この記事はここがポイント
- 9月共同発行市場公募地方債は利率3.212%、対国債スプレッドは20.0bpを維持
- 地方債利率は国債対比の上乗せで決まる。機関投資家は表面利率よりスプレッドを重視
- 地方債はNISA非課税枠対象外、利子・償還差益には20.315%の課税対象
3日、9月の共同発行市場公募地方債の発行条件が決まりました。
表面利率は3.212%、発行価格は100円となっています。発行額は890億円、期間は10年で、発行予定日は9月25日です。
今回決定した発行条件の詳細を確認したうえで、そもそも共同発行市場公募地方債とはどのような仕組みなのか、そして地方債の利回り差をどう解釈すればよいのかを解説していきます。
令和8年9月債(第282回共同発行市場公募地方債)の発行条件
- 銘柄:第282回共同発行市場公募地方債
- 条件決定日:9月3日
- 表面利率:3.212%
- 発行価格:100円00銭
- 応募者利回り:3.212%(複利3.212%)
- 対国債スプレッド(カーブ比):20.0bp
- 発行予定日:9月25日
- 償還予定日:2036年9月25日
- 発行予定額:890億円
- 期間:10年
そもそも「共同発行市場公募地方債」とは?
共同発行市場公募地方債とは、複数の都道府県・政令指定都市が共同で発行する地方債のことです。
いわば、参加している自治体同士が互いの信用を持ち寄って発行する「連帯債務」のような制度で、参加自治体はそれぞれの発行分について連帯して債務を負います。
単独の自治体が発行するよりも規模を確保しやすく、市場からの資金調達を安定させやすいという利点があります。
8月債からの変化をどう見るか
前回(8月債)の表面利率は3.019%でした。今回の9月債は3.212%となり、0.193ポイント(19.3bp)上昇する形になりました。
これは直近数カ月の推移のなかでも大きめの上げ幅ですが、注目すべきは対国債スプレッドが20.0bpで8月債と変わっていない点です。
表面利率の上昇は、条件決定時点でベースとなる長期国債の金利そのものが上がったことによるものであり、8月債に比べて発行条件(スプレッド)が悪化したわけではありません。
同時期の個別地方債と比べると
9月2日には、共同債と同じ10年債で愛知県(3.204%)、福岡県(3.204%)、広島県(3.195%)がそれぞれ条件決定しており、いずれも対国債スプレッドは20.0bと横並びとなっています。
共同債(9月3日決定・3.212%)はこれら個別地方債よりわずかに高い利率となっていますが、スプレッドはやはり20.0bpで同水準です。
条件決定日が1日ずれたことで、その時点の国債金利の水準がわずかに変化した結果であり、信用力の差を示すものではありません。
地方債の利回り差、正しく理解するために
地方債の利率は、条件決定時点の国債金利に、あらかじめ決められた上乗せ幅(スプレッド)を加えて決まる「スプレッド方式」で設定されます。
機関投資家が本来注目しているのはこのスプレッドであり、表面上の利率そのものではありません。
多くの自治体は同じ上乗せ幅で横並びに発行する慣習があるため、スプレッドが同じであれば実質的に同一条件とみなしてよく、銘柄や月によって利率が上下しても、それは「その時点の国債金利がどうだったか」というタイミングの差に過ぎないと考えられます。
したがって、どの回・どの銘柄が「お得か」を事前に予測しようとするより、条件決定後に決まった利率を確認し、そのなかから選ぶという向き合い方が現実的です。
個人向け国債(変動10年)は「1.95%」に
高格付け債では、2日に9月募集分の個人向け国債(変動10年・第198回)の発行条件が決まっており、適用利率(税引前)は1.95%となっています。8月募集分(第197回)の1.87%から0.08ポイント上昇しました。
共同債との差は、8月債の時点では1.149ポイントだったものが、9月債では1.262ポイントに拡大しています。これは、共同債の利率上昇幅(0.193ポイント)が、個人向け国債の上昇幅(0.08ポイント)を上回ったためです。
地方債は個人向け国債と異なり満期までの利率が固定されるため、両者の値動きの性質が異なる点には注意が必要です。
個人向け国債(変動)と共同債(地方債)の利率推移
リスク・注意点
- 信用リスク:参加自治体が財政破綻に近い状態に陥らない限り、償還が滞る可能性は低いとされていますが、ゼロではありません
- 価格変動リスク:満期まで保有すれば額面で償還されますが、途中で売却する場合は市場価格次第となり、購入時より値下がりしていれば元本割れする可能性があります。機関投資家は時価評価を気にしますが、個人投資家が満期保有前提であれば、この点はさほど気にしなくてよいでしょう
- 流動性リスク:地方債はもともと機関投資家向け中心の商品であり、個人が途中で売却したいときに買い手が見つかりにくい場合がある点に注意が必要です
購入を検討する際に
地方債は個人向け国債と違い、証券会社ごとに取扱いの有無や販売枠が異なります。
今回の9月債についても、口座を持つ証券会社のサイトで募集の有無・申込期間を確認する必要があります。
また、地方債はNISAの非課税枠の対象外であり、利子・償還差益には20.315%の税金がかかる点も見落とされがちなので確認しておきましょう。
記者コメント
長期金利が3%を突破し、国債の買い手不足が懸念されるなか、新発の10年物地方債(9月の共同発行市場公募地方債)の最新利率は「3.212%」となりました。
この利率のベースとなる国債への上乗せ幅(スプレッド)は、日本の地方債市場では信用力(クレジット)の差というよりも、「需給」によって決まる側面が強いといえます。需要が強ければ上乗せ幅は小さくなり(タイトニング)、需要が弱ければ大きくなります(ワイドニング)。また、スプレッドは金利環境にも左右されやすく、需給が引き締まっている局面で金利が上昇すると、スプレッドはタイトニングしやすい傾向があります。
今回は、ベースとなる国債金利が3%台まで上昇したにもかかわらず、9月債のスプレッドは20.0bpと8月債から「横ばい」でした。これは、スプレッドを縮小できるほど、機関投資家を中心とする債券マーケットの需給が改善しているわけではない、という状況の裏返しとも読み取れます。
17日・18日に開かれる日本銀行の金融政策決定会合では、追加利上げを予想する声も多く、当面は金利動向から目が離せない状況が続きそうです。
免責事項
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フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
