執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
18:30

利益率3倍差でもROEがほぼ並ぶのはなぜか

2025年12月期の連結営業利益率は、日本たばこ産業が25.0%、キリンホールディングスが8.6%。3倍近い開きがある。

ところがROE(自己資本利益率)は日本たばこ産業が12.99%、キリンホールディングスが12.0%でほぼ並ぶ。利益率で3倍近い差がついているのに、株主資本の利回りではほとんど差がない。

ROEは利益率、資産の回転、財務レバレッジの3つに分解できる。売上収益を総資産で割った回転率は日本たばこ産業が0.41回、キリンホールディングスが0.70回。自己資本比率は48.5%と36.8%だ。

つまり利益率で稼いだ分を、回転の遅さが削っている。そして削られた分を、相手側はレバレッジと回転で埋めている。

回転が遅い理由は資産の側にある。総資産8兆4,192億円のうち、のれんが2兆9,230億円を占める。総資産の3分の1超がのれんだ。

たばこ事業への集中は、買い集めてきた集中でもある。高い利益率と重い資産は、同じ戦略の表と裏だろう。ブランドと販路を取り込めば利益率は上がるが、その代金は資産としてバランスシートに残る。

ROEで並ぶという結果は、その帳尻が合った姿と読み取れる。

時系列に並べると、もうひとつ別の姿が出てくる。2024年12月期の営業利益は日本たばこ産業が前期比▲53.3%、キリンホールディングスが▲16.6%と、そろって減益だった。

営業利益率でも2024年12月期は10.3%と5.4%まで下がり、2023年12月期の23.7%・7.0%からそろって後退している。

翌期は営業利益が+175.9%と+67.3%で戻した。凹む年は同じでも、振幅がまるで違う。

多角化は分散でリスクを抑える、とよく言われる。数字を見ると、その効き方は落ち込みの浅さに出ており、代わりに戻りの勢いも浅い。集中の側は、落ちるときも戻るときも大きい。分散が守るのは水準ではなく振幅だ、と言い換えたほうが実態に近いのではないだろうか。

出所:日本たばこ産業株式会社およびキリンホールディングス株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成2/2
営業利益率、同じ年に凹み水準は大きく違う

業種中央値に照らすと、両社は同じ側に立っている

2社だけを並べると、どちらが優れているかの話に落ちやすい。第三の物差しとして、業種の中央値を置いてみる。

食料品業種97社の営業利益率の中央値は3.89%、上位四分位は7.17%である。日本たばこ産業の25.0%は中央値の6倍を超え、キリンホールディングスの8.6%も上位四分位の上にある。

利益率で3倍の差がある2社が、業種の中では同じ側、それも上側に並んでいる。ROEも同様で、中央値6.67%・上位四分位10.45%に対して両社は12%台だ。

一方で、下回るものもある。総資産回転率の中央値は1.14回で、両社の0.41回・0.70回はいずれも届かない。自己資本比率の中央値60.8%に対しても、48.5%・36.8%と低い。

食料品セクターは薄利で堅い、というイメージが先に立つ。だが両社に限れば、利益率が高く、資産が重く、自己資本が薄いという同じ型に収まっている。

事業の中身はたばこと酒でまるで違うのに、財務の形は似た方向へ振れている。業種平均の姿と、その中の大型2社の姿は、別のものとして眺めたほうがよさそうだ。

もっとも、中央値との比べ方には注意も要る。食料品という区分には、原料や加工の会社から飲料、たばこまでが同居している。97社の中央値が、この2社の事業モデルを代表しているわけではない。それでも、両社が業種の平均像からどの方向へどれくらい外れているのかを測る物差しとしては役に立つ。

見逃せないのは、事業構成の違いが投資家側の作業量まで変えてしまう点だ。

売上のほとんどが一つの事業なら、追うべき変数はほぼ一つで済む。値上げが通るか、数量がどれだけ減るか。この2つを見ていれば、会社の姿は大づかみに掴める。

柱が4つに分かれていれば、変数も4つになる。酒の需要、飲料の天候、薬の開発、健康関連事業の立ち上がり。どれも別の物差しで見なければならない。

分散はたしかに落ち込みを浅くする。だが読む側の手間は増える。この非対称は、あまり語られない。

私が気になるのは、集中の側にいる日本たばこ産業が、その読みやすさをいつまで保てるかだ。買収で積み上げたのれんは、減損という形で一度に利益へ跳ね返る性質を持つ。単一事業の会社を見るときほど、損益計算書の外側にも目を向けることをおすすめしたい。

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石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

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