この記事はここがポイント
- 共同発行地方債表面利率は1月債から8月債まで上昇傾向
- 個人向け国債より高利率だが、元本割れリスクやNISA非対象に留意
- 金利上昇時は変動国債との利率差縮小、満期保有が投資判断の軸
9月1日に実施される10年利付国債の入札を皮切りに、9月に新しく発行される債券の条件決定が続々と控えています。
個人向け国債は2日に利率が決まり、3日から募集が始まります。
地方債は2日に、愛知県10年債や広島県10年債、島根県5年債などが予定されています。
地方債はこのほか、共同発行市場公募地方債(10年債)が3日に条件決定する予定です。
同債は複数の都道府県・政令指定都市が共同で発行し、毎月定例で条件が決まることから、個人向け国債と並んで「毎月チェックできる債券」として証券会社を通じて個人にも一部販売されています。
条件決定を控えるいま、まずはすでに条件が出そろっている1月債から8月債までの利率推移を振り返り、そのうえで9月債についてここまで分かっている日程・発行額を確認していきます。
そもそも「共同発行市場公募地方債」とは?
共同発行市場公募地方債は、東京都を除く道府県・政令指定都市が共同で発行する10年満期の地方債です。
参加する自治体全体で発行額全体について連帯債務を負う仕組みになっており、いわば「みんなで保証し合う」形で発行されているため、単独の自治体が発行する個別の地方債よりも安定した条件で市場に受け入れられやすいとされています。
2003年度から、ほぼ毎月1回のペースで発行が続けられています。
1月債〜8月債の発行条件(振り返り)
条件決定日・発行日・発行額・表面利率・対国債スプレッドは以下の通りです(対国債スプレッドは、その時点の国債金利に対する上乗せ幅を指し、bp=ベーシスポイントは0.01%のことです)。
なお、発行価格はいずれの回号も100円00銭(額面通り)で、この間変わっていません。
- 1月債:条件決定日1月8日/発行日1月23日/発行額820億円/表面利率2.248%/対国債スプレッド+12.0bp
- 2月債:条件決定日2月5日/発行日2月25日/発行額925億円/表面利率2.372%/対国債スプレッド+12.0bp
- 3月債:条件決定日3月5日/発行日3月25日/発行額780億円/表面利率2.259%/対国債スプレッド+12.0bp
- 4月債:条件決定日4月7日/発行日4月24日/発行額1,340億円/表面利率2.612%/対国債スプレッド+18.0bp
- 5月債:条件決定日5月14日/発行日5月25日/発行額1,280億円/表面利率2.767%/対国債スプレッド+18.0bp
- 6月債:条件決定日6月4日/発行日6月25日/発行額960億円/表面利率2.832%/対国債スプレッド+18.0bp
- 7月債:条件決定日7月7日/発行日7月24日/発行額925億円/表面利率3.027%/対国債スプレッド+20.0bp
- 8月債:条件決定日8月6日/発行日8月25日/発行額890億円/表面利率3.019%/対国債スプレッド+20.0bp
こうして並べてみると、表面利率は1月債の2.248%から8月債の3.019%まで、8カ月間で0.771%(77.1bp)上昇したことになります。ただし一直線に上がり続けてきたわけではなく、7月債から8月債にかけては3.027%→3.019%とわずかに低下(▲0.8bp)している点も見逃せません。
9月債については、以下の日程・発行額が予定されています。
- 9月債:条件決定日9月3日(予定)/発行日9月25日(予定)/発行額890億円(予定)
なぜ銘柄間・月間で利率に差が出るのか?
地方債の利率は「条件決定日時点の国債金利+対国債スプレッド(上乗せ幅)」という組み立てで決まります。
対国債スプレッドは、いわば「地方債であることに対する上乗せ分」で、実務上はこちらが本来の評価軸になります。
今回のデータで象徴的なのが、7月債と8月債の関係です。対国債スプレッドはどちらも+20.0bpとまったく同じであるにもかかわらず、表面利率は3.027%から3.019%へとわずかに下がっています。
これは、地方債そのものの評価が変わったのではなく、条件決定日(7月7日と8月6日)それぞれの時点でのベースとなる国債金利がわずかに変動したことを反映しています。
逆に言えば、対国債スプレッドが同じ水準で推移している限り、地方債に対する市場の評価そのものは大きく変わっていない、とみることができます。
一方で対国債スプレッドは、1〜3月債の+12.0bpから、4〜6月債は+18.0bp、7〜8月債は+20.0bpへと段階的に拡大してきました。この上乗せ幅の変化こそが、地方債の条件を月ごとに比較する際に本来注目すべきポイントです。
個人向け国債と比べた際の投資妙味は?
