この記事はここがポイント
- 三菱電機の2026年3月期は、売上構成比4.4%の半導体部門が16.6%と部門別で首位の営業利益率。
- 半導体部門の高い利益率は、製品構成の入れ替えと全社設備投資の1割強を占める重点投資が要因。
- 2026年3月期は全セグメント増益で営業利益率も改善しキャッシュフローも好調、株価は5月末ピークから下落傾向。
エレベーター、エアコン、そして電力設備。三菱電機<6503>と聞いて私が長く思い浮かべてきたのは、そういう「大きくて重いもの」を作る会社だった。ところが2026年3月期の決算を部門別にほどくと、最も高い利益率で稼いでいるのは、連結売上収益の4%台しか占めない小さな部門である。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
利益率で首位に立つのは、売上構成比4.4%の半導体部門
三菱電機の2026年3月期通期の売上収益(IFRS)は5兆8,947億円、営業利益は4,330億円だった。営業利益率は7.3%である。
この7.3%を部門別に割ってみると、風景が変わる。
セミコンダクター・デバイス部門の売上高は2,871億円。うちグループ外の顧客に向けた売上収益は2,589億円で、連結売上収益に対する構成比は4.4%にとどまる。ところが営業利益は475億円あり、部門売上高に対する利益率は16.6%に達する。
他の部門はこうだ。インフラが10.6%、インダストリー・モビリティが7.8%、デジタルイノベーションが7.6%、ライフが7.4%。5つの報告セグメントのうち利益率で首位に立つのは、いちばん売上の小さいこの部門である。
額で見れば序列は逆になる。営業利益が最も大きいのはライフの1,705億円で、次がインフラの1,547億円、その次がインダストリー・モビリティの1,310億円。セミコンダクター・デバイスは475億円で4番目にすぎない。
一般に三菱電機は、重電と産業機器を軸に多分野へ広く展開する総合電機として語られる。稼ぎの柱もインフラやビル・空調にあると見られやすい。額の序列を見るかぎり、その見方は正しい。
だが率の序列は別のことを言っている。この二つは矛盾せず、同じ決算の中で同時に成り立っている。
小さな部門が高い利益率を保てる理由は、投資の偏りにある
この部門の中身は、パワー半導体と通信用光デバイスである。
2026年3月期の事業環境について、会社はパワー半導体の需要停滞が継続した一方、通信用光デバイスの需要は堅調に推移したと説明している。売上高は前期並みの2,871億円。それでも営業利益は前期比69億円増えて475億円になった。増益の理由として会社が挙げるのは、売上構成の変動影響である。
つまり数量が伸びたから利益が増えたのではない。売る中身が変わったから利益率が上がった。
受注は伸びている。この部門の受注高は3,205億円で前期比119%。電鉄・電力向けパワー半導体と通信用光デバイスの増加によるものだ。部門別の受注では、FAシステム事業の122%に次ぐ伸び率である。
売上に先行する指標が、需要停滞という説明と逆を向いている。ここは見落とせない。
もう一つ、この部門の性格をよく表す数字がある。設備投資だ。
三菱電機は2026年3月期に3,107億円の設備投資を実施した。そのうち376億円がセミコンダクター・デバイス部門に向かっている。売上構成比4.4%の部門が、全社の設備投資の1割強を吸っている計算になる。
減価償却費も部門で256億円あり、部門売上高に対する比率は8.9%。全社では4.0%だから、倍以上重い。
パワー半導体は装置産業である。高い利益率は、営業の巧拙だけで生まれるものではない。工場と設備を先に積み、稼働率が乗ったところで利益が出る。
裏を返せば、需要が停滞すれば固定費が重くのしかかる。会社が需要停滞を認めながら利益率16.6%を保てているのは、製品構成の入れ替えが効いているからだろう。
物差しを外に置くと、水準の高さがもう少しはっきりする。電気機器182社の営業利益率の中央値は6.7%、上位25%の境目が11.4%である。全社の7.3%は中央値をやや上回る位置にすぎない。だがこの部門単体の16.6%は、上位25%の境目をも上回る。
もっとも電気機器という区分には電子部品から重電まで幅があり、中央値は目安にとどまる。それでも桁の違いを掴むには足りる。
2026年3月期通期は全セグメント増益、1Qも二桁成長で入った
