営業増益と当期純損失4,542億円が同居した2026年3月期
2026年3月期の損益計算書は、読み方を選ばせる形になっている。
売上高は6兆3,285億円で前期比▲7.1%。ところが営業利益は3,376億円で同+44.0%、経常利益は4,173億円で同+64.0%と、いずれも大きく伸びた。
減収なのに増益。燃料費や調達コストが下がった局面で、電力会社の損益がこう動くこと自体は珍しくない。
問題はその下である。特別損失9,966億円に対し、特別利益は1,849億円。税引前当期純損失は▲3,943億円となり、親会社株主に帰属する当期純損失は4,542億円で着地した。
営業段階で3,376億円稼ぎ、最終損益で4,542億円失う。この落差が、同社の財務の性格を最もよく表している。
過去5期を並べると、振れ幅がさらにはっきりする。2023年3月期は営業損失2,289億円・当期純損失1,236億円、2024年3月期は営業利益2,788億円・当期純利益2,678億円、2025年3月期は営業利益2,344億円・当期純利益1,612億円、そして2026年3月期が営業利益3,376億円・当期純損失4,542億円だ。
営業段階は3期連続の黒字で水準も切り上がっているのに、最終損益は黒字と赤字を行き来している。営業利益率は5.3%で、電気・ガス業の中央値6.9%を下回る。
ROE(自己資本利益率)は▲12.7%。営業利益で会社を測るか、最終損益で測るか。この会社では、その選択が結論をそのまま逆にする。
2027年3月期1Qの営業赤字と、昨秋からの株価の下押し
2027年3月期1Qでは、その振れがまた別の形で出た。
売上高は1兆4,811億円で前年同期比+3.9%。一方で営業損益は342億円の損失となり、前年同期の646億円の営業利益から赤字転落した。経常利益は114億円で同▲88.7%である。
もっとも最終損益は逆方向に動いた。親会社株主に帰属する四半期純損失は97億円で、前年同期の8,576億円の損失から大きく縮んでいる。
営業段階は赤字に転じ、最終損益は赤字幅が縮む。上と下で向きが逆になる決算を、この会社は繰り返している。1Q末の自己資本比率は22.1%だった。
株価はこの1年、下方向に振れてきた。
2025年9月末の終値は694円。10月末に772円、11月末には793円まで水準を切り上げ、昨秋以降の月末終値ではここが最も高い。
そこからは12月末657円、2026年1月末581円と下押しし、2月末に700円へ戻したあとは3月末639円、4月末592円、5月末565円、6月末461円と下げ続けた。6月末は、昨秋以降の月末終値で最も低い水準になる。
7月末は520円、2026年8月時点の直近終値は525円で、6月末の水準からは1割強戻している。起点の694円に対しては2割ほど低い。
営業利益が大きく増えた期に株価は下げ、営業赤字に転じた四半期のあとに持ち直している。市場が見ているのは営業段階の損益ではなく、廃炉と賠償にかかる費用の見通しや原子力の稼働に関する材料だろう。ただ需給や地合いも絡むので、単一の要因に寄せるのは避けたい。
変わっていないことのほうが、この会社の姿をよく説明している。筆頭株主の顔ぶれと持ち分は長く固まったままで、配当も据え置かれてきた。
その間に営業段階の利益は水準を切り上げ、最終損益は黒字と赤字を往復した。損益計算書は忙しく動いているのに、資本の枠組みは動いていない。
この非対称が、株主として何を期待できるのかを分かりにくくしている。議決権の過半を持つ主体が投資リターンを第一の目的にしていないなら、還元の意思決定が市場の期待に沿って進む保証はないからだ。
それでも数十万人規模の個人がこの株を持ち続けているのは興味深い。配当のない銘柄を長く保有する理由は限られる。この株主層は、還元ではなく事業の局面が変わる日に期待していることになる。
見ておきたいのは、営業段階の稼ぐ力と株主が受け取れるものが切り離された状態が、いつまで続くのかだ。その切断が解ける条件は決算書の外にある。決算の数字だけを追っていると、この銘柄は見誤る。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
