この記事はここがポイント
- 信越化学の第1四半期は増収増益だったが、2年前の利益水準には戻っていない
- 好調な「電子材料(半導体)」の利益増を、不調な「塩ビ」の利益減が相殺してしまった
- 株価急落の最大の原因は、投資家の高すぎる期待(コンセンサス)と会社予想との乖離にある
半導体材料のシリコンウエハーで世界1位(「統合報告書2026」より)を占め、日本の半導体関連銘柄を牽引する存在である信越化学工業。直近の第1四半期決算では、増収増益という一見すると堅調な数字を発表しました。しかし、決算発表直後に同社の株価は急落し、市場に驚きを与えました。AI・半導体関連への期待が高まるなかで、なぜ最上流に位置する信越化学の株価は大きく売り込まれたのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が信越化学の株価の動きと会社からのメッセージを読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。
なぜ? 増収増益でも株価が急落した第1四半期決算
AIや半導体関連企業の業績に世界中の投資家の熱視線が注がれる中、日本の主要企業の中で先陣を切って2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の決算を発表したのが信越化学工業です。
発表された決算短信を見ると、売上高は6,624億円(前年同期比5.4%増)、本業の儲けを示す営業利益は1,737億円(同4.2%増)、最終的な儲けである親会社株主に帰属する四半期純利益は1,308億円(同3.5%増)と、すべての項目でプラス成長を達成しています。
信越化学工業 4063 日足チャート/TOPIX比較
出所:TradingView(信越化学工業 4063 日足チャート/TOPIX比較)
しかし、この決算発表を受けて信越化学の株価は急落しました。決算発表をまたいで株価チャートを見ると、大きく窓を開けて(前日の終値から大きく下に離れた水準で始まること)下落していることがわかります。
AI・半導体関連では2桁増益が相次いでいるという受け止めが広がるなかで、半導体製造の最上流に位置する信越化学の「1桁増益」という数字に、物足りなさを感じた投資家も多かったようです。
さらに業績の推移を詳細に見ると、前年同期(2026年3月期第1四半期)は営業利益が12.7%減という減益決算でした。今回のプラス成長はそこからの反発であり、前年同期比から逆算すると、実は2年前(2025年3月期第1四半期)の利益水準にはまだ届いていない状態です。
インタビュワーから「なぜ半導体関連の最上流の企業がこのような状況なのか」という疑問が投げかけられると、泉田氏はこの企業の事業構造の特殊性を指摘します。
「そもそもね、信越ってシリコンウエハーだけやってる会社じゃないんだよ」
多くの投資家は信越化学を「半導体銘柄」として捉えがちですが、同社の実態はそれだけではありません。次項で、その事業構造が業績に与えた影響を詳しく見ていきましょう。
業績の明暗を分けた「電子材料」と「塩ビ」の相殺構造
信越化学の事業は、大きく4つのセグメント(決算で業績を開示する事業区分)に分かれています。売上構成比(今第1四半期)を見ると、シリコンウエハーやフォトレジストなどを扱う「電子材料」が42%、塩化ビニル樹脂(塩ビ)などを扱う「生活環境基盤材料」が34%を占めており、この2大事業で全体の約4分の3を構成しています。
実は、今回の決算で明暗を分けたのは、この2大事業の業績のコントラストでした。
業績の明暗を分けた2大事業の相殺構造
半導体関連を含む「電子材料」セグメントは、売上高が前年同期比16%増(2,792億円)、営業利益が同23%増(1,019億円)と、投資家の期待通り2桁の力強い成長を見せました。
一方で、塩ビを中心とする「生活環境基盤材料」セグメントは、売上高が前年同期比7%減(2,277億円)、営業利益に至っては同34%減(348億円)と大きく落ち込んでしまったのです。
金額ベースで見ると、この構造はさらに鮮明になります。泉田氏はこの状況を次のように解説します。
「実はこの電子材料のところは188億増えてるんですけども、生活環境基盤材料のところが180億減っちゃってるんで、利益としては行ってこいみたいな」
つまり、半導体関連事業が稼ぎ出した188億円の利益増を、塩ビ事業の180億円の利益減がほぼ完全に相殺してしまったのです。会社全体での営業利益の増加額がわずか69億円にとどまった背景には、こうした事業間の「綱引き」がありました。
「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
