この記事はここがポイント
- 第1四半期は大幅な増収増益でしたが、売上高・営業利益の通期予想は据え置かれました。期待した数字が出なかったとして売る投資家がいたと泉田氏は説明します
- 会社側は過去の経験から「極めて保守的」な業績予想を出しており、実力と予想にギャップが生じています
- 決算発表の直後は出た数字だけで動く投資家もいます。その後に取材して会社の予想が保守的だったと分かれば買い直す投資家もいる、と泉田氏は話します
ベアリングやモーターなどの精密部品から、半導体やセンサーまで幅広く手掛けるミネベアミツミ。近年はAIやデータセンター関連銘柄としても株式市場の注目を集めています。
直近の第1四半期決算は、売上・利益ともに大幅な増収増益でした。ところが、決算の発表後に株価が大きく下がったという質問が、視聴者から数多く寄せられた銘柄でもあります。
一体なぜ、これほど業績が好調なのに株価は素直に上昇しないのでしょうか。この疑問に、元機関投資家の泉田良輔氏が、ミネベアミツミの株価の動きと会社からのメッセージをもとに答えます。
「好決算」にもかかわらず株価が下落した理由
ミネベアミツミが2026年8月5日に発表した2027年3月期の第1四半期決算。発表後に株価が大きく下がったことから、業績が悪かったのかと疑問を持つ人が少なくありませんでした。
実は、決算の数字そのものを見ると話が違います。第1四半期の実績は、売上高が4,266億円(前年同期比+16.3%)、本業の儲けを示す営業利益が263億円(同+50.9%)、最終利益が213億円(同+95.6%)でした。大幅な増収増益です。
第1四半期の実績(売上高・営業利益)
では、なぜ株式市場は売りで反応したのでしょうか。その要因は、同時に発表された「通期予想」にあります。
会社側は、通期の売上高予想を1兆6,900億円、営業利益予想を1,200億円(前期比+15.4%)に据え置きました。最終利益については830億円から870億円へ上方修正したものの、前期比では12.2%の減益という見通しです。
※決算資料によれば、最終利益が前期比で減益となっているのは、前期の実績(990億円)に金融資産の公正価値評価による特殊要因が約252億円含まれていたためです。これを除いた実質的なベースで比較すると、今期の870億円という予想は約17.8%の増益となります。
27/3期 業績予想(決算説明会資料)
2015年12月に旧ミネベアと旧ミツミ電機が経営統合の基本合意を発表した際、掲げていた目標は「売上高1兆円、営業利益1,000億円強」でした。今期の通期予想は売上高1兆6,900億円、営業利益1,200億円で、この水準を上回っています。それでも株価が下がった背景について、泉田氏は、投資家がもっと保守的でない数字を期待していたのかもしれないと話しています。
「保守的な業績予想」の裏にある経営陣のメッセージ
なぜ会社側は、第1四半期が好調であるにもかかわらず強気の予想を出さないのでしょうか。泉田氏は、決算書には出てこない内容が決算説明会のQ&Aには出てくるため、そこを読み解くことが重要だと話します。
アナリスト向けに開催された決算説明会の質疑応答(Q&A)では、「他セグメント、特にPT(プレシジョンテクノロジーズ)セグメントが好調であることを踏まえると、通期業績予想を上方修正してもよかったのではないでしょうか」というストレートな質問が出ました。
これに対し、会社側は次のように回答しています。
「過去に期初の上方修正後に計画を達成できず、市場から厳しい評価を受けた経験があります」
先行きが不透明なマクロ環境を踏まえ、今回は極めて保守的な考え方から期初予想を据え置いたという明確なメッセージです。業績予想はあくまで現時点での「見通し」であり、確約ではありません。しかし、一度出した数字に対して市場は厳格な達成を求めてしまう傾向があります。
こうした会社側のスタンスについて、泉田氏は機関投資家としての経験から次のように語ります。
「『株価測りにくいな』って。リスクを取って説明してくれる方がこっちからするとやりやすい」
投資家からすれば、会社が考える本来の実力をそのまま提示してくれた方が企業価値を測りやすくなります。しかし、「保守的」な数字が出される以上、投資家は自らその裏にある実力を推し量らなければならない状況に置かれています。
決算説明会 質疑応答要旨(1ページ目)
業績の上振れ余地はどこにあるのか
では、会社が提示していない「上振れ余地」はどこに隠れているのでしょうか。注目すべきは、AIサーバー関連や水冷システム関連の進捗です。
ミネベアミツミは、AIサーバー向けにボールベアリングやスピンドルモーター、ファンモーターなど多様な部品を供給しています。決算説明会のQ&Aでは、水冷システム関連の引き合いについて問われ、会社側は次のように答えています。
「水冷市場の立ち上がりは空冷に比べて時間差があることから、現時点では通期業績予想にはあまり織り込んでいません」
一方で、プレシジョンテクノロジーズ(ベアリングなどの機械部品)セグメントや空冷ファンについては、期初計画を大きく上回る水準で推移していると述べています。つまり、実業は想定以上に好調であるものの、それが通期予想の数字に十分反映されていない可能性が考えられます。