2026年3月期通期は増収増益だった。売上収益は前期比3,730億円増、営業利益は412億円増。会社によれば、増収は為替円安の影響と価格改善の効果によるもので、営業利益はすべてのセグメントで増益となった。営業利益率は0.2ポイント改善している。
コストの側も見ておきたい。売上原価率は、価格改善やインフラ部門、インダストリー・モビリティ部門での売上構成の改善などにより1.5ポイント改善した。
一方でその他の損益は、特別退職金の計上などで前期比835億円減少している。原価改善で稼いだ分の一部は、ここで打ち消された。
税引前利益は5,260億円、当期利益は4,077億円。ROE(自己資本利益率)は9.7%で、前期から1.3ポイント改善した。電気機器の中央値7.7%を上回る水準である。
2027年3月期1Qも勢いは続く。売上収益は1兆4,971億円で前期比+14.0%、営業利益は1,395億円で+24.6%、当期利益は1,098億円で+20.8%。通期予想は売上収益6兆2,700億円、営業利益6,200億円、当期利益4,950億円で+21.4%を見込む。1Qの営業利益は通期予想に対して22.5%の進捗である。
キャッシュの流れも変わってきた。2026年3月期の営業キャッシュフローは5,759億円、投資キャッシュフローは▲3,444億円で、フリーキャッシュフローは2,315億円の収入となった。
会社は投資キャッシュフローの支出増を、子会社の取得の増加などによるものと説明する。のれんと無形資産は2,538億円増えた。買収で外から事業を積む動きが、この期に一段強まったことになる。
株価は2026年5月末をピークに上げ幅を吐き出した
株価は2025年10月末に4,300円台だった。2025年11月末には4,200円台まで下げ、これが2025年10月末以降の月末終値では最も低い水準になる。
そこから水準は切り上がる。2025年12月末に4,500円台、2026年1月末に4,800円台、2026年2月末には5,900円台。ところが2026年3月末には4,900円台まで大きく下押しし、翌4月末には6,200円台へ戻している。
上下の振れは大きい。ボラティリティ(株価の値動きの激しさ)の高い1年だった。
2026年5月末の6,500円台が、2025年10月末以降の月末終値では最も高い。その後は6月末から8月末にかけて5,800円台から5,500円台へ上げ幅を吐き出し、2026年9月時点の終値は5,200円台である。
バリュエーションも切り上がった。2026年3月期末時点でPER(株価収益率)は25.2倍、PBR(株価純資産倍率)は2.28倍。前期末はPER17.5倍・PBR1.43倍だったから、利益の伸びを上回るペースで株価が評価されたことになる。時価総額は10兆5,605億円である。
では、半導体部門の高い利益率は株価に織り込まれているのだろうか。私の見方は、まだ薄いというものだ。
売上構成比が4%台では、この部門の利益率がどれだけ高くても全社の利益率を大きくは動かせない。市場が反応しやすいのは、インフラやFAシステムの受注、そして為替のほうだろう。
財務の余力にも触れておきたい。親会社株主帰属持分比率は60.9%、D/Eレシオ(負債資本倍率)は0.08倍で、負債はほとんど使われていない。もっとも会社自身はレバレッジ活用の目安をD/Eレシオ0.3倍程度としており、負債を積む余地を残していると認識している。資本集約的な部門を伸ばすなら、その余地の使い方が論点になる。
見逃せないのは、利益率の序列と設備投資の序列が、この会社ではきれいに揃っていない点だ。
売上の最も小さい部門に、全社の設備投資のうち無視できない割合が向かっている。額の大きい部門から順に配る、という発想ではない。資本の配り方だけを見れば、経営は率の高いところを厚くしている。
それでも世の中に映る三菱電機の姿が更新されないのは、この部門の製品が最終消費者の手に届かないからだろう。エレベーターや空調には社名が乗るが、電鉄や電力向けのパワー半導体には乗らない。売上規模が小さいぶん、主力事業として語られる機会も少ない。
イメージは製品の見え方で作られ、収益構造は利益率で決まる。両者がずれるのは、この会社に限った話ではない。
だから決算を読むときは、額の序列と率の序列を別々に並べてみることをおすすめしたい。同じ会社が、二つの違う顔で見えてくる。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
