伊藤忠商事と三菱商事、2026年3月期のROEは14.6%と8.5%。株価が2割超上げた1年に何を見るか
chachamal/Shutterstock.com
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
18:30
伊藤忠商事と三菱商事、2026年3月期のROEは14.6%と8.5%。株価が2割超上げた1年に何を見るか
chachamal/Shutterstock.com

この記事はここがポイント

  • 伊藤忠商事の2026年3月期ROE14.6%は三菱商事8.5%を凌駕、資産効率起因。
  • 伊藤忠商事2026年3月期ROE14.6%は卸売業中央値の約2倍。
  • 2027年3月期1Q、自社株買いと新規投資を並行しROE設計を促す資本戦略。

株価が上がった理由を決算に求めても、答えが返ってこないことがある。伊藤忠商事<8001>の株価は、2025年9月末の1,600円台から2026年8月末の2,100円台へ水準を切り上げた。ところが同社のROE(自己資本利益率)は、この5期でむしろ切り下がっている。上がる株価と下がる資本効率。この二つを同じ画面に並べたとき、何が見えるだろうか。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

1,600円台から2,100円台へ、株価が水準を変えた場所

出所:各種資料をもとに筆者作成

2025年9月末の終値は1,600円台だった。そこから年末にかけて緩やかに切り上がり、2025年12月末には1,900円台に乗せている。

勢いが最も強かったのは年明けだ。2026年2月末の終値は2,200円台で、2025年9月末以降の月末終値では最も高い水準にあたる。

もっとも、そこから先は一本調子ではない。2026年3月末に2,000円を割り込むと、春から初夏にかけて水準を落とし、2026年6月末には1,800円台まで下押しした。

再び戻したのは夏に入ってからである。2026年7月末は2,000円台、2026年8月末は2,100円台となり、2025年9月末との比較では2割を超える上昇になっている。

1年を通せば上げているが、途中に2割近い調整を挟んでいる。ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)は決して小さくない。この山と谷が何を映していたのかは、決算と資本効率の両方を見ないと像を結ばないだろう。

2027年3月期1Qは営業利益+20.3%、それでも税引前は減った

直近の決算は2027年3月期1Qである。収益は3兆8,758億円で前年同期比+8.9%、売上総利益は6,559億円、営業利益は2,054億円で+20.3%と伸びた。

一方で税引前四半期利益は3,699億円、▲1.3%と小幅に減っている。当社株主に帰属する四半期純利益は2,937億円で+3.5%だった。

利益の階段の途中で伸びが止まったように見えるが、会社の説明を読むと理由ははっきりしている。売上総利益はエネルギー・化学品、金属、情報・金融、機械が押し上げ、販売費及び一般管理費は人件費の増加と円安に伴う為替影響で膨らんだ。

そのうえで効いたのが有価証券損益で、前年同期比924億円の減益要因になった。前年同期に計上した投資先の売却益の反動である。金額としては381億円で、前年同期の1,305億円から大きく落ちた。

逆向きに効いたのが持分法による投資損益だ。1,116億円と前年同期の638億円から478億円増えており、会社は機械、金属、食料、住生活が寄与したとしている。

つまり税引前の小幅な減少は、本業の後退ではなく前年に一度きりの売却益があったことの裏返しと読める。持分法の伸びを合わせれば、稼ぐ力の芯はむしろ太くなっている。

通期予想は当期利益9,500億円で+5.5%。1Qの進捗率は約31%だが、この業態の季節性を踏まえれば違和感のある水準ではない。

三菱商事と並べて初めて見える、資本効率の6ポイント差

総合商社をひとまとめに語ると、この構造は見えてこない。そこで比較対象として三菱商事<8058>を置いてみる。国内の総合商社を思い浮かべたとき、多くの人が最初に並べる2社だろう。

2026年3月期の数字を横に置く。収益は伊藤忠商事が14兆8,230億円、三菱商事が18兆9,159億円で、規模では三菱商事が上回る。

ところが売上総利益になると順序が入れ替わる。伊藤忠商事2兆4,805億円に対し、三菱商事は1兆6,550億円。当期利益も伊藤忠商事9,002億円、三菱商事8,004億円と伊藤忠商事が上だ。

使っている資産の大きさはさらに開く。総資産は伊藤忠商事16兆7,328億円、三菱商事24兆1,516億円。株主資本はそれぞれ6兆5,899億円と9兆4,405億円である。

結果としてROEは伊藤忠商事14.6%、三菱商事8.5%となり、差は6ポイントに達する。収益で4兆円下にいる会社が、7兆円以上少ない資産で、より多くの利益を出している。ここまで来ると規模の話ではなく、効率の話だ。

差はレバレッジではなく、資産1円あたりの利益から来ている

ROEに差があると聞いて、まず疑うべきは財務レバレッジである。借入を厚くして自己資本を薄くすれば、同じ利益でも比率は高く出る。

だが2026年3月期の自己資本比率は、伊藤忠商事39.4%、三菱商事39.1%とほぼ並ぶ。資本構成の違いでは6ポイントの差を説明できない。

残るのは資産の稼ぐ力だ。総資産に対する当期利益で見ると伊藤忠商事は5.4%、三菱商事は3.3%になる。同じ1円の資産から、伊藤忠商事のほうが6割以上多い利益を引き出している計算だ。

その源にあるのは商いの質の違いだろう。収益に対する売上総利益率は伊藤忠商事16.7%、三菱商事8.7%。取引の量ではなく、1件あたりに残る幅で差がついている。

ここで一般的なイメージを一つ崩しておきたい。商社は薄利多売の業態として語られることが多い。しかし卸売業の売上総利益率の中央値は17.0%であり、伊藤忠商事の16.7%はほぼ中央値並みにすぎない。むしろ三菱商事の8.7%のほうが、業種の真ん中から大きく下へ離れている。

商社の中では高マージンに見える会社が、卸売業という母集団の中では平均的な位置にいる。業種区分の粗さを差し引いても、この二重の見え方は投資家にとって示唆的ではないだろうか。

Google で優先するソースとして追加
石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

関連タグ