川崎汽船<9107>、当期利益▲57%でも営業CFは2,647億円。2026年3月期通期に映る資本配分の構図
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
15:26
川崎汽船<9107>、当期利益▲57%でも営業CFは2,647億円。2026年3月期通期に映る資本配分の構図

この記事はここがポイント

  • 川崎汽船はコンテナ船事業が連結外で、利益構造が特異である点。
  • 2026年3月期は営業CF2,647億円を確保し、財務が健全である点。
  • 自己資本比率76.9%と高い還元姿勢が特徴である点。

海運株といえば、コンテナ船の運賃指数と一緒に語られることが多い。運賃が上がれば買われ、下がれば売られる。ところが川崎汽船<9107>の連結決算を開くと、コンテナ船の運賃収入は売上高のどこにも見当たらない。株価は昨秋以降で水準を切り上げてきたが、その背景を運賃だけで説明するのは難しい。利益がどこから来ているのかを、決算と資本配分の両面から整理してみたい。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

昨秋以降で水準を切り上げた株価。2026年8月に何が起きているのか

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起点となる2025年9月末の終値は2,100円台だった。そこから秋にかけては上値が重く、2025年11月末には2,000円台前半まで下押ししている。

流れが変わったのは年明けからだ。2026年1月末に2,200円台、2月末に2,500円台と水準を上げ、3月末は2,600円台まで切り上がった。

春から初夏はもみ合いに入る。4月末と5月末は2,500円台、6月末は2,400円台と、いったん上昇の勢いが緩んだ形だ。

そして7月末は2,800円台に乗せ、2026年8月時点の終値は3,100円台まで来ている。

昨秋以降の月末終値で最も高いのは2026年3月末、最も低いのは2025年11月末である。2026年8月時点の3,100円台はその上限を上回っているが、まだ月末を迎えていない時点の値だ。

2025年9月末から2026年7月末までの10か月で、月末終値の水準は3割強切り上がった。海運という景気敏感セクター全体への資金の向きや、後述する還元姿勢が意識された可能性はあるが、株価がなぜ動いたかを単一の材料で言い切ることはできない。ここでは値動きの事実だけを押さえ、中身の検証に移りたい。

2026年3月期通期の減益幅。業種の中央値と並べて見えるもの

2026年3月期通期の売上高は1兆183億円で前期比▲2.8%、営業利益は841億円で▲18.2%、経常利益は1,091億円で▲64.6%、親会社株主に帰属する当期利益は1,329億円で▲56.5%だった。1株当たり利益は210.42円である。

経常利益の減少幅が突出している。会社の説明によると、当期は持分法による投資利益として227億円を計上し、うち持分法適用関連会社であるOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.からの計上額は150億円だった。前期の水準からの落差が、営業外の段階で効いた形だ。

「海運大手が大幅減益」という見出しだけを追うと、同社固有の失速のように読める。だが海運業の業種中央値を並べると、売上成長率は▲2.8%、営業利益成長率は▲23.1%、当期利益成長率は▲49.9%である。減収も減益も、業界に共通して起きている局面だ。

本業そのものの推移も確認しておきたい。営業利益は2022年3月期の176億円から、2023年3月期788億円、2024年3月期841億円、2025年3月期1,028億円と積み上がり、2026年3月期は841億円である。

売上高は同じ5期で7,569億円、9,426億円、9,579億円、1兆479億円、1兆183億円という並びだ。直近期は前期からわずかに後退したが、5期のレンジで見れば運航事業の収益力は水準を上げてきたと言える。

しかも水準そのものは業種の上位にある。営業利益率は8.3%で中央値の7.0%を上回り、当期利益率は13.1%で中央値の8.7%を上回る。ROE(自己資本利益率)は7.7%で、中央値の7.6%とほぼ並ぶ。

絶対水準は前期から後退したが、相対水準は厚みを保っている。この二つは矛盾するようでいて、同じ決算のなかで同時に成り立っている。

コンテナ船事業が連結の外にあるという構造

営業利益841億円に対し、経常利益は1,091億円だった。営業外収益380億円、営業外費用130億円が挟まるためで、この会社は営業利益より経常利益のほうが大きくなる。

その差を作る中心が持分法による投資利益だ。関係会社の状況を開くと、持分法適用関連会社にオーシャンネットワークエクスプレスホールディングス(東京都港区、持株会社)が並び、議決権所有割合は31.0%とある。同じ区分にはシンガポールのOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(海運業、資本金30億米ドル)も置かれている。

つまりコンテナ船事業は連結子会社ではない。運賃収入は連結売上高に入らず、31%の持分を通じて、営業外の一行として届く。「海運=コンテナ運賃」というイメージで営業利益だけを追うと、この会社の稼ぎ方は視界から外れてしまう。

この構造は、5期の経常利益を並べると一目でわかる。2022年3月期6,575億円、2023年3月期6,908億円、2024年3月期1,327億円、2025年3月期3,080億円、2026年3月期1,091億円である。

営業利益が176億円から1,028億円へ着実に増えていった同じ期間に、経常利益は6,575億円から1,091億円まで縮んだ。運航事業が伸びる裏で、営業外の稼ぎが数千億円規模で失われたということだ。コンテナ船の異常な好況とその終息は、この会社のP/Lでは営業利益ではなく営業外に現れる。

下段はさらに動く。当期は特別利益256億円が立ち、法人税等が▲39億円となったため、当期利益は経常利益を上回った。P/Lを下に降りるほど数字が膨らむ決算である。

来期の前提について、会社はセグメントごとの見通しを示している。ドライバルクは大型船の新造船竣工量が限定的で船腹供給が抑制され、需給は引き締まると予想する。エネルギー資源は中長期契約に支えられ底堅い収益の推移を見込む。一方、製品物流では紅海・ペルシャ湾周辺の海上輸送環境が不透明な状況が続くとしている。安定契約で守り、地政学の変動は残す、という整理だ。

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石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

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