市場はこうした状況をどう見ているのでしょうか。アナリスト予想の平均値である「コンセンサス」を確認すると、会社側の営業利益予想1,200億円に対し、コンセンサスは約1,234億円となっています(金融情報サービスIFISの画面、2026年9月24日時点)。また、同じ画面で確認できる税引前利益(法人税を引く前の利益)ベースのコンセンサスは、4週間前の約1,200億円から約1,215億円へ順々に切り上がっています。
市場参加者は、会社の「保守的」というメッセージを汲み取り、独自のモノサシで業績を測り直していると考えられます。
決算直後に株価が乱高下するメカニズム
このように、実業が好調でコンセンサスも会社予想を上回っているにもかかわらず、なぜ決算発表直後に株価は大きく下落したのでしょうか。泉田氏は、株式市場における情報消化のタイムラグについて次のように解説します。
「やっぱり事実出たものしか見ないっていう人もいるので、投資家。その後の読み解きは一旦後。一旦思った数字が出なかったから売りますと。で、その後取材して『保守的だったんだったな』って言うんだったらもう1回買えばいいんだよ」
つまり、決算発表の直後は通期予想の据え置きや最終利益の減益予想といった出た数字に反応して売る投資家がいる一方で、その後に取材して会社が極めて保守的に数字を置いていたと分かれば買い直す投資家もいる、という見方です。数字が出た直後の売りと、読み解いたあとの買いの間にタイムラグが生まれると考えられます。
その読み解きの材料となる決算説明会について、泉田氏は次のように語ります。
「決算説明会って楽しいのよ。決算説明会で一番面白いのはこのQ&Aです。ここが山場」
ミネベアミツミ(TSE:6479)2026年3月初旬〜9月中旬
ミネベアミツミは、ベアリングから半導体、自動車部品、さらには航空宇宙(今期売上予想825億円、全社の約5%)まで幅広い事業を手掛けています。事業領域が広い分、外部からは業績の牽引役が見えにくく、評価が分かれやすい側面があります。
「分析難しい株ほどやっぱり面白いんだよね」
泉田氏がそう述べる通り、期待が入り混じり、評価が定まりにくい銘柄だからこそ、株価の変動(ボラティリティ)が大きくなる構造があると考えられます。
まとめ:投資家が注目すべきポイント
ミネベアミツミの株価動向を考える上で、観測点は、営業利益で会社予想1,200億円とコンセンサス約1,234億円の差が、今後どう動くかです。水冷システムは通期予想にまだ織り込まれていないため、事業化の見通しが明確になった段階で業績予想に反映されるかどうかが、そのギャップの行方を左右すると考えられます。
泉田氏は、こうしたボラティリティの大きい銘柄に対する一つの考え方として、次のような視点を提示しています。
「この会社、長期でもビジネスチャンスがあるんだって思えば、そのガンって下がったところで買う」
さらに、過去の株価下落時のバリュエーション(企業価値評価の指標)を参考にすることで、「このバリュエーションだったらここは過去のボトムに該当するから買っても『下値が限定されてんだな』っていうふうに下値を買い集めるというやり方はアリかなと」とも述べています。ただし、これは泉田氏自身が「アホなこと言っていい?」「未来は知らんけど」と前置きした見立てで、過去の株価チャートを振り返った結果論にとどまります。売買を勧めるものではありません。本記事は投資を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。
なお、投資判断においては限界点やリスクも認識しておく必要があります。
同社の成長を牽引するAIサーバー向け部品などは、ハイパースケーラー(巨大IT企業)の設備投資動向に大きく左右されます。また、自動車や機械向けの部品も多いため、マクロ経済の景気サイクルの影響を受けやすいと考えられます。
決算の数字という「成績表」だけで一喜一憂するのではなく、その裏にある経営陣の意図や事業の現在地を丁寧に読み解くことが、こうした銘柄と向き合うための第一歩となるでしょう。
参考資料
- ミネベアミツミ株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算短信」(2026年8月5日)
- ミネベアミツミ株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明会資料」(2026年8月5日)
- ミネベアミツミ株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明会 質疑応答要旨」(2026年8月5日開催分)
- ミネベアミツミ株式会社「2027年3月期 第1四半期 財務補足資料」(2026年8月14日)
- ミネベアミツミ株式会社「ミネベアとミツミ電機の経営統合に向けた基本合意の締結について」(2015年12月21日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
各資料の入手先: ミネベアミツミ株式会社 IRライブラリ
※リンクは記事作成時点のものです。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
