前受金という「顧客の先払い」が示すもの
見るべきは、決算の利益よりも、その裏で動いたお金の流れかもしれない。
1Qの営業活動によるキャッシュ・フローは958億円と、前年同期の95億円から大きく膨らんだ。会社の説明によると、増加の主因は前受金だ。前受金は前四半期末から735億円増え、総資産も1兆567億円へと1割ほど増えている。
前受金とは、顧客が基板の生産能力を先に押さえるための先払いにあたる。その急増は、需要の強さと、供給が簡単には追いつかない状況の両方を映していると読み取れる。
設備投資のかさむ装置産業は、現金を先に注ぎ込む商売だと受け止められやすい。しかしいまのイビデンは、顧客の先払いが投資の一部を支える形になっている。
設備投資額は2025年3月期の1,573億円をピークに、2026年3月期は642億円へと落ち着いた。大規模な投資を先行させてきた局面から、それを回収する局面へと移りつつあると読み取れる。
通期営業利益の倍増計画と、投資期に沈んだ資本効率の戻り
会社は2027年3月期の通期予想を引き上げている。売上高5,500億円(+32.1%)、営業利益1,270億円(+104.7%)と、営業利益は前期の2倍を超える計画だ。
見落とせないのは、資本効率の戻りである。ROE(自己資本利益率)は2023年3月期に13%台をつけた後、投資がかさんだ2024年3月期・2025年3月期には7%前後まで低下していた。
それが2026年3月期には12%台へと戻り、電気機器の業種中央値7%台を再び上回った。利益が投資の重さを吸収し始めた局面と受け止められる。
筆者コメント
見逃せないのは、株価の派手な動きと、その足元で進む地に足のついた変化が、同じ会社の中で同時に起きている点だ。
前受金が語るのは、「作る前から買い手がついている」状態である。もっとも先払いは需要の前倒しでもあり、どこかで反動が出る性質を併せ持つ。数量が積み上がる局面がいつまで続くかは、私にも断言できない。
投資を先行させた数年があったからこそ、いまの供給力と回収がある。株価は、その未来の回収を早回しで織り込みにいったのだろう。
AIという言葉に反応して株価が大きく動く局面ほど、受注・能力・キャッシュという地味な数字を並べ直して確かめる姿勢を持っておきたい。派手な物語の裏側にこそ、次の一手のヒントが隠れていることが多い。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
