そもそも「ボンドプロキシー」とは
「ボンドプロキシー(bond proxy)」とは、業績が景気に左右されにくく、配当利回りが安定して高い銘柄――通信、電力・ガスなどの公益、鉄道・インフラ関連株などを指す言葉です。一言で言えば「株式市場の中にいる、債券のような値動きをする銘柄」であり、国債などの利回りがほぼゼロだった時代に、利息の代わりに配当を得る目的で資金の受け皿になってきた経緯があります。
国債の利回りが上向くほど、相対的な魅力で買われてきたボンドプロキシーの立ち位置は揺らぎやすくなる、というのが市場の一般的な見方です。
だからこそ「国債で2%取れるなら、あえて値下がりリスクのある株を持たなくても」という発想が出てくるわけですが、両者は税制面・成長性の面でそもそも性質が異なる商品であり、単純な利回りの大小だけで比較するのは早計です。
慌てて売ってはいけない理由① NISAと税金の壁
まず見落とされがちなのが税金の扱いです。個人向け国債の利子は原則として20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)の税金が源泉徴収される課税対象であり、NISA(少額投資非課税制度)の対象にはなりません。
前述の固定5年の利率2.06%も、税引後では1.6415110%まで目減りする計算です。
一方、NISA口座(成長投資枠)で保有している高配当株であれば、配当は非課税のまま受け取れます。
仮に配当利回り3%台後半~4%台の高配当株をNISA口座で保有している場合、税引後の手取り利回りで見ても、税引後1.64%程度の個人向け国債との差は依然として大きいままです。
額面上の利率差が縮まって見えても、非課税枠を使っているかどうかで手取りの差は保たれている点に注意が必要です。
慌てて売ってはいけない理由② インフレ耐性と増配力
固定5年・固定3年の個人向け国債は、発行時点で利率が確定し、満期まで変わりません。
裏を返せば、購入後に物価上昇(インフレ)が進んでも受け取る利息は増えないため、実質的な資産価値は目減りするリスクを抱えることになります(半年ごとに利率が見直される変動10年はこの限りではありません)。
これに対して、ボンドプロキシーに位置づけられる高配当株の強みは「増配」による調整力にあります。
値上げ転嫁力のある企業であれば、物価上昇に合わせて収益を伸ばし、配当を積み増していくことが期待できます。
増配が実現すれば、自分が投資した価格に対する利回り(YOC=Yield on Cost)は年々上昇していくことになり、これは利率が固定される債券にはない特性です。
慌てて売ってはいけない理由③ 元本成長という選択肢
個人向け国債は満期まで保有すれば額面通りに元本が返還される安心感がある一方、元本そのものが増えることはありません。
これに対してボンドプロキシーは株式である以上、値動きの大きさ(ボラティリティ)は他の株式に比べて相対的に小さいとされているとはいえ、企業の成長に伴う株価の値上がり益(キャピタルゲイン)を得られる可能性が残されています。
「元本保証」の国債と「元本成長の余地がある」株式、どちらの性質を取り入れるかは、資金の使い道や保有期間によって判断が分かれるところでしょう。
記者コメント:ゼロか百かではなく「役割分担」で考える
個人向け国債の利率が2%台に乗っていることは、低金利時代からの大きな変化であり、資産運用の選択肢が広がったこと自体は前向きに捉えられます。
また、9月に開かれる日本銀行の金融政策決定会合では利上げ観測が強まっており、金利は今後もますます高くなっていく可能性が出てきています。
こうしたなかで、個人向け国債の利率も上がっていくとの見方が大半を占めています。
ただし、これを理由にNISA口座の高配当株をすべて売却して国債に一本化する、といった極端な判断をする必要はありません。
数年以内に使う予定がある資金や、絶対に減らしたくない待機資金の置き場所として個人向け国債を活用する
非課税メリットとインフレ耐性・成長性を活かせるNISA枠は、引き続きボンドプロキシー(高配当株)に配分する
このように、資金の性格に応じて両者を使い分ける「役割分担」の発想が、金利上昇局面における現実的な選択肢の一つになりそうです。
参考資料
- 財務省「個人向け国債の発行条件等」(令和8年8月5日発表)
- 財務省 個人向け国債トップページ
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フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
