なぜ今、重工3社に投資マネーが集まるのか?元機関投資家が解説
出所:イズミダイズム
監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
21:52
なぜ今、重工3社に投資マネーが集まるのか?元機関投資家が解説
出所:イズミダイズム

この記事はここがポイント

  • 重工3社は防衛だけでなく、AI・電力、ロボット、脱炭素など5つの巨大テーマに関与している
  • 三菱重工はデータセンターの電力需要を支える大型ガスタービンで世界シェア56%を握る
  • 川崎重工はNVIDIAと提携し、次世代のフィジカルAI(ロボット)領域で存在感を示す
  • 国防(次世代戦闘機)や脱炭素(GX)では、各社が独自の強みを持ち寄り、異なる戦略を描く
  • テーマごとに強みが異なるため、1塊で買うのではなく「どのテーマでどの銘柄を買うか」の選別が重要

日本を代表する重工業メーカーである三菱重工業、川崎重工業、IHI。近年、これら「重工3社」は防衛関連銘柄として株式市場で大きな注目を集め、株価の変動要因となってきました。しかし、株価を動かしている背景は「防衛」だけではありません。実はこれら3社は、AIを支える電力インフラや次世代ロボット、脱炭素など、全く異なる複数の巨大な投資テーマの中心に位置しているのです。

一体なぜ、重厚長大なイメージのある企業群に、最先端の投資マネーが次々と集まっているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が、重工3社を取り巻く投資テーマと各社のポジショニングを読み解き、プロの視点で迫ります。

防衛だけではない。重工3社に集まる5つの投資テーマ

株式市場において、重工3社(三菱重工・川崎重工・IHI)と聞けば、多くの投資家は真っ先に「防衛関連銘柄」を思い浮かべるでしょう。しかし、現在の重工3社を取り巻く事業環境は、単なる防衛株という枠組みを大きく超えています。

政府が掲げる「戦略17分野」という重要な政策方針があります。これは国として重点的に投資・育成していく産業分野を定めたものですが、重工3社はこの17分野のうち、なんと5つの分野に深く関与しています。具体的には、「AI・半導体」「防衛・航空宇宙」「脱炭素(GX)」「造船」「マテリアル」の5分野です。

重工3社が関わる5つの投資テーマ

重工3社が関わる5つの投資テーマ
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重工3社が関わる5つの投資テーマ

一般的に、重工業という言葉からは、鉄や油にまみれた昔ながらの製造業というイメージを持たれがちです。また、川崎重工といえば「バイクの会社」という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし、泉田氏はこの一般的なイメージと株式市場での実態には大きなギャップがあると指摘します。

「重工というと重いに工業がついてるから油臭いことをやってるのかなというイメージはあると思うんだけど、特に三菱重工とか見ると、すっげえいろんなものをやってるのよ」

私たちが日常生活ではあまり目にしないところで、重工3社は最先端のテクノロジーとインフラを支える事業を展開しています。ここからは、投資マネーが集まる具体的なテーマごとに、各社の強みと立ち位置を見ていきましょう。

テーマ① AI・電力需要の勝者となるか(三菱重工)

現在、株式市場で最大のテーマとなっているのが「AI(人工知能)」です。そして、AIの進化と普及に欠かせないのが膨大なデータを処理する「データセンター」であり、それを稼働させるための「電力」です。

世界中でデータセンターの建設ラッシュが続く中、深刻な電力不足が懸念されています。この省電力・電力供給という課題において、鍵を握るプレイヤーとして浮上しているのが三菱重工です。

AIを支える電力を迅速かつ大量に供給するためには、建設に時間のかかる原子力発電よりも、大型の火力発電が現実的な選択肢となります。三菱重工は、この大型ガスタービン市場において、世界シェアの56%を握る圧倒的な王者です。

泉田氏は、この市場がすでに少数の企業によって支配されている構造を次のように解説します。

「インフラ系のプレイヤーってありがちなんだけどもはや競合企業ってあんまり多くなくて、重工とGEとSiemens、これでほぼ語れちゃうんで」

三菱重工の強みは、その卓越した技術力にあります。同社が提供する最新の「JAC形GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)」は、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた方式で、発電効率64%という世界最高水準を誇ります。効率よく大量の電気を作れるため、世界中から注文が殺到しているのです。

三菱重工 GTCC受注高の推移

三菱重工 GTCC受注高の推移
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三菱重工 GTCC受注高の推移

実際に、FY2025(2026年3月期)の実績として、三菱重工のGTCC受注額は2兆6,526億円に達し、過去最高を記録しました。データセンターを建設する事業者にとって、電力が確保できなければ計画は頓挫してしまいます。

泉田氏は「電気ないとデータセンター動きませんから」と語り、データセンターと電力設備は両方同時に整えなければならないと指摘します。その需要に迅速に応えられるのが三菱重工であり、だからこそ大きな注目が集まっているというわけです。

ただし、リスクや脅威がないわけではありません。次世代の電力供給源として注目を集める「SMR(小型モジュール炉)」を開発する米国の新興企業(NuScale、TerraPower、Okloなど)が台頭してきており、長期的にはこれらが新たなライバルとなる可能性があります。

テーマ② 次世代ロボット「フィジカルAI」の最前線(川崎重工)

