この記事はここがポイント
- キヤノン2025年12月期はカメラ6,254億円、医療機器5,806億円とほぼ同規模の事業構成。
- 医療機器事業は買収で構築され、2024年12月期に多額ののれん減損損失が全社利益を大きく左右した経緯。
- 2025年12月期は売上高・営業利益が過去最高を更新、営業利益62.8%増、株価も回復。
カメラと複合機。キヤノン<7751>と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、この2つではないだろうか。私もそうだった。だが2025年12月期の事業別の内訳を開くと、カメラとほぼ同じ規模で医療機器が並んでいる。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
カメラの隣に医療機器が並んでいる
キヤノンの報告セグメントは、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアル、その他及び全社の5つで構成される。カメラが属するのはイメージングだ。
2025年12月期の売上高は、プリンティングが2兆4,944億円、イメージングが1兆549億円、メディカルが5,806億円、インダストリアルが3,611億円だった。
このイメージングの内訳をさらに開くと、カメラが6,254億円、ネットワークカメラ他が4,291億円である。
つまりカメラ単体の6,254億円に対し、医療機器を扱うメディカルは5,806億円。ほぼ肩を並べている。
メディカルが扱うのは、CT装置、超音波診断装置、X線診断装置、MRI装置、デジタルラジオグラフィ、眼科機器、体外診断システム及び試薬、ヘルスケアITソリューションだ。カメラの周辺で生まれた派生商品ではない。
会社全体の売上高は4兆6,247億円で2.5%増、2期連続で過去最高を更新した。社名から受ける印象だけでは、この規模の説明はつかない。
この構造は買い足してきた結果である
医療機器事業は、社内から自然に育ったものではない。沿革には、東芝メディカルシステムズの株式を取得し、現在のキヤノンメディカルシステムズになったと記されている。
同社は栃木県大田原市に本社を置く資本金207億円の連結子会社で、議決権の100%をキヤノンが握る。
メディカルビジネスユニットに紐づく国内の連結子会社は、これだけではない。キヤノンメディカルダイアグノスティックス、キヤノンメディカルファイナンス、キヤノン電子管デバイスが並ぶ。
買い足しは一度で終わっていない。キヤノンメディカルシステムズはミナリスメディカルの株式を取得して現在のキヤノンメディカルダイアグノスティックスとし、2021年にはRedlen Technologiesの株式も取得している。
グループの規模も大きい。2025年12月末時点で連結子会社は321社、持分法適用関連会社は8社である。
この積み重ねは、貸借対照表にも痕跡を残している。会社の記載によれば、重要なのれんが配分されている報告単位はメディカル報告単位であり、その金額は4,058億円だ。
のれんは、買収で支払った対価のうち、識別できる資産や負債の公正価値を超えた部分にあたる。それが最も厚く積まれている場所がメディカルだという事実は、この事業がどこから来たのかを端的に示している。
そして、のれんは重い。前期にあたる2024年12月期には、この報告単位で減損テストの結果としてのれんの減損損失を計上した。会社によれば、2025年12月期の減損テストでは個々の報告単位の公正価値が帳簿価額を上回り、減損が見込まれる報告単位はなかったという。
買った事業は、毎年その値段の妥当性を問われ続ける。医療機器がキヤノンの事業構成に組み込まれたことの意味は、売上高の並びだけでは測れない。
直近決算で医療機器はどう動いたか
2025年12月期のメディカルの売上高は5,806億円で2.1%増だった。のれんの減損損失を除く調整後の税引前当期純利益は341億円で、33.1%の増益である。
会社の説明によると、日本や欧州での販売は低調だった一方、米国では下期から新規に契約した代理店を通じた販売が本格化した。注力している中近東や南米などの新興国でも販売が増加し、堅調に推移したという。
社内に置いたメディカル事業革新委員会による活動の効果もあった、というのが会社の見立てだ。
全社の数字も大きく動いた。2025年12月期の営業利益は4,554億円で62.8%増、営業利益率は9.8%と3.6ポイント改善している。当社株主に帰属する当期純利益は3,321億円で107.5%増だった。
営業費用が1兆7,066億円と8.4%減った点が効いている。会社は、前期にメディカルでのれんの減損損失を認識していたことに加え、海外での構造改革の効果と徹底した経費管理を要因に挙げる。
裏を返せば、前期の落ち込みは医療機器事業の評価損によるところが大きく、今期の高い伸び率にはその反動が含まれている。増益率の大きさだけを見て地力を測るのは早計だろう。
進行期はどうか。2026年12月期上期の売上高は2兆2,745億円、営業利益は2,305億円だった。1Qの営業利益は713億円で26.1%の減益だったが、上期累計ではここまで積み上がった。
通期予想は売上高4兆8,000億円で3.8%増、営業利益4,650億円で2.1%増、当期純利益3,400億円で2.4%増である。1Qの時点で示していた売上高4兆7,650億円、営業利益4,560億円からは引き上げられている。上期の営業利益は通期予想に対して49.6%の進捗だ。
市場はこの姿をどう扱っているか
株価は2025年9月末の4,300円台から水準を切り上げ、2026年2月末には4,700円台をつけた。昨秋以降の月末終値では、ここが最も高い。
そこから2026年4月末には4,000円台まで下押しし、2026年7月末は4,400円台。2026年8月時点の直近終値は4,600円台まで戻している。春につけた安値からは、おおむね元の水準に近いところまで戻したかたちだ。
利益の水準は業種の中で高い位置にある。2025年12月期のROE(自己資本利益率)は9.7%で、電気機器の中央値7.4%を上回る。営業利益率9.8%も中央値6.7%より高い。
もっとも前期のROEは4.8%だった。1期でここまで振れる指標を、そのまま実力値として読むわけにはいかない。
興味深いのは、カメラをめぐる一般的な見方と実際の数字がずれていることだ。スマートフォンに市場を奪われた事業という語られ方をしがちだが、2025年12月期のイメージングは売上高が12.5%増、営業利益が1,729億円で14.3%増だった。カメラ単体でも7.9%増、ネットワークカメラ他は20.1%増である。
一方で、名前のうえで会社の顔になっていないメディカルは、のれんの減損という形で全社の利益を大きく揺らした。目立つ事業と、業績を揺らす事業は必ずしも一致しない。
研究開発費は3,392億円で、売上高に対して7%台を投じている。株主資本比率は56.9%と、電気機器の中央値62.2%をやや下回る水準だ。設備投資は2,117億円で、会社は翌期に2,300億円を見込むとしている。
過去5期のキヤノンを眺めると、事業の数が増えたわりに利益の振れ幅が小さくなっていないことに気づく。
多角化は本来、事業ごとの景気感応度がずれることで振れを吸収する仕組みだ。ところが前期は一つの報告単位の評価損が全社の利益を削り、今期はその反動が増益率を押し上げた。
事業を分散させても、のれんという形の集中は残る。買収で事業を買い足す経営は、ポートフォリオの姿を短い時間で変えられる代わりに、支払った値段の妥当性を毎年テストされ続ける。
だから医療機器がキヤノンの柱かどうかは、売上高の並びだけでは決まらない。買った価値を回収できているかまで含めて、はじめて評価が定まる。
次に決算を開くときは、どの事業がのれんを背負っているのかという視点も一緒に置いてみてほしい。事業構成の図よりも、その方が会社の重心を早く教えてくれることがある。
参考資料
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
