「米国債の金利が魅力的なのはわかる。でも、この超円安で買うのは怖すぎる……」
2026年7月現在、米国債(10年物)の利回りは4.6%前後と魅力的な高水準にあります。
株式のリスクプレミアムが低下する中、資産の一部を国債へシフトさせたいと考えるのは自然な流れです。しかし、足元の為替は1ドル=162円台。誰もが購入を躊躇するレベルの円安です。
筆者は銀行員時代、米国債で運用する変額年金などの提案を通じて、数多くのお客様の資産運用をお手伝いしてきました。
その経験からも「外貨建て資産への投資は、金利の高さではなく、将来の『許容できる円高の限界値(損益分岐点)』を知ることから始まる」ということをしっかりお伝えすべきだと思っています。
そこで今回は、米国債投資における具体的な「損益分岐点」を算出してみます。
ちなみに、新発10年債の指標金利は現在4.6%前後で推移していますが、実際に私たちが市場で手に入れられる残存10年弱の「既発債」ゼロクーポン債の利回りは4.2%程度です。
この記事では、額面以下(アンダーパー)で買える「利回り4.2%」の米国債を想定し、10年後にいくらまでの円高なら元本割れせずに「勝ち」で終われるのか、リアルな計算式をお見せします。
【米国債】「利付債」・「ゼロクーポン債」とは?
米国債は大きく「利付債」と「ゼロクーポン債(ストリップス債)」の2つに分けられます。
この2つは「利息の受け取り方」が異なります。
【利付債】年2回利息を受け取る
- 年2回、決められた利息(クーポン)が定期的に米ドルで支払われる
- 満期時には額面通りの元本が戻る
- 途中で受け取った利息を再投資しない場合は単利運用となる
【ゼロクーポン債】利息を満期時にまとめて受け取る
- 保有期間中に利息を受け取れない
- 将来の利息分が「購入価格の安さ」としてあらかじめ組み込まれているため、満期金額(額面)より安く投資をスタートできる(例:10年後に1万ドルになって戻ってくるチケットを、いま約34%引きのバーゲン価格で買うイメージ)
- 満期時には額面通りの金額が戻る
- 実質的に利息が自動で再投資され「半年複利」の運用となる
◆現在のような円安局面では、もらった利息をその都度円に戻す(利付債の買い方)よりも、利息を外貨のまま自動で再投資に回し、資産を雪だるま式に増やせる「ゼロクーポン債」の方が、将来的な円高に対する強いディフェンス力を発揮します。そのため、今回のシミュレーションではこのゼロクーポン債をベースに解説していきます。
米国債を購入するメリット・デメリット
米国債投資における基本的なメリットとデメリットを整理しておきましょう。
米国債投資の3つのメリット
- 【安全性】世界最大の経済大国である米国政府が元利金を保証しているため、債券としてのデフォルト(債務不履行)リスクは極めて低いとされている
- 【金利水準】4%を超える高いインカムゲインが期待できる(※日本の10年債利回りは2.6%前後)
- 【値上がりの可能性】将来、米国の金利が下落すると債券の市場価格が上昇。満期償還を待たずに途中売却して利益(キャピタルゲイン)を得るチャンスもある
注意すべき2つのデメリット(リスク)
- 【為替リスク】ドル建てでは元本が保証されていても、日本円に換算した際、購入時より円高が進んでいると円建てで損失が出る可能性がある
- 【金利変動リスク】満期前に途中売却する場合、購入時よりも世の中の金利が上がっていると、債券価格が値下がりしているため売却損が出る可能性がある
【米国債】100万円で「10年×利回り4.2%」のゼロクーポン債を買ったらどうなる?
