この記事はここがポイント
- 65歳以上の無職夫婦世帯は公的年金収入に対し毎月約4万2434円の赤字を抱える実態。
- 年金受給は10年加入が必須で、50歳からの「ねんきん定期便」で未納期間の確認が重要。
- 年金額増額には「追納制度」「任意加入制度」、自営業者は「国民年金基金」活用等が有効。
年の半分が過ぎる7月。夏のボーナスをきっかけに、将来に向けた資産形成を改めて考える方も多いのではないでしょうか。
住宅資金や教育資金のほかに、世代によっては「老後資金」をいかにして準備するかが大きな課題となります。
2026年7月15日公表の厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」によると、高齢者世帯の1年間の平均所得は336万1000円にとどまっています。
さらに、公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のうち「公的年金・恩給が総所得のすべて(100%)」という世帯が41.3%にのぼります。
多くのシニアが公的年金のみを頼りに生活している実態が浮き彫りになっています。
セカンドライフを経済的に支える柱となるのが公的年金ですが、このように年金への依存度が高い一方で、物価高などの影響により生活費の不足を感じる方が多いのが現実です。
毎年送られてくる「ねんきん定期便」は、50歳になると内容が変わり、現在の加入状況が60歳まで続くと仮定した場合の「老齢年金の見込額」が記載されるようになります。
しかし、働き方が多様化している現代において、年金額を増やすことだけを考えて自分らしい生き方を制限するのは本末転倒です。
何より大切なのは、ご自身の現状を正しく理解することです。今回は、シニア世代における「低年金」や毎月の家計の「赤字」の実態に触れながら、多様なキャリアに合わせた年金の不足分を補う方法について考えていきます。
フリーランスとして働いていた期間が長かった筆者は、初めて具体的な年金見込額を見たときは焦りを感じた経験があります。
シニアの年金、現実は厳しい?国民年金の受給額「月5万円未満」が約2割という実態
はじめに、現在のシニア世代が実際に受け取っている年金額はどのくらいなのか、具体的なデータを見ていきましょう。
厚生労働省が公表している「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平均的な受給額と分布は次のようになっています。
【厚生年金】平均受給額と男女差はどのくらい?
【男女別グラフ】厚生年金保険(第1号)の受給額分布
- 全体平均月額:約15万289円
- 男性平均月額:約16万9967円
- 女性平均月額:約11万1413円
厚生年金は現役時代の収入や加入期間によって受給額が変わるため、個人差が生まれやすいのが特徴です。男女間の平均額には約6万円もの開きがあることがデータから読み取れます。
【国民年金】平均受給額と「5万円未満の人の割合」はどれくらい?
【男女別グラフ】国民年金の受給額分布
- 全体平均月額:約5万9310円
- 男性平均月額:約6万1595円
- 女性平均月額:約5万7582円
国民年金は満額が設定されているため、厚生年金ほど大きな男女差は見られません。
しかし、保険料の未納や免除期間があった場合、受給額は満額(2026年度で月額7万608円)よりも少なくなるのが現状です。
すべての公的年金の基礎となる「国民年金」の受給額分布を詳しく見ると、注意すべき点が見えてきます。
最も多い層は「6万円以上7万円未満」ですが、一方で月額5万円未満しか受け取っていない人が約20.6%(約689万人)もいるという事実があります。
2026年度の国民年金満額は月額7万608円ですが、この金額を全額受給できていない人が想定以上に多いといえるでしょう。
なぜ年金が少なくなる?「もらえない」事態に陥る2つの落とし穴
平均よりも受給額が著しく低い、あるいは年金が1円も支給されないといったケースには、いくつかの典型的な原因があります。
年金受給の最低条件「10年」の加入期間とは
公的年金を受給するための基本条件は、保険料を納付した期間と免除等を受けた期間を合計して10年以上あることです。これを「受給資格期間」といいます。
この10年という条件を満たせない場合、年金は支給されません。
ただし、海外居住期間や任意加入しなかった期間などを「合算対象期間(カラ期間)」として算入できる救済措置もあります。期間が不足していると思っても、諦めずに年金事務所へ相談してみることが重要です。
ライフステージの変化で発生しやすい「年金手続きの漏れ」
もう一つ注意したいのが、ライフスタイルの変化に伴う手続きの漏れです。
例えば、会社員の配偶者の扶養に入っていた人が、配偶者の退職、自身の収入増加による扶養からの離脱、あるいは離婚といった状況になった場合、自身で国民年金の「第1号被保険者」への種別変更手続きを行い、保険料を納付する義務が発生します。
この手続きを忘れてしまうと、その期間は「未納」として扱われます。将来の年金が減るだけでなく、最悪の場合は無年金につながる可能性もあります。
もし過去に手続き漏れ(第3号不整合記録)があったことに気づいた場合、「時効消滅不整合期間にかかる特定期間該当届」を提出することで、未納期間を「カラ期間」として受給資格期間に含められる場合があります。
50歳になったら「ねんきん定期便」で確認すべき2つの重要ポイント
記事の冒頭で触れたように、50歳以上の方に届くねんきん定期便には、「60歳まで現在の加入条件を継続した場合」の老齢年金見込額が記載されています。ご自身の状況を正確に知るために、次の2点は必ず確認しましょう。
将来の受給額はいくら?「老齢年金の見込額」をチェック
50歳以上の人に届くねんきん定期便(サンプル)
50歳以上の方に送付される通知には、将来受給できる「老齢基礎年金(1階部分)」と「老齢厚生年金(2階部分)」を合計した具体的な見込額が記載されています。
