60代を迎え、老後の暮らしが少しずつ視野に入ってくると、自分の年金が世間と比べて多いのか少ないのか、あるいはシニア世代の生活費はいくらくらい必要なのか、といったお金のことが気になり始めるものです。
私が社会保障の専門紙記者として、官公庁が公表する膨大な統計資料や報告書を日々読み解いていた頃、発表される資料の多くは、ニュースの見出しになる「大きな平均値」の影に、小さな文字で書かれた重要な但し書きや分布データが隠されていることを実感していました。
公的なデータは、丁寧に細部を追っていくことで初めて、私たち一人ひとりの生活に実感を伴う情報へと変わります。
本記事では、厚生年金・国民年金の受給額に見られる個人差や、2026年度の年金支給日カレンダーをフラットに整理します。
さらに、65歳以上の無職世帯(夫婦・単身)におけるリアルな家計簿の内訳と、公的年金のみで生活する高齢者世帯の割合を解説し、世間の見えない基準に振り回されることなく、ご自身の足元に目を向けた家計管理を行うための客観的なデータを提供します。
日本の公的年金の仕組み:基本となる「2階建て構造」とは
公的年金は「2階建て構造」だと聞いたことがある人もいるでしょう。
これは、日本の年金制度が「1階部分にあたる国民年金(基礎年金)」と「2階部分にあたる厚生年金」から成り立つためです。
1階部分:国民年金の概要
- 加入対象者:原則として日本に住む20歳以上60歳未満の全員
- 年金保険料:国民年金保険料は全員一律。ただし年度ごとに改定あり(2026年度月額:1万7920円)
- 受給額:保険料を40年間欠かさず納付すれば満額が受け取れる(2026年度月額:7万608円)
国民年金の加入者は第1号被保険者~第3号被保険者にわかれ、このうち第2号被保険者が後述する厚生年金に加入します。厚生年金保険料を支払う人は、別途国民年金保険料を支払う必要はありません。
また、第3号被保険者も保険料の納付義務がありません。
2階部分:厚生年金の概要
- 加入対象者:会社員や公務員、またパートなどで特定適用事業所(※1)に働き一定要件を満たした人が国民年金に上乗せで加入
- 年金保険料:収入に応じて厚生年金保険料が変わる。ただし上限あり(※2)
- 受給額:加入期間や納めた保険料により個人差あり
※1 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※2 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
2026年度の年金支給日カレンダー
公的年金は、原則として偶数月の15日に支給されます(15日が土日・祝日の場合は、その直前の平日)。年金は後払い方式で、前月までの2カ月分がまとめて支払われるという仕組みです。
2026年度の年金支給日と支給対象月を見てみましょう。
2026年度の具体的な年金支給日と対象月
- 2026年4月15日:2026年2月と3月分
- 2026年6月15日:2026年4月と5月分
- 2026年8月14日:2026年6月と7月分
- 2026年10月15日:2026年8月と9月分
- 2026年12月15日:2026年10月と11月分
- 2027年2月15日:2026年12月と2027年1月分
例えば2026年10月15日の支給日には、2026年8月と9月分の2ヶ月分が一度に支給されるということです。
給与を月に一度受け取っていた現役時代とは、家計管理のサイクルも変わってくるでしょう。
厚生年金と国民年金の受給額に見られる個人差
老齢年金の受給額は、現役当時の年金加入状況により個人差が生じます。
厚生年金と国民年金の平均月額をみたのちに、受給額ごとの人数も見ることで、その個人差がどれほどかを見ていきましょう。
厚生年金の平均月額と受給額の分布
出典:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含む
厚生年金の受給額分布(1万円刻み)
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
月額1万円未満から30万円以上と、幅広い受給額に分布していることがわかります。
国民年金の平均月額と受給額の分布
出典:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
国民年金の受給額分布(1万円刻み)
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
国民年金の平均年金月額は全体で5万円台となりました。男性は6万円台、女性は5万円台と、ほんのわずかですが男女差が見られます。
ボリュームゾーンを見ると、多くの人が満額に近い年金額を受け取っていることがわかります。
厚生年金ほどではありませんが、国民年金においても月額1万円未満~7万円以上と個人差がみられます。
65歳以上・無職の夫婦世帯における家計収支の実態
この章では、65歳以上無職の夫婦世帯と単身世帯のひと月の家計収支を見ていきます。
総務省が公表する「家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要」を参考にしましょう。
出典:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
収入の内訳
- 実収入:25万4395円
- うち社会保障給付:22万8614円 ※主に年金
支出の内訳
- 実支出:29万6829円
- うち消費支出:26万3979円
消費支出とは、いわゆる生活費のことです。内訳は以下のとおりです。
- 食料:7万8964円
- 住居:1万7739円
- 光熱・水道:2万3540円
- 家具・家事用品:1万1237円
- 被服及び履物:5354円
- 保健医療:1万7941円
