この記事はここがポイント
- 13Fの公開情報には最大135日のタイムラグがあり、公表時点で株価は動いている
- 進行中の大規模な買い集めは「機密扱い」として最長1年隠すことができる
- 米国株以外(日本の5大商社など)や完全子会社はレポートの対象外である
- バークシャーは長期保有を掲げる一方で、大胆な銘柄の入れ替えも行っている
- 13Fは銘柄をコピーするためではなく、「なぜ買ったのか」を考えるための材料である
「投資の神様」ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイ。同社が何を買ったのかは、世界中の投資家が注目する一大イベントです。米国には「13F」と呼ばれる、機関投資家の保有銘柄を公開する制度があり、これを見ればプロのポートフォリオを丸裸にできると広く信じられています。しかし、この公開情報をもとに同じ銘柄を買っても、バフェットと同じようなリターンを得ることは極めて困難です。一体なぜ、答えが公開されているのにプロの投資を真似できないのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が13Fという制度の構造と市場のメカニズムを読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。
魔法のレポート「13F」への期待と現実
米国証券取引委員会(SEC)に提出される「フォーム13F」は、一定規模以上の機関投資家に対して、四半期ごとに保有する米国上場株式の報告を義務付ける制度です。これを見れば、著名なファンドがどの銘柄を買い増し、どの銘柄を売却したのかが分かります。
投資初心者であれば、「バークシャー・ハサウェイが買っている銘柄をそのまま真似して買えば、必勝パターンではないか」と考えるかもしれません。インタビュアーがこのような期待を投げかけると、泉田氏は初心者が陥りがちな発想だと指摘します。
「そもそもそれ『提灯』って言うんだよ」
提灯とは、有力な投資家の売買に相乗りして利益を得ようとする行動を指す金融用語です。泉田氏は、13Fが米国の規制当局に提出される公式の届出資料であり、機関投資家の動向を知る上で便利なツールであることは認めています。しかし、それを見ただけで勝てるほど市場は甘くありません。この情報に頼る投資には、構造的な「落とし穴」が存在すると警鐘を鳴らします。
落とし穴①:最大135日の「タイムラグ」
最大の落とし穴は、公開される情報から「時間の概念」が抜け落ちていることです。
13Fは、四半期の末日から45日経過した時点で公表されるルールになっています。四半期そのものが約90日あるため、もしファンドが四半期の初日に株式を買っていた場合、公表されたときにはすでに135日前の取引を見ていることになります(四半期の約90日+公表までの45日)。
最大135日のタイムラグ
実例として、バークシャーによるアルファベット(Google)株の取得が挙げられます。バークシャーがアルファベットの株式を取得したという事実は、2025年9月末基準の報告が同年11月14日に公表されたことで大きな話題を呼びました。しかし、泉田氏は次のように指摘します。
「その発表された時に買っても、その値段では買えないし、上がっちゃってますよ」
実際に、アルファベットの株価は公表日である11月14日の時点で、第3四半期(7〜9月)中のどの日の高値よりも高い水準で推移していました。逆に、公表された時点ですでに株価がピークから下がっているケースもあります。過去の取引記録を見て今から買っても、プロと同じ土俵には立てないのです。
落とし穴②:一番知りたい情報が隠される「機密扱い」
さらに、13Fには「機密扱いの申請」という仕組みが用意されています。
進行中の大規模な株式の買い集めや売却の途中で情報を公開してしまうと、他人に先回り(フロントランニング)されて株価が動き、自社の投資戦略に悪影響を及ぼす恐れがあります。これを防ぐため、原則3ヶ月から最長1年、公表を遅らせることが例外的に認められているのです。
インタビュアーが「一番知りたい進行中の情報が隠せる仕組みがあるのですね」と驚くと、泉田氏はこう明かします。
「実はこのバークシャーも、つまりバフェットもこの制度をよく利用してたんですよ」
つまり、タイムリーに公開される情報は、すでに仕込みが終わっているなど、知られても影響が少ないものに過ぎないと考えられます。そして、公開された情報は世界中のバフェット・ウォッチャーが注視しているため、発表された瞬間に市場価格へと織り込まれてしまいます。情報が出たのを見てから動くのでは、すでに手遅れなのです。
落とし穴③:レポートに載らない「死角」
13Fを「ファンドの全貌が丸裸にできる魔法のレポート」と考えるのも早計です。このレポートには、載らない資産が数多く存在します。
まず、空売り(ショートポジション)や現金、債券は報告の対象に含まれません。さらに、米国外のポジションも対象外となります。インタビュアーが「バークシャーが日本の5大商社を買ったというニュースは13Fには出ないのですか」と尋ねると、泉田氏は米国の株式ではないため出てこないと説明します。
