ち消し合った期、ということになる。
利益の側はもっと大きく動いた。税引前利益は1兆960億円で、前期から2,973億円の減少。前年度に計上したローソン持分法適用会社化に伴う再評価益の反動等によるもので、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,502億円減って8,004億円、前期比▲15.8%となった。
連結の範囲が動いたことは、人員の数にも表れている。連結従業員数は2024年3月期の80,037人から2025年3月期は62,062人へ減り、2026年3月期は63,037人となった。1年で2万人近く減る変化を事業の縮小で説明するのは難しく、連結範囲の組み替えが主因と考えるのが自然だろう。
売上総利益(粗利益)も水準を落とした。2025年3月期の1兆8,363億円に対し、2026年3月期は1兆6,550億円である。収益に対する粗利率は8.7%で、卸売業245社の中央値17.0%に対して半分程度にとどまる。
ここは一般的なイメージと数字がずれる場面だ。商社は薄利多売の卸として語られることが多いが、粗利率が業種の半分程度ということは、収益に計上される取引の大半が低マージンの現物商流であり、稼ぎの主役は別の経路にある、という構造を示している。
持分法による利益取り込みや事業投資からのリターンは、収益という分母を膨らませずに利益だけを積む。ローソンを50.0%で保有するという形は、まさにこの経路に属する。
セグメント別の粗利益を並べると、その構造がさらに見える。2026年3月期は食品産業が2,973億円で最も厚く、Urban Development And Infrastructure が2,364億円、Smart Life Creation が2,334億円と続く。金属資源は1,752億円で、上位ではない。
一方、セグメント利益では金属資源が2,045億円で最大となり、Environmental Energy が1,608億円で続く。粗利益の厚みと利益の厚みが同じ順番には並ばない。
生活に近い事業が商流の厚みを担い、資源とエネルギーが利益を持ち上げる。この二層構造は、総合商社という言葉ひとつでは説明しきれない。
2027年3月期1Qの大幅増益は、どこから来たのか
直近の2027年3月期1Qは、前期の減益局面から反転した。
収益は5兆1,809億円で前年同期比+22.8%、親会社の所有者に帰属する当期利益は2,985億円で+47.0%となった。会社によると、収益の増加は市況上昇が主な要因である。
利益の構造を分解すると動きがつかみやすい。売上総利益は3,685億円から4,972億円へ1,287億円増えた。販売費及び一般管理費は2,905億円から3,468億円へ増加し、会社は円安に伴う為替換算の影響と貸倒引当金の増加を要因に挙げている。それでも税引前利益は2,529億円から3,880億円へ1,351億円増加した。
注目したいのは持分法による投資損益だ。1,387億円から1,509億円へ122億円増え、四半期の税引前利益3,880億円の4割近くを占める規模になっている。
持分法は、支配していない出資先の利益を持分だけ取り込む処理である。その1行が四半期利益の4割弱を左右するというのは、この会社の稼ぎ方が商流よりも出資構造に寄っていることの数値的な裏づけだ。
通期予想は当期利益1兆1,000億円、前期比+37.4%で、予想EPS(1株当たり利益)は300.42円。年間配当は125円を見込む。2026年3月期までで10期連続の増配となっており、予想どおりに進めば連続記録はさらに伸びる。
株価は3割上昇、資本効率は8%台という同時進行
株価はこの1年、下から上へ大きく水準を変えた。
2025年10月末の終値は3,700円台。2025年12月末には3,500円台まで下押ししたが、年明けから急速に切り上がり、2026年2月末は5,200円台、2026年3月末は5,300円台に乗せた。昨秋以降の月末終値では、ここが最も高い。
その後は一本調子ではない。2026年6月末に4,300円台まで上げ幅を吐き出し、7月末と8月末は4,700円台から4,800円台で推移した。2026年9月時点の直近終値は4,900円台にある。起点の2025年10月末と比べれば3割強の上昇である。
ボラティリティ(株価の値動きの激しさ)は残るが、方向としては上を向いた1年だった。一方で資本効率の絶対水準は後退している。ROE(自己資本利益率)は2026年3月期に8.5%で、2023年3月期の15.8%、2025年3月期の10.3%から下がり続けてきた。
ここに絶対水準と相対水準のねじれがある。卸売業のROE中央値は7.87%であり、8.5%は業種の真ん中よりは上に位置する。自社の過去との比較では明確な後退、業界内の比較ではまだ上側。この2つは同時に成り立っている。
財務の姿も業種の中央値とは違う。自己資本比率は39.1%で、卸売業の中央値51.1%を下回る。配当性向は52.2%で中央値36.1%より高い。利益が減った局面で配当を維持したぶん、配当性向が受動的に上がった面もあるだろう。
連結の輪郭が組み替えられた期を境に、この会社の見え方そのものが変わり始めているようにみえる。
考えてみたいのは、生活に近い事業を抱えていながら、なぜイメージが更新されないのかという点だ。
答えの一つは会計処理にある。売上規模に乗らない持ち方を選べば、その事業は連結の表面から姿を消す。短信の収益の行を追うだけでは、グループのどこに生活密着のビジネスがあるのかは見えてこない。出資の形を選ぶという経営判断が、そのまま企業イメージの輪郭まで決めてしまう。
もう一つは報道の焦点だろう。市況や資源価格は毎日ニュースになるが、出資構造の変更が話題になるのは組み替えの瞬間だけだ。時間が経つほど、イメージは分かりやすい側へ引き戻される。
自己資本比率が業種の中央値を下回る点も、弱さと短絡させないよう気をつけたい。事業投資型の商社は投下資本を負債でも支える。もっとも、その負債の使い方が資本効率にとって最適かどうかは、また別の論点である。
決算を読むときは、収益の増減だけでなく、持分法投資損益の行にも目を向けることをおすすめしたい。この会社の実像は、その1行のほうに濃く出ている。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
