キオクシアホールディングスとルネサスエレクトロニクス、自己資本比率で上回るのはどちらか。急騰から半減へ振れた株価と財務体質のギャップ
Wirestock Creators/shutterstock.com
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
18:30
キオクシアホールディングスとルネサスエレクトロニクス、自己資本比率で上回るのはどちらか。急騰から半減へ振れた株価と財務体質のギャップ
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この記事はここがポイント

  • 両社の自己資本比率は、電気機器業種中央値を下回る水準。
  • ルネサスは自己資本の約9割をのれんが占め、キオクシアは利益蓄積で自己資本を回復。
  • キオクシア株価は急騰後に半減、営業利益は1兆円超えで収益改善。

株価が8か月で8倍になり、そこから半分に沈む。そんな値動きを前にすると、つい相場の話だけで完結させたくなる。だがこういう局面でこそ見ておきたいのは、会社の足元にある財務体質のほうだ。キオクシアホールディングス<285A>の株価と決算をたどりながら、同じ電気機器に属するルネサスエレクトロニクスと並べて考えてみたい。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

8か月で8倍、そこから半減した株価の軌跡

出所:各種資料をもとに筆者作成

出発点は2025年10月末に置く。このときの終値は1万円台だった。

翌11月末には9,000円台まで下げている。昨秋以降の月末終値では、ここが最も低い水準になる。12月末も1万円台にとどまり、この時点では相場の主役という風情ではない。

流れが変わったのは2026年に入ってからだ。1月末には2万1,000円台へ、ほぼ倍の水準に切り上がった。2月末と3月末は2万円前後で足踏みしている。

そこから先の動きが急だった。4月末は3万7,000円台、5月末は6万5,000円台、そして6月末は8万9,000円台。3か月で2倍以上に伸びた計算になる。

昨秋以降の月末終値では、2026年6月末が最も高い水準である。起点の1万円台から見れば8倍を超える。半年強でこれだけ動く大型株は、そう多くない。

ところが7月末には4万6,000円台まで、ほぼ半値に沈んだ。8月末は4万9,000円台と小幅に戻し、2026年9月時点では5万8,000円台にある。

この振れ幅をどう受け止めるか。メモリは市況品であり、販売単価の変動がそのまま損益に跳ね返る。上昇局面では業績の伸びが際限なく続くように見え、反転の気配が出た瞬間に評価が巻き戻される。

そうした期待の伸縮が、株価に増幅されて表れた可能性が高い。もっとも、半減の理由を単一の材料で言い当てることはできない。相場全体の地合いや需給も絡んでいるとみられる。

ここではまず、値動きの大きさそのものを事実として押さえておきたい。そのうえで、この会社の中身がどう変わったのかを見ていく。

1Qの営業利益1兆2,700億円が示す収益局面の転換

2027年3月期1Qは、数字の桁が変わった。売上収益は1兆7,671億円、営業利益は1兆2,700億円である。親会社の所有者に帰属する四半期利益は8,422億円だった。

前年同期にあたる2026年3月期1Qは、売上収益3,428億円、営業利益449億円、四半期利益183億円である。売上収益で5倍を超え、営業利益は桁が二つ動いたことになる。

通期と比べても異例の水準だ。2026年3月期通期の売上収益は2兆3,376億円だった。1四半期で年間の4分の3に迫る売上を積んだ計算になる。

その通期の実績も振り返っておきたい。2026年3月期は売上収益が前期比+37.0%、営業利益が+92.7%、当期利益が+110.4%の5,545億円である。営業キャッシュフローは6,165億円だった。

この増収増益の背景を、会社は短信で市場環境から説明している。旺盛なAI需要を中心とした設備投資が堅調に推移したこと。フラッシュメモリ市場では、前年度末に発生した顧客の在庫調整が正常化したこと。

スマートフォンやPC向けの需要が回復し、データセンターおよびエンタープライズ向けではAI用途によるサーバー需要が増加して、市場の拡大が継続しているという。一方で、米ドルの平均為替レートは前期比で円高に推移したとしている。

単価と数量の追い風に、為替の向かい風が重なった期だったことになる。それでも営業利益が前期のほぼ2倍に届いたのだから、市況の振れ幅の大きさが分かる。

株価の軌跡と重ねると、2026年春以降の急騰は、この単価回復が四半期ごとに数字として現れていく過程と時間的に並走していたと読み取れる。ただし、株価の上昇幅が業績の改善幅を正確になぞっていたわけではない。

ルネサスと並べて見える自己資本比率の20ポイント差

ここからは視点を変えたい。これだけの利益を出している会社の財務体質は、同じ業界の他社と比べてどのあたりにあるのか。

並べる相手として、ルネサスエレクトロニクス<6723>を取り上げる。どちらも電気機器に分類される国内の半導体メーカーで、大きな組織再編を経て現在の姿になった点でも重なる。

比較の軸は財務健全性に絞る。収益力は市況で大きく動くが、自己資本比率や有利子負債、利益剰余金はそう簡単には動かない。局面に左右されにくい分だけ、会社の素の姿が出やすい。

キオクシアの2026年3月期の自己資本比率は37.9%だった。純資産は1兆3,989億円、総資産は3兆6,901億円である。有利子負債は流動1,755億円と非流動8,721億円をあわせて1兆476億円、手元現金は4,707億円だった。

ルネサスの直近の本決算である2025年12月期は、自己資本比率58.5%である。自己資本は2兆4,430億円、総資産は4兆1,772億円。有利子負債は1兆2,066億円だった。