- 交通・通信:3万1325円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万6538円
- その他の消費支出:5万1341円
- うち諸雑費:2万2047円
- うち交際費:2万3257円
- うち仕送り金:1135円
なお、非消費支出は3万2850円となっており、内訳は次のとおりです。
- 直接税:1万2547円
- 社会保険料:2万296円
この夫婦世帯の場合、ひと月の実収入25万4395円に対し、支出は合計29万6829円で、月の家計収支は4万2434円の赤字となっています。
65歳以上・無職の単身世帯における家計収支の実態
続いて、単身世帯の家計収支も同様に見ていきましょう。
出典:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
収入の内訳
- 実収入:13万1456円
- うち社会保障給付:12万212円 ※主に年金
支出の内訳
- 支出:16万1435円
- うち消費支出:14万8445円
消費支出の内訳は次のとおりです。
- 食料:4万2545円
- 住居:1万1416円
- 光熱・水道:1万5565円
- 家具・家事用品:6069円
- 被服及び履物:3049円
- 保健医療:8388円
- 交通・通信:1万3601円
- 教育:0円
- 教養娯楽:1万6132円
- その他の消費支出:3万1681円
- うち諸雑費:1万4052円
- うち交際費:1万6956円
- うち仕送り金:591円
非消費支出の平均は1万2990円でした。
- 直接税:7072円
- 社会保険料:5912円
単身世帯の場合は、ひと月の実収入13万1456円に対し、支出は合計16万1435円で、月の家計収支は毎月2万9980円の赤字となっています。
公的年金のみで生活する高齢者世帯の割合は?
今の高齢者世帯のうち、どれほどが「年金だけで」生活できているのでしょうか。
厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」によると、高齢者世帯(※)の平均的な所得構成では63.5%を「公的年金・恩給」が占めており、次いで仕事による収入である「稼働所得」が25.3%、「財産所得」が4.6%となっています。
「公的年金・恩給を受給している世帯」に絞ると、収入のすべてが「公的年金・恩給」である世帯は43.4%となりました。
※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯
総所得に占める公的年金・恩給の割合別世帯構成
出典:厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯:43.4%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が80~100%未満の世帯:16.4%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が60~80%未満の世帯:15.2%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が40~60%未満の世帯:12.9%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20~40%未満の世帯:8.2%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20%未満の世帯:4.0%
半数以上の世帯は、公的以外の何等かの収入で補填している実態がうかがえます。
【元記者の視点】統計の「平均値」に惑わされず我が家のバランスを知る
かつて記者時代に多くの統計報告書を取り扱ってきた中で、資料の末尾にある統計の解説文や注釈を細かく読み進めると、常に「平均値はあくまでひとつの指標であり、個々の家計の実態は分布のばらつきの中にこそある」という事実に突き当たりました。
本記事の前半で紹介した、夫婦世帯や単身世帯における「毎月数万円の赤字」という家計簿データは、国が公表するマクロな標準モデルです。
しかし、この数字を見て「自分のやりくりが平均より下手なのではないか」と、過剰に自分を責めてしまうシニア層の方もいるかもしれません。
データが示している本当のメッセージは、制度を批判することでも、他人の貯蓄額を羨むことでもありません。「年金だけで日々の生活費のすべてを賄うのは構造的に難しいケースが多い」という事実をあらかじめ客観的に知っておき、ご自身の状況に合わせて不足分をどう計画的に取り崩していくか、冷静に準備を進める重要性を教えてくれています。
まとめ:偶数月の15日に実際の「手取り額」を確認し、月の赤字を計算する
公的な統計データが明確に示している通り、65歳以上の無職世帯において、年金収入だけで毎月の生活費がすべて収まるケースは決して多数派ではありません。手元の貯蓄から少しずつ補填していくのは、現在の標準的な暮らしの姿といえます。
もし、ご自身の年金額が同世代の平均と比べて少ないのではないかと不安を感じた時は、他人のデータは一旦見ないようにしましょう。
そして、偶数月の15日になったら、実際の通帳(または銀行アプリ)を確認し、社会保険料や税金が差し引かれた後の「2カ月分の手取り年金額」を半分に割って、1カ月あたりのリアルな手取り額を算出してください。
比較すべき相手は世間の平均値ではなく、ご自身の「手取り年金」と「毎月の固定費」の差額です。毎月いくら貯蓄を取り崩せば生活が回るのかを事実ベースで確認すること。このシンプルな習慣を身につけることこそが、老後の不安を消し去り、大切な資産を安全に管理するための第一歩となるでしょう。
参考資料
元厚労省担当の専門紙の新聞記者。公的社会保障(年金・医療・介護)やNISA・iDeCoを横断分析。難解な一次データを生活者視点に翻訳し、知っておきたい家計防衛の知見と、安全で実用的な情報を提供。
