この記事はここがポイント
- 住友電工株価は2025年9月1,055円から2026年5月3,146円へ急騰後、7月2,100円台へ反落、市場の成長期待修正
- 住友電工2027年3月期1Q営業利益970億円(+61.0%)も通期予想は+7.6%の4,500億円。フジクラは1Q営業利益1,048億円で住友電工を上回り通期+128.9%増
- 住友電工は情報通信事業の成長も自動車関連が過半を占め、フジクラと比較し会社全体の成長は緩やか
電線メーカーと聞いて、成長株を思い浮かべる投資家は多くないだろう。ところが住友電工<5802>の株価は、2025年9月末の1,000円台から2026年5月末には3,100円台まで水準を切り上げた。そして、そこから大きく下押ししている。この上げと下げは、同じ絵の裏表なのだろうか。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
株価は8か月で3倍近くになり、そこから大きく下押しした
月末の終値を並べると、上げ方の速さが分かる。2025年9月末は1,055円だった。
そこから2025年10月末は1,400円台、11月末と12月末は1,500円台へと切り上がっている。歩幅としては、まだ穏やかな部類だ。
年が明けてからの動きは速い。2026年1月末は1,600円台、2月末には2,500円台まで一気に水準を上げた。3月末はいったん2,000円台へ下押ししたが、4月末には2,500円台を回復している。
そして2026年5月末の3,146円が、2025年9月末以降の月末終値では最も高い水準になった。起点の3倍近い。
反落も速かった。6月末は2,900円台、7月末は2,100円台まで下げている。2026年8月時点の終値は2,255円で、7月末からはわずかに戻した水準にある。
値動きの幅そのものも大きい。上に3か月続けて切り上がる場面があり、下には2か月で3割近く水準を落とす場面がある。ボラティリティ(株価の値動きの激しさ)の高い状態が続いてきた。
2025年9月末の1,055円は、この期間で最も低い月末終値でもある。そこから5か月で2,500円台に乗せたことになる。市場の見方が短い時間で入れ替わった。
何がこの上下を作ったのか。株価が動いた理由を一つに決めることはできない。相場全体の地合いや需給も絡む。
それでも、同社の情報通信分野で起きていたことと重ねると、見え方は変わってくる。生成AI向けのデータセンター投資というテーマは、日本株の物色をここ数年動かしてきた。光ファイバや光配線を手がける企業は、その恩恵を最も直接に受ける位置にいる。
もっとも、テーマが強いほど株価は実績より先に動く。上げが速ければ、期待の修正も速い。2026年6月から7月にかけての下押しは、業績の悪化ではなく織り込みの巻き戻しと見るほうが自然だろう。
営業利益+61.0%の1Qと、下げた株価。数字は逆を向いている
実際、足元の業績は強い。2027年3月期1Qの売上高は1兆3,305億円で前年同期比+15.9%だった。
営業利益は970億円で+61.0%、経常利益は1,030億円で+66.6%、純利益は664億円で+89.1%となっている。株価が下げた期間と、この数字はきれいに逆を向いている。
増益の中身について、会社の説明ははっきりしている。情報通信関連事業は生成AI市場の拡大で増収、環境エネルギー関連事業は銅価格の上昇で増益、自動車関連事業は円安と銅価格の上昇で増収だという。
エレクトロニクス関連事業はFPC(フレキシブルプリント回路)需要の堅調で、産業素材関連事業はタングステン市況の高騰で、それぞれ増収となった。
5つの事業を眺めると、伸びの理由が需要そのものにあるのは情報通信とエレクトロニクスだ。残りは市況と為替の要素が大きい。増益の質を見るなら、この色分けは押さえておきたい。
前期も強かった。2026年3月期は売上高5兆1,101億円で+9.2%、営業利益4,181億円で+30.4%、純利益3,695億円で+90.7%と、いずれも過去最高を更新した。
純利益の伸びが突出しているのは、住友電設株式の売却による特別利益が寄与したためだ。裏を返せば、この分は翌期に繰り返されない。
利益の水準そのものは、この5期で大きく切り上がっている。2022年3月期の営業利益は1,221億円だった。それが2023年3月期1,774億円、2024年3月期2,266億円、2025年3月期3,206億円、2026年3月期4,181億円と、毎期積み上がってきた。
資本効率も追いついてきた。ROE(自己資本利益率)は2022年3月期の5.7%から2026年3月期には14.7%へ上がっている。ただし直近期は特別利益の押し上げを含む分、割り引いて見たい。
財務の姿も添えておく。2027年3月期1Q末の自己資本比率は55.1%で、前期末から1.8ポイント低下した。総資産が3,189億円増えた分、比率としては下がった格好だ。
情報通信の効き方は、前期の途中経過に表れている。2026年3月期3Q累計の情報通信関連事業は、売上高2,205億円で608億円の増収、営業利益460億円で357億円の増益だった。
全社の営業利益が3Q累計で2,710億円だから、増益の主役がどこにあったかは明らかだ。会社によれば、採算の高いデータセンター向け製品が増えたことが効いている。
では、なぜ株価は下げたのか。手がかりは会社の通期計画にある。2027年3月期の予想は売上高5兆4,000億円で+5.7%、営業利益4,500億円で+7.6%、純利益は3,400億円で▲8.0%だ。