ここからは、以下の条件でゼロクーポン債(ストリップス債)を購入したとして、将来いくらになるのかを具体的に試算してみましょう。
- 投資予算: 100万円
- 運用期間: 10年(残存年数10年)
- 利回り(複利): 4.2%
- 購入価格(単価): 65.99ドル(※額面100ドルに対して)
- 購入時の為替レート: 1ドル=162円
利回り4.2%の10年物ゼロクーポン債は、将来1万ドルになって戻ってくるチケットを、今なら「6600ドル前後(約34%引きのバーゲン価格)」で買えるという意味になります。
途中の利息が出ない代わりに、この「安く買って満期に満額で戻る」という仕組みが、自動的に「半年複利」の効果を生み出します。
今回の条件(単価約65.99ドル、1ドル=162円)で計算すると、1口(1,000ドル)あたり必要な日本円は約10万6,906円。
予算100万円の中に収めようとすると、購入できるのは「9口」までとなります。
- 実際の投資額(円): 962,150円(残りの約3.79万円は日本円のまま口座に残すとします。)
- 満期時にもらえるドル: 9,000ドル(1口1,000ドル×9口)
つまり、今回のシミュレーションは「手元の約96.2万円を米国債に投資し、10年後に9,000ドルを受け取る」としてスタートすることになります。
円建て損益シミュレーション
では、投資した約96.2万円(5,939ドル)が、10年後の為替レートによって日本円でいくらになって戻ってくるのか、一覧表でチェックしてみましょう。
ストリップス債(半年複利)シミュレーション
※上記は税金や買付手数料、為替手数料等を考慮していない税引前のシンプルな理論値です。
- 56.91円 512,150円 -450,000円
- 61.91円 557,150円 -405,000円
- 66.91円 602,150円 -360,000円
- 71.91円 647,150円 -315,000円
- 76.91円 692,150円 -270,000円
- 81.91円 737,150円 -225,000円
- 86.91円 782,150円 -180,000円
- 91.91円 827,150円 -135,000円
- 96.91円 872,150円 -90,000円
- 101.91円 917,150円 -45,000円
- 106.91円 962,150円 0円 損益分岐点
- 111.91円 1,007,150円 45,000円
- 116.91円 1,052,150円 90,000円
- 121.91円 1,097,150円 135,000円
- 126.91円 1,142,150円 180,000円
- 131.91円 1,187,150円 225,000円
- 136.91円 1,232,150円 270,000円
- 141.91円 1,277,150円 315,000円
- 146.91円 1,322,150円 360,000円
持っている間、利息を受け取ることはできませんが、ドル建てでは元手の約5,939ドルが10年後には9,000ドル(約1.51倍)に勝手に成長してくれています。
もし今後「円高」になっても、1ドル106.91円までであれば損しない計算になります。
満期を待たずに利益を狙う「途中売却」もアリ?
米国債(ゼロクーポン債)は、満期償還まで持ち続けることで、購入時に確定していた利回り(複利効果)を確実に得ることができます。
しかし、必ずしも10年間持ち続ける必要はありません。保有期間中に米国の金利が下がった場合には、途中で売却して利益を確定させるという選択肢もあります。
債券の世界には、
- 金利が下がると、債券の価格が上がる
- 金利が上がると、債券の価格が下がる
という、絶対的な「シーソー関係」が存在します。
もし購入後に米国の金利が低下(利下げ)した場合、保有している「4.2%という高利回りの債券」の価値が市場で相対的に高くなるため、ドル建ての市場価格が跳ね上がります。
ゼロクーポン債は、満期に向かって時間が経つだけでも徐々に価格が上がっていきますが、そこに「米国の利下げ」が重なると、価格上昇に大きなブーストがかかります。
このタイミングを狙って途中売却をすることで、満期を待たずにまとまった「売却益(キャピタルゲイン)」を得るチャンスが生まれるのです。
中途売却時の注意点:「その時の為替レート」に左右される
ただし、満期前の途中売却には注意も必要です。
売却してすぐに日本円に交換する場合は、必ず「その時の為替レート」を確認しましょう。
金利低下によって「ドル建ての債券価格」がどれだけ上昇していても、同時に急激な円高が進行していた場合、円に換算(円転)した段階で値上がり益が相殺されたり、最悪の場合はマイナス(円建てでの元本割れ)になったりする可能性があるからです。
売却益を狙って途中売却をする場合は、「ドル建ての価格上昇」と「為替レート」の両方を天秤にかけ、トータルでプラスになっているかを必ずチェックしてください。
まとめ
「1ドル=162円台」という歴史的な円安の今、米国資産を買うのは一見リスクが高く見えるかもしれません。
しかし、今回シミュレーションした通り、4.2%という利回りを「半年複利」のゼロクーポン債で味方に付ければ、10年後に106円台という超円高に巻き戻っても元本割れしないという「ディフェンス力」を持って投資をスタートできます。
日本の定期預金や個人向け国債よりも一歩進んだ利回りを狙いつつ、株ほどハラハラしたくない。そんな思いを持つ方の選択肢の一つとして米国債をご紹介しました。
投資において「万能な正解」はありません。
大切なのは、ご自身のゴール(目標金額)に対して、どの程度の値動きならハラハラせずに待てるかという「リスクの許容度」を把握すること。今回のシミュレーションを一つの基準として、ご自身のライフプランに最適な運用方法を冷静に見極めていきましょう。
直近1年間の米国債10年物利回り
【免責事項】
- 投資にはリスクが伴います。
- 本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。
参考資料
三菱UFJ銀行・三井住友信託銀行で15年以上のキャリアを築き、自身も20年以上の投資経験を持つ。現在は株式会社モニクルリサーチが運営する『LIMO』でお金に関する記事を企画・執筆・監修中。