2026年8月募集分の個人向け国債の表面利率(初回適用利率)は、変動10年(第197回債)が1.87%、固定5年(第185回債)が2.06%、固定3年(第195回債)が1.71%となっています。
同じ10年という年限で比較しやすい変動10年について、1月から8月までの初回適用利率を共同発行地方債の表面利率と並べると以下の通りです。
- 1月:変動10年1.39%/共同発行地方債2.248%(差+0.858%)
- 2月:変動10年1.48%/共同発行地方債2.372%(差+0.892%)
- 3月:変動10年1.40%/共同発行地方債2.259%(差+0.859%)
- 4月:変動10年1.55%/共同発行地方債2.612%(差+1.062%)
- 5月:変動10年1.67%/共同発行地方債2.767%(差+1.097%)
- 6月:変動10年1.74%/共同発行地方債2.832%(差+1.092%)
- 7月:変動10年1.80%/共同発行地方債3.027%(差+1.227%)
- 8月:変動10年1.87%/共同発行地方債3.019%(差+1.149%)
個人向け国債の変動10年債と共同発行債(地方債)の利率推移
両者とも1月から8月にかけて右肩上がりで推移してきた点は共通していますが、差は+0.86〜+1.23ポイントの範囲で推移しており、一定の傾向をもって拡大・縮小しているわけではありません。
これと比べると、共同発行地方債は8月債(表面利率3.019%、10年債)に限らず、この8か月間を通じて個人向け国債(変動10年)より高い利率で推移してきたことになります。ただし単純に「地方債の方が得」とは言い切れない点に注意が必要です。
個人向け国債の変動10年は、発行から1年が経過すればいつでも中途換金でき、国が額面(元本)で買い取ってくれるため、途中で解約しても元本割れしない仕組みになっています。
一方、地方債は満期(10年後)まで保有すれば額面100円で償還されますが、満期前に市場で売却する場合は、そのときの市場価格(金利水準次第で上下します)での売却となり、元本割れするリスクがあります。
また、必ずしも地方債の方が有利とは限らない点にも注意が必要です。
変動10年は半年ごとに適用利率が見直される仕組みで、1月募集分(第190回債)は当初(2026年2月16日〜8月15日)の適用利率が1.39%でしたが、半年後の8月16日からは1.80%に見直されています。
同じ1月に条件が決まった共同発行地方債(表面利率2.248%、10年固定)との利率差は、当初の0.858ポイントから0.448ポイントまで縮まったことになります。
共同発行地方債は10年間利率が固定される一方、変動10年は市場金利に応じて半年ごとに利率が調整されるため、金利の上昇局面では両者の利率差が今後さらに縮まる可能性もあります。
年限や商品性が異なるため、利率の数字だけを比較して優劣を判断せず、「満期まで持ち切れるかどうか」を軸に考えることが大切です。
リスク・注意点
共同債の信用リスクは、連帯債務の仕組みにより単独の自治体債より安定的とされますが、無リスクではありません。
価格変動リスクにも注意が必要です。満期前に売却すると市場価格次第で元本割れの可能性がありますが、満期まで保有すれば額面で償還されます。
また、「手に入りにくい」という難しさもあります。地方債の個人向け販売分は数量が限られ、人気の回号は早期に完売することもあります。
また、投資信託などに組み込まれていない「生債券」の場合、特定公社債として申告分離課税(20.315%)の対象となり、NISAの税制優遇制度の対象にはなりません。株式と比べると税金面で不利になります。
記者コメント
共同発行市場公募地方債は、1月債の2.248%から8月債の3.019%まで、8カ月間で表面利率が緩やかに上昇してきました。
条件決定後の利率だけを見て「高いか安いか」を単発で判断するのではなく、対国債スプレッドの推移や、満期まで保有できるかどうかといった観点も踏まえる必要があります。
投資判断のポイントとして、まずは9月債の対国債スプレッドがいくつで決まるか確認しましょう。
なお、ベース金利の動きをみると、8月6日の条件決定時には2.8%程度で推移していたところから、足元は2.9%台前半にシフトしています。
9月3日のローンチ時(9月2日の終値)がどれくらいの水準になるか、こちらもスプレッドと併せて注目したいポイントです。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
