執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
15:26

営業CF1兆4,229億円の使い道。資本配分に映る優先順位

過去5期の営業キャッシュフロー(本業で稼いだ現金の出入り)を並べると、2022年3月期は2,264億円、2023年3月期は4,560億円、2024年3月期は2,024億円、2025年3月期は2,731億円、そして2026年3月期は2,647億円だった。合計1兆4,229億円である。

この現金がどこへ向かったか。5期の投資キャッシュフローは合計▲2,801億円、設備投資は合計4,252億円にとどまる。直近期の設備投資は906億円で、1,334億円だった前期から絞られた。

対して財務キャッシュフローは5期合計で▲9,763億円だ。稼いだ営業キャッシュフローの7割弱が、借入返済と株主還元を含む財務活動へ戻っている。投資よりも財務の側に重心を置いてきた資本配分だと読み取れる。

結果として自己資本比率は2022年3月期の56.2%から2026年3月期は76.9%まで上がった。海運業の中央値は47.5%だから、業種のなかでも際立って厚い。現金及び現金同等物も3,197億円を抱える。

還元も緩めていない。2026年3月期の配当は年間120円(中間60円、期末60円)で、配当性向は57.0%、純資産配当率(DOE)は4.25%だった。中央値の配当性向30.9%、DOE2.4%と比べれば、還元の水準は業種の上限側にある。

自己株式の動きも速い。2026年3月末時点で707万株だった自己株式は、2027年3月期1Q時点で3,387万株まで増えている。発行済株式6億3,917万株の5.3%に相当する規模だ。

自己資本比率76.9%という数字は、素直に読めば財務の余裕である。もっとも、コーポレートファイナンスの観点では、負債をほとんど使わない財務が資本効率にとって最適かどうかという論点が残る。船隊への投資機会が乏しい局面では現金を株主に返すのが理にかなうが、デットキャパシティ(追加で負債を負える余力)を遊ばせている状態でもある。厚い自己資本を「健全」の一語で片づけないほうがよいだろう。

2027年3月期1Qの進捗率と、通期予想の前提

2027年3月期1Qは売上高2,868億円、営業利益195億円、経常利益240億円、当期利益233億円で着地した。1株当たり利益は37.42円である。

通期予想は売上高1兆700億円で前期比+5.1%、営業利益850億円で+1.0%、経常利益1,350億円で+23.7%、当期利益1,350億円で+1.5%。配当予想は年間120円が据え置かれている。

進捗率で見ると、営業利益は23.0%、経常利益は17.8%だ。1Qの線形ペースは25%だから、経常利益の進み方はやや後ろ倒しに見える。会社は通期見通しの前提として為替1米ドル150.82円、燃料油1トン697米ドルを置いている。

注目したいのは、営業利益の伸びを+1.0%と控えめに置きながら、経常利益を+23.7%と大きく伸ばす形にしている点だ。営業外の持分法投資利益が戻ることを織り込んだ計画と考えられる。連結の外にある稼ぎが、そのまま通期予想の増益率を決めている構図である。

つまりこの会社の通期予想は、本業の運航利益だけを見ていても検証できない。コンテナ船市況と持分の動き、その両方を追う必要がある。

営業利益、経常利益、当期利益。この三つを縦に並べて眺めると、下に降りるほど数字が膨らむ会社だとわかる。多くの製造業は逆で、営業利益が最も大きくなりやすい。ここが川崎汽船の特徴だ。

稼ぎの源泉の一部が連結の外にあるため、P/Lの上段だけを見る投資家と、下段まで降りる投資家では、同じ決算から別の結論が出る。決算発表の見出しが「大幅減益」で揃うときこそ、この差が広がるのではないだろうか。

資本配分にも同じ性格が出ている。稼いだ現金の多くを新造船ではなく財務活動へ戻し、自己資本を積み上げてきた。船価も市況も読みにくい産業で、身を軽くしておく判断は理解できる。ただ、それは成長の機会を外に置くという選択でもある。

運賃指数の話題に反応する前に、営業外の一行と持分の動きを追う。この会社を見るときは、そういう順番を意識してほしいと思う。

参考資料

  • 川崎汽船株式会社 2027年3月期 第1四半期決算短信

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石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

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