また、バークシャーが株式の100%を取得して完全子会社化した企業群も、13Fには載りません。上場株式の増減を知る意味はありますが、13Fで見えているのは、巨大なポートフォリオのほんの一部にすぎないという前提を持っておく必要があります。
13Fで見えるのは一部だけ
バークシャーのポートフォリオから読み解く「変化」
13Fの限界を理解した上で、実際のデータからバークシャーの動向を見ていくと、興味深い事実が浮かび上がります。
バフェットといえば「一度買ったら売らない」という長期保有のイメージが強いかもしれません。実際に、コカ・コーラやアメリカン・エキスプレス(Amex)は、2013年6月末から2026年6月末までの13年間(53四半期)、株数が1株も変わっていません。この間、評価額はコカ・コーラが約2.0倍、Amexが約4.5倍に膨らんでいます。
しかし、実態はそれだけではありません。長く保有されてきた米大手商業銀行のウェルズ・ファーゴは、その後すべて売却されています。バンク・オブ・アメリカも、2017年9月末の初登場から約9年間で評価額は約1.6倍になっているものの、株数自体は減らしています。
動かさなかった銘柄と入れ替えた銘柄
直近の大きな変化として、一時ポートフォリオの半分を占めていたAppleの比率が低下し、代わりにアルファベットが急浮上しています。アルファベットは2025年9月末からのわずか4四半期で株数が約5.9倍、評価額は約8.7倍に急増しました。
また、後継者であるアベル新CEO体制への移行に伴う入れ替えも進んでいると考えられます。ただし泉田氏は、持ちすぎた銘柄を整理しただけなのか、事業の中身を見て売ったのかは、現時点では判別できないとも述べています。2026年1〜3月期の報告では、保有する企業の数(同じ会社の複数銘柄はまとめて1社と数えます)が39社から26社へと減少しました。VisaやMastercard、ユナイテッドヘルス、ドミノ・ピザ、Aon、プール・コープ、Amazonなど15社がリストから消え、新たにメイシーズとデルタ航空の2社が加わり、差し引き13社減となったのです(直近の2026年4〜6月期は26社で横ばい)。
特にデルタ航空の再取得は市場を驚かせました。泉田氏は、バフェットが過去に航空株を避ける姿勢を示していたにもかかわらず買いに転じ、2020年のコロナ禍では「間違えました」と述べて全売却したと紹介します。バークシャーはその銘柄を2026年1〜3月期に再取得し、4〜6月期にはさらに44%買い増ししています。泉田氏は、著名投資家の言葉をそのまま信じ込まないよう促します。
「投資家ってよく手のひら返しますから。数年単位はそうかもしれないけど、永遠ではない。そこは要注意です」
13Fの本当の使い方:コピーではなく「理由」を考える
では、13Fの情報をどう投資に活かせばよいのでしょうか。
泉田氏は、単純に相乗りしてコピーするのではなく、その背景にある意図を考えるべきだと語ります。
「なぜアルファベットを買ったんだろうとか、なんでこの銘柄売ったんだろうって考える方が意味があると思いますよ」
例えば、バークシャーのトップがアルファベットの経営陣に面会を求めれば、即座に実現し、IR(投資家向けの情報開示)として真摯な回答が得られるでしょう。彼らが持つ情報量は、一般の投資家とは比較になりません。
「僕ら以上の情報だよね、間違いなく。(中略)必ず選択肢として入ってきてる銘柄がアルファベットっていう話なんだから、僕らとしても何かいいことあったのかなって思うきっかけにはなる」
13Fは、巨大資本が何を考え、どの方向へ向かおうとしているのかを推測するための「ベースの資料」として扱うべきなのです。
投資家が注目すべきポイント
13Fは機関投資家の動向を知る貴重な公式情報ですが、それ自体が利益を約束するものではありません。
最大135日のタイムラグや機密扱いの制度により、公開された時点で「おいしい時期」は過ぎていることが多く、安易に真似をすれば高値掴みのリスクを伴います。また、日本株などの米国外資産や未上場企業が含まれないため、ファンドの全体像を見誤る危険性もあります。
数字の羅列をそのまま真似るのではなく、その背景にある「投資のプロの思考プロセス」を読み解き、自身の投資判断の材料として活用することが求められます。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や投資手法の推奨を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
参考資料
- 米国証券取引委員会(SEC)「Form 13F」関連資料
- 米国証券取引委員会(SEC)「Frequently Asked Questions About Form 13F」(機密扱いの申請期間について)
- Berkshire Hathaway Inc. 「Form 13F-HR」
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