まずは記載されている金額が、ご自身の想定と比べてどうかを確認し、現状を把握することから始めましょう。
もし年金見込額が想定より少なかった場合、過去の保険料に「未納」や、手続き漏れによる「未加入期間」が存在する可能性があります。
ねんきん定期便に記載されている「最近の月別状況」や納付履歴を確認し、「未納」や「*(アスタリスク=未加入)」といった表示がないかチェックしてみてください。
このような未納期間を早期に発見できれば、後述するような方法で年金額を増やし、満額に近づけることが可能です。
年金額を増やすには?満額に近づけるための3つの方法
過去に未納期間があったり、フリーランスとして働いていた期間が長かったりして「年金が少ないかもしれない」と不安な方でも、これから紹介する制度を利用すれば、将来の受給額を増やすことができます。
1. 過去の未納分を後から納付できる「追納制度」
学生納付特例制度を利用したり、保険料の免除・猶予を受けたりした期間がある方は、10年以内であればさかのぼって保険料を納付できる「追納」ができます。
追納した保険料は、将来受け取る老齢基礎年金の額に反映されます。
2. 60歳以降も加入して年金を増やす「任意加入制度」
60歳になった時点で受給資格期間の10年を満たしていない場合や、満額の納付期間である40年(480カ月)に達していない場合は、「任意加入制度」を利用できます。
この制度は、60歳から65歳までの間に国民年金保険料を納めることで、不足している期間を補い、年金額を増やすものです。
3. 自営業者・フリーランス向けの上乗せ制度「付加年金」「国民年金基金」
自営業者やフリーランスの方は、毎月の国民年金保険料に月額400円を追加で納めることで、将来の年金額を増やせる「付加年金」を手軽に始められます。
さらに手厚い備えを希望するなら、税制上のメリットを受けつつ年金を上乗せできる「国民年金基金」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」の活用も有効な選択肢です。
【老後の家計と貯蓄の実態】年金だけでは毎月約4万円の赤字に?
年金見込額を確認したら、実際のシニア世帯の家計収支と照らし合わせてみましょう。
総務省が公表した「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」から、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の標準的な家計収支を見てみます。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯《ひと月の家計収支》
- 実収入:月額25万4395円(うち、公的年金などの社会保障給付が22万8614円)
- 実支出:月額29万6829円(食費などの消費支出が26万3979円、税金などの非消費支出が3万2850円)
収入の多くを公的年金が占めていますが、生活費や税金などの支出が上回り、毎月約4万2434円の赤字となっています。
不足分は手元の貯蓄を取り崩して補う必要があり、年間に換算するとおよそ50万円の取り崩しが必要になる計算です。
さらに、J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によると、70歳代の二人以上世帯の貯蓄額は、平均で2416万円ですが、より実態に近い中央値は1178万円となっています。
資産がほとんどない世帯と3000万円以上を保有する世帯に分かれており、世帯間の差が大きくなっていることがわかります。
こうしたデータからも、年齢を重ねるだけで自然と老後資金が貯まるわけではなく、同じシニア世代でも経済状況に大きな個人差が生じていることがうかがえます。
まとめ:働き方が多様化する時代に合わせた、自分だけの老後資金計画を
終身雇用が一般的ではなくなった現代では、フリーランスや業務委託、パラレルキャリアといった多様な働き方が広がっています。
現役時代のキャリアが多様化するにつれて、将来の年金受給額に個人差が生じるのは自然なことです。
でも、「年金が少なくなるかもしれない」という不安から、ご自身のキャリアを会社員という選択肢に限定してしまうのは、もったいないかもしれません。
公的年金は老後資金の土台であると同時に、病気やケガで働けなくなった際の「障害年金」や、一家の働き手を失ったときの「遺族年金」など、セーフティーネットとしての重要な役割も担っています。
過去の未納期間は「追納」で補い、厚生年金に加入していないフリーランスの方は「国民年金基金」や「iDeCo」、新NISAなどを活用して、ご自身に合った上乗せ部分を準備してみてはいかがでしょうか。
多様な働き方が選択できる今だからこそ、まずは公的年金の仕組みを正しく理解することが大切です。その上で、自分らしいキャリアプランと老後の安心を両立できる、独自の備えを築いていきましょう。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「令和8年分からの年金額等について」
- 日本年金機構「大切なお知らせ、「ねんきん定期便」をお届けしています」
- 日本年金機構「ねんきん定期便」の様式(サンプル)と見方ガイド(令和8年度送付分)
- 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」
- 日本年金機構「任意加入制度」
- 日本年金機構「付加保険料の納付」
- 国民年金基金連合会「国民年金基金制度とは?」
- 厚生労働省「時効消滅不整合期間にかかる特定期間該当届」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
早大卒。証券外務員二種・相続診断士。15年の書籍校閲で培ったファクトチェック力を武器に、一次資料に基づく「お金と暮らし」の分析記事を担当する編集記者。認知症介護経験をいかし、読者目線に立った情報発信も。