1Qで営業利益を+61.0%伸ばした会社が、通期では+7.6%しか見込まない。前期の特別利益が消える分、純利益は減益予想になる。
もっとも、金額で見ると印象は少し変わる。1Qの営業利益970億円は、通期予想4,500億円の2割強にあたる。単純に4等分したペースには届いていない。
伸び率の大きさは前年同期の水準の低さも映している。通期計画が極端に保守的だと決めつけるのは早い。ただ、株価が3倍近くまで買われた後では、この計画の慎重さが重く受け取られた可能性はある。
売上が3倍以上ある住友電工を、1Qの営業利益でフジクラが上回った
ここでフジクラ<5803>を横に置いてみたい。どちらも非鉄金属に分類され、電線とケーブルを源流に持つ点で共通する。
2027年3月期1Qの数字を並べると、構図がはっきりする。住友電工は売上高1兆3,305億円で営業利益970億円。フジクラは売上高4,020億円で営業利益1,048億円だった。
売上には3倍以上の開きがある。それでも営業利益はフジクラのほうが大きい。1四半期の断面ではあるが、収益の作り方がまるで違うことを示す並びだ。
通期予想でも構図は変わらない。住友電工が営業利益4,500億円で+7.6%、フジクラが4,320億円で+128.9%を見込んでいる。フジクラの売上高予想は1兆7,550億円で+48.4%だ。
片方は5兆円を超える売上から4,500億円を、もう片方は2兆円に届かない売上から4,320億円を作る計画になっている。同じ業種の中に、これだけ形の違う会社が並んでいる。
差はどこで開いたのか。過去5期の伸び方を並べる
この差は一夜でできたものではない。過去5期を並べてみよう。
住友電工の売上高は2022年3月期の3兆3,678億円から2026年3月期の5兆1,101億円へ、1.5倍になった。営業利益は3.4倍だ。伸び方としては十分に速い。
フジクラは売上高が6,703億円から1兆1,823億円へ1.8倍、営業利益は382億円から1,887億円へ4.9倍。どちらの指標でも伸び率はフジクラが上回る。
営業利益の積み上がり方も違う。フジクラは2024年3月期694億円、2025年3月期1,355億円、2026年3月期1,887億円と、直近2期で加速した。
差が決定的になったのは2026年3月期だ。フジクラは売上高+20.7%、営業利益+39.2%、純利益+72.5%となった。
会社の説明によれば、情報通信事業部門が売上高6,530億円で+44.7%、営業利益1,527億円で+65.7%と大きく貢献した。一方でエレクトロニクス事業は、サプライチェーン問題や競争激化により減収減益だったという。
同じ期の住友電工は売上高+9.2%、営業利益+30.4%。伸びてはいるが、フジクラほどではない。
理由の一つは、伸びている事業が全体に占める割合にある。住友電工の2026年3月期3Q累計では、自動車関連事業の売上高が2兆1,351億円と全社の過半を占めた。情報通信関連事業の2,205億円とは桁が違う。
最も速く伸びる事業を持っていても、それが全体の1割に届かなければ、会社全体の成長率はゆっくりにしかならない。伸び率の差は、事業の巧拙よりも構成の差から来ている部分が大きいと考えられる。
非鉄金属27社の中央値を置くと、2社の位置づけは変わる
2社だけを並べると、どちらが優れているかという話に落ちてしまう。第三の物差しとして、非鉄金属27社の中央値を置いてみたい。
2026年度の非鉄金属の営業利益率は、中央値が6.5%、上位四分位が11.5%だ。2026年3月期の営業利益率は住友電工が8.2%、フジクラが16.0%となる。
住友電工は中央値を上回るが上位四分位には届かない。フジクラは上位四分位を大きく超えている。ROEでも形は同じで、中央値9.0%・上位四分位17.3%に対し、住友電工は14.7%、フジクラは32.5%だ。
見落としたくないのは、別の中央値である。同じ業種の売上成長率の中央値は9.8%、営業増益率の中央値は38.0%だった。
電線や非鉄金属と聞くと、景気に振られる成熟した業種というイメージが先に立つ。だが業種の中央値が示すのは、業界そのものが大きな増益局面にあったという姿だ。
この物差しを当てると、住友電工の営業利益+30.4%は業種の中央値に届いていない。悪い数字ではない。ただ、周囲がそれ以上に伸びていた。
株価の反落も、この角度から捉え直すことができる。同社が弱かったのではなく、業界全体が良かった局面で、相対的な伸びの緩さが意識された可能性がある。
株価の推移と会社の通期計画を重ねると、市場が何に反応したのかが見えてくる。
大きく買われた局面で織り込まれていたのは、情報通信の成長速度だったのだろう。ところが会社の全体像は、依然として自動車と環境エネルギーが支える構造にある。
伸びる事業を持っていることと、会社全体が伸びることは別だ。この2つを混同しないよう気をつけたい。
もっとも、規模の大きさは弱点ばかりではない。市況や為替に振られる事業を複数抱えることは、テーマが冷えたときの下支えにもなる。フジクラの利益が情報通信に強く寄りかかっていることの、ちょうど裏返しだ。
私が見たいのは、次の決算で情報通信の比重がどこまで上がるかである。全体に占める割合が切り上がって初めて、会社の成長率そのものが変わる。
株価が下げた局面でこそ、利益がどこから来ているのかを分解して眺めてほしい。伸び率だけを追うと、構造の違いを見落とす。
参考資料
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