AIの投資テーマは、ソフトウェアの世界から物理的な世界へと移行しつつあります。AIの頭脳を使って、現実世界の機械やロボットを動かす「フィジカルAI」の領域です。ここで熱い視線を集めているのが川崎重工です。

川崎重工は2026年5月、AI半導体の世界トップ企業であるNVIDIA(エヌビディア)との関係を、単なる顧客から「共同開発パートナー」へと格上げし、アメリカのサンノゼに開発拠点を設立しました。NVIDIAのCEOが直接祝福のメッセージを寄せるほど、両社の関係は深まっています。

なぜNVIDIAは川崎重工をパートナーに選んだのでしょうか。それは、川崎重工が産業用ロボットの大手であり、すでに確固たる実績を持っているからです。例えば、半導体工場で部品を運ぶ搬送用ロボットにおいて、川崎重工は世界シェア1位を誇ります。

「本当にフィジカルAIよく言ったもので、ロボットが作れる川重と、AIが提供できるNVIDIAのコラボということになってます」

川崎重工は産業用ロボットだけでなく、人型ロボット「Kaleido(カレイド)」や、人が乗れる4脚モビリティ「Corleo(コルレオ)」など、多様な次世代ロボットを開発しています。

さらに医療分野でも、手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を展開しています。世界的な手術ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」が市場を席巻する中、hinotoriは国産であること、そして価格がda Vinciの半額程度(1〜2億円)に抑えられていることを武器に、シェア拡大を狙っています。

ただし、ロボット市場の競争は熾烈です。ABB、ファナック、安川電機、KUKAといった強力な既存プレイヤーに加え、人型ロボットの分野では中国などの新興企業も猛追しており、技術革新のスピード競争が続いています。

テーマ③ 国防・次世代戦闘機は「チームジャパン」で挑む

重工3社を語る上で外せないのが、やはり「国防・防衛」のテーマです。その中心にあるのが「GCAP(Global Combat Air Programme)」と呼ばれるビッグプロジェクトです。

GCAPとは、日本、イギリス、イタリアの3カ国が共同で進めている第6世代の次世代ステルス戦闘機の開発プログラムです。日本では、現在運用しているF2戦闘機が2035年頃から退役を始めるため、その後継機として開発が進められています。

投資家から「次期戦闘機の開発は重工3社のうち、どこが受注を勝ち取るのか?」という疑問が投げかけられると、泉田氏は次のように解説します。

「重工3社というと競合しそうじゃんではなくて、今回はチームジャパンっていうキーワードも出てくるんだけど、3社が奪い合いではなくてそれぞれ得意分野を持ち寄った補完」

GCAP(次世代戦闘機)における企業の役割分担

GCAP(次世代戦闘機)における企業の役割分担
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GCAP(次世代戦闘機)における企業の役割分担

このプロジェクトは、1社が独占するものではありません。三菱重工は機体の製造と全体のシステム統合を担い、IHIは得意のエンジン技術を提供します。また、三菱電機がレーダーや通信などのアビオニクス(航空電子機器)を担当し、川崎重工やSUBARUもプロジェクトに参加します。

海外からも、イギリスのBAE SystemsやRolls-Royce、イタリアのLeonardoなどが参加する国際的な巨大プロジェクトです。株式投資の視点で考えれば、特定の1社を選ぶというよりは、プロジェクトの進展に伴って関連企業全体が潤う「バスケット買い」的な発想が求められるテーマと言えます。

テーマ④ 脱炭素(GX)と国策マネーの追い風

4つ目のテーマは、地球温暖化対策としての「脱炭素(GX:グリーントランスフォーメーション)」です。面白いことに、このテーマにおいて重工3社は、同じ方向を向きながらも「3者3様」のアプローチをとっています。

  1. 三菱重工(現実的な移行とCO2回収): 既存の高効率ガスタービンを活かし、燃料を水素やアンモニアに置き換えていく混焼技術を推進。また、排出されたCO2を回収・再利用する「CCUS」技術にも注力しています。
  2. 川崎重工(水素への全振り): 燃やしても水しか出ない「究極のエコ」である水素に特化。海外の安い水素を日本へ大量輸送するため、世界初の液化水素運搬船を開発するなど、水素インフラの構築を主導しています。
  3. IHI(アンモニアへの注力): 水素よりも輸送や貯蔵が比較的容易なアンモニアに注目。既存の石炭火力の燃料をアンモニアに置き換える技術で世界をリードしています。

しかし、水素やアンモニアといった次世代エネルギーには、既存の化石燃料(石油など)に比べて価格が高いという大きな課題があります。コストが高ければ、誰も使ってくれません。

ここで強力な追い風となるのが「国策マネー」です。政府は、次世代エネルギーと化石燃料の価格差(値差)を15年間にわたって支援する制度を設けています。さらに、「GX経済移行債」として約20兆円の予算が用意されています。

「これ国が国策としてやるって決めてるので、このプロジェクトに参画してどうやってうまく商売につなげていくのかっていうのが今後の注目ポイントですね」

国がリスクを補填してでも推進する巨大な国策プロジェクトに対し、重工3社がそれぞれの得意技術でどう利益を生み出していくかが問われています。

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イズミダイズム
泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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