自己資本比率では20ポイントあまりの差がつく。総資産の規模はそこまで離れていないのに、自己資本の厚みが違う。

ただし損益の方向は逆を向いている。2025年12月期のルネサスは営業利益2,012億円を確保しながら、当期損失▲518億円で着地した。減損損失184億円も計上している。同じ期のキオクシアは営業利益8,704億円、当期利益5,545億円である。

営業キャッシュフローでも差がついた。キオクシアの6,165億円に対し、ルネサスは4,529億円である。総資産の小さいほうが、より多くの現金を稼いだことになる。

自己資本比率が高い側に、のれんが厚く積まれている

自己資本比率で上回っているのはルネサスだ。しかし、その自己資本が何で裏打ちされているのかを見ると、印象が変わってくる。

装置産業では、借入の重い会社ほど財務が脆いという見方をしがちである。実際キオクシアの有利子負債は1兆円を超える。だが貸借対照表の中身をたどると、話はそう単純ではない。

ルネサスの2025年12月期ののれんは2兆2,393億円である。自己資本2兆4,430億円の9割に相当する規模だ。これに対し有形固定資産は3,558億円にとどまる。

キオクシアはのれんが3,956億円で、自己資本1兆3,989億円の3割弱である。有形固定資産は1兆553億円あった。

のれんは買収で支払った超過額であり、収益力が想定を下回れば減損として一気に削られる。ルネサスが同じ期に減損損失を計上していることを踏まえると、この厚みは自己資本比率という一つの数字だけでは測りきれない性質を持つ。

もっとも、のれんが厚いこと自体を弱さと断じるのは乱暴だろう。買収で得た設計資産や顧客基盤が収益を生み続ける限り、その計上は妥当なものとして残り続ける。

のれんが膨らんだ経緯も数字に残っている。ルネサスの自己資本比率は2023年12月期に63.2%だった。このときののれんは1兆3,621億円、有利子負債は6,509億円である。

2024年12月期に投資キャッシュフローが▲1兆2,841億円、財務キャッシュフローが+6,773億円となり、総資産は4兆4,904億円へ膨らんだ。のれんは2兆2,562億円に増え、自己資本比率は56.5%へ低下している。借入を伴う大型投資が貸借対照表の姿を変えたと読み取れる。

キオクシア側の変化は逆向きだった。2024年3月期の自己資本比率は15.7%で、利益剰余金は▲4,631億円の欠損である。2025年3月期には25.3%まで戻り、欠損も▲1,895億円に縮んだ。

そして2026年3月期に37.9%、利益剰余金は+3,670億円のプラスに転じた。欠損の解消幅は、この期の当期利益とほぼ同じ規模である。稼いだ利益がそのまま自己資本に積み上がったと考えてよい。

2027年3月期1Q末の純資産は2兆4,045億円、総資産は4兆7,305億円だった。1四半期で純資産が1兆円規模で増え、自己資本の比率は5割近い水準まで来ている。

業種中央値に照らすと、両社とも下位に沈む

2社だけを並べると、どちらが優れているかという話に流れやすい。第三の基準を置いておきたい。

電気機器の業種中央値を見ると、自己資本比率は62.2%である。下位四分位は49.5%、上位四分位は76.2%だった。

この物差しを当てると、両社の位置がはっきりする。ルネサスの58.5%は中央値を下回り、中央値と下位四分位のあいだにある。キオクシアの37.9%は、下位四分位すら下回る水準だ。

つまり優劣の問題ではない。両社ともこの業種では自己資本の薄いグループに属している。半導体メーカーは財務が堅いという一般的な印象と、実際の並びは必ずしも一致しない。

有利子負債の重さも同じ方向を示す。業種のD/E比率の中央値は0.19である。キオクシアは有利子負債1兆476億円に対して自己資本1兆3,989億円、ルネサスは1兆2,066億円に対して2兆4,430億円だった。どちらも中央値とは水準が違う。

一方、ROEでは様相が変わる。業種中央値7.7%に対し、キオクシアの2026年3月期は51.9%だった。自己資本が薄いことは、利益が出る局面ではROEを押し上げる方向に働く。

同じ薄さが、局面次第で強みにも弱みにも読める。ここが財務健全性という軸の扱いにくいところであり、同時に面白いところでもある。

出所:キオクシアホールディングス株式会社およびルネサスエレクトロニクス株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成
自己資本比率の差は2期で半分以下に

業界内での立ち位置に照らすと、この会社の財務は数字の見え方ほど単純ではない。

自己資本比率は業種の下位四分位を下回る。だが自己資本を裏打ちしているのは、償却の進んだ有形資産とプラスに転じた利益剰余金であって、買収時に付けた評価額ではない。

比率で上回っている側の自己資本のほうが、将来の減損リスクを内側に抱えている。この逆転は、比率という一つの数字だけを眺めていては見えてこない。

そしてキオクシアの場合、財務体質の改善は市況とほぼ同じ波形を描いてきた。単価が上がれば自己資本は厚くなり、下がれば薄くなる。裏返せば、いま見えている健全さは市況局面に強く依存した姿である。

私が気にしたいのは、次の下降局面でこの比率がどこまで守られるかだ。欠損を消した経験は財務の履歴に残るが、耐性そのものを保証してくれるわけではない。

株価が大きく伸び、そこから急速に巻き戻る過程で市場が試していたのは、たぶんそこだったのではないだろうか